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31.宴のはじまり

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「えっと、…します」
「俺、これから未来を見て笑わないようにするよ。紛らわしいことしてゴメン」
「えっ、謝らせるつもりなんて無かったのっ。その、たぶん嫉妬したのかも…」
 
 一瞬だけ動きを止めた圭くんは、そのまま驚くほど口元を緩めニヤニヤ笑い出す。
 
「へー、ほー、そっか、そういうことか。なんかさ、キヨちゃんって本当に素直だよね。そういうのを隠そうともせずにペラペラ喋っちゃうところとか、結構好きかも」
「うっ、圭くん『好き』って言い過ぎだし」
 
 私も忙しい女だな。勝手に思い詰めて、勝手に落ち込んでおいて、その数時間後にはもう解決して笑ってるとかさ。
 
「あ、そう言えばさ、来週の金曜にウチの会社恒例の食事会が有るんだ。これが毎回、取引先の関係者を招待するルールになっててね。今回はYMシステムサポートの番らしい」
「ウ、ウチの会社?」
 
 そう言えば田島さんがそんなことを話していたような気もする。
 
「キヨちゃんはデジタルコンテンツ部へ異動後、初の参加になるよね?だから先に言っておくよ。俺、一部の女性社員に絡まれてるかも。その、モテ自慢だと誤解されると嫌なんだけど、なぜか俺って女性社員の標的にされることが多くて、断ってるのにしつこく付き纏われるんだ。だから、キヨちゃんに被害が及ぶのも怖いし、食事会の間はなるべくキミに話し掛けないようにする。そういう理由で別に他意は無いから」
「はい、分かりました」
 
 
 
 
 
 ──そしてアッという間に食事会当日。
 
 圭くんの周辺は物凄いことになっていた。えっと、ほら、アレだ。その昔、ビートルズが来日した時みたいな?いえ、勿論私はリアルタイムでは見てないですよ。だけど、よくテレビでモノクロ画像が流れてるでしょ?なんかアレってさ、もう途中で騒ぐことが目的みたいになっちゃってて、本人たちは置き去りになってません?
 
 ホントあんな感じ。
 
 すごく綺麗な女性社員たちが、圭くんを囲んでひたすらキャーキャーと大騒ぎ。人数は5…あ、ひとり増えたから6人だけど威圧感というか何というか、物凄くおどろおどろしい雰囲気がこちらにも伝わってくるような。その光景を、少し離れた場所から龍と一緒に眺めている私。訂正、龍と2人っきりでは無くて、富樫副社長を除くデジタルコンテンツ部の男性たち全員がココに集っている。
 
 毎回趣向を凝らすという評判どおりに、食事会はホテルで海を眺めながらガーデンパーティーとなったのだが、残念ながら夜なのでどこを見ても真っ黒だ。誰だよ、企画した人。立食なのに狭いし、寒いし、料理も上品過ぎて食べた気しないし、とっても磯臭いし、何から何まで残念なんですけどッ。
 
 
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