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32.ムラムラとメラメラの違い
しおりを挟む「うわっ、見ろよ希代。あのピンクの服を着た女が黒いワンピースの女の足をワザと踏んだぞ」
田島さんがウキウキと私に言うのでチラリとそこに視線を移せば、圭くんの隣りに誰が立つかで揉めているらしく。彼の死角となる位置で激しい攻防戦が繰り広げられている。
「ピンクの服の人、黒じゃなくて花柄スカートの人の足を踏んでるみたいですけど」
「おうよ、ピンクの女、かなり頑張っててさ、さっきからターゲットを順繰りに変えて攻めてるみたいだぞ。いっそ余興代わりにキャットファイトでも始めてくんないかなあ。ていうかさ、位置的に俺らには見えちゃう行動じゃん?でも、御門さんにさえ見られなければOKという考えが凄いよな。俺らの中に御門さんと懇意にしている人間がいて、チクられるとか思わないんだろうか?なあ、龍と希代」
これはきっと、私達に告げ口しろと言っているのに違いない。しかし、龍はピンクの服の人を知っているらしい。
「アレ柘植さんっていうんですよ。ほら、田島さんも覚えてませんか?未来がいた時に堂々と御門さんに愛の告白をして玉砕した…そして、富樫副社長に説教されてたあの女性ですよ」
「う、あっ、あいつ?!すげえ、まだ頑張ってんのか。もう彼氏でも作って諦めたと思ったよ」
そんなに年季の入った筋金入りの女性なのか。驚いていると、龍が真面目な顔をして言う。
「ずっと御門さんには彼女がいないので、彼女でも作れば柘植さんも諦められるのでしょうが。或いは御門さんが意中の相手から振られたら、諦めて柘植さんと付き合うのかもしれません」
「へ?あの御門さんが片想いしてるってこと?あんな人に惚れられて断る女なんかいないだろ」
田島さんの言葉を聞きながら、私はふと思った。圭くんと付き合うということは、あの彼女たち…いや、世間の人々を納得させるような女性にならなければいけないのではないかと。ううむ、私には荷が重すぎる…。そう思ったのが表情に出てしまったのか、龍が私にしか聞こえないような声で呟く。
「な?俺にしとけって」
確かに龍ならそこまでの女っぷりを求められることも無いはずだし、一緒にいてもラクだろう。でも、…ここ数日で私の気持ちは傾いていた。圭くんを守りたい、だってあの人、外見が凄いだけで中身は凄く普通なの。結構地味な生活が好きで…いや、住んでる所はアホみたいに豪華だけれども、でもそれも本人の意志でそうなったワケじゃなくて、とにかくごく一般的な暮らしに憧れてるんだよ、彼ッ。
ギャアギャア騒ぐアマゾネスたちの群れを眺めていたら、無性にムラムラしてきた。ムラムラ?違うな、メラメラだ。こら、私ッ!大違いだっつうの!!きっと彼は困ってる。一生懸命断っているのに、それでも聞く耳を持たないバカ女共に。
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