好きですけど、それが何か?

ももくり

文字の大きさ
1 / 35

こんな感じのプロローグ

しおりを挟む
 
 
 相性の悪い人というのは確実に存在するらしい。
 私の場合、それが前田諒まえだ りょうなのだ。

 勤務先のYMシステムサポートは、聞けば10人中10人が『知っている』と答える大企業の御曹司である羽柴満氏が、親友の富樫裕斗氏と仲良く興した会社で。会社自体の歴史も若いが、そこに勤める社員も皆、若い。親の威光を隠そうともせず、そのツテで受注しまくった社長の営業力と、1つの仕事から枝葉を広げる副社長のヒアリング能力の高さが功を奏し、ここ数年で急成長しているのだが、如何せん、それに対応するための人材が不足気味で。

 どんなに仕事を貰っても、それをこなす人間がいなければ意味が無いからと、漸く総務部へのテコ入れが始まったのが数年前のこと。副社長自身が現場で辣腕を振るい出したこともあり、その秘書だった迫田さんが自ら望んで総務部に期間限定で在籍し、“人材開発課”なるものを作った。
 
 まあ、早い話が迫田さんが鬼の様にヘッドハンティングしてくる人達のスキルを正確に把握し、どの部署に配属するかを精査するのだが、もし、スキルに欠けている部分があれば研修などで補いサポートするという役目だ。この場合のスキルというのは、業務に必要となる専門スキルだけでは無く、コミュニケーションスキル等も含むので、研修も多種多様だ。外部から講師を招くことも有るし、内部の社員が研修を企画することも有る。

 他部署からは『総務部ってラクでいいよね』とよく言われるが、『それならやってみろ』と反論したくなるほど重責だ。自分に知識が無ければ人に教えることは出来ないため、人材育成関係の書籍を読み漁り、暇さえあれば講演会にも参加し、他社の人事担当との連携も密に行なう。
 
 こんなに身を粉にして頑張ってもその成果は傍目からはあまり理解されず、いつまで経ってもゴールの見えないマラソンのような仕事なのである。だからというワケでも無いが、人材開発課内の繋がりは非常に強く、在籍している10人の社員は皆んな仲が良い。

 私と前田以外は。

 迫田さんの鶴の一声で人材開発課が発足したため、選ばれた社員はその半分が新入社員で、私もその中に含まれる。同期が5人、しかも社会人になったばかりとなれば和気藹々とするのは当然だ。男性3:女性2という割合から考えると、1組くらいカップルが成立してもおかしく無いのだが、残念ながらそうはならなかった。

 どいつもこいつも私では無い方の女子…その名を佐々岡マリというのだが、このマリちゃんを全員で奪い合うという構図がいつの間にか出来上がっており、私なんぞは蚊帳の外という感じなのである。
 
 いや、分かる。だってマリちゃんは『サザ●さん』でいうところの『かおりちゃん』的な存在で、私は『花沢さん』的位置づけなのだから。せめて『早川さん』と書きたかったけれども、そんなことは虚しいので止めておく。っていうか、マドンナとして『かおりちゃん』がいるのに『早川さん』は要らなくない?いや、それよりも『花沢さん』の扱い、雑じゃない?いつもオチに使われちゃって、同じ女子なのに可哀想で見ていられないんですけどっ!

 ゼエゼエ…、えっと、話を元に戻そう。

 そもそも前田の方が私を嫌っているのだ。あれは忘れもしない、人材開発課に配属されて1カ月が経過した頃。休憩室で同期男性3人がこんな会話をしていた。

「佐々岡さんも千脇さんも彼氏いないんだってさ。どっちかと付き合っちゃおっかな」

 その声はたぶん、チャラ男の北村くんで。それに対して見た目は政治家みたいな宮丸くんが真面目な口調でこう答える。

「佐々岡さんは優等生タイプでちょっと近寄り難いかな。千脇さんの方が話し易くて一緒にいても楽しいよね」

 休憩室のドアノブを握ったまま、中に入れずにいた私はその言葉に『いいぞ宮丸!』と浮かれていたのだが、後に続いた前田の言葉で叩きのめされる。

「うーん、千脇は無いな」

 いや、別にモテたかったワケでは無い。だが、女性としての自分を即座に否定されたことが殊の外ショックだったらしく、私はその後に続けられた理由を必死で聞こうとした。

「上手く言えないんだけどさ、なんか恋愛対象として見れないんだ」
 
 『なんか』って何?
 そんな曖昧な理由で私を切り捨てるの?

 納得いかないのは私だけだったようで、どうやら日頃から意見が的確だと評判の前田に、他2名は巻き込まれる形で賛同し。その時から私の扱いはとても軽くなってしまう。

 とにかくこの前田という男は、長身で整った顔立ちをしており、無愛想に見えて実は優しいというギャップに隠れファンも多いが、何故か私にだけは冷たい。例えば、マリちゃんと私が2人揃って講習に配布するための資料を大量に運んでいると、マリちゃんの分だけ奪って運んだり。私がサーモンピンクのブラウスを着ていたりすると『その年齢でピンクは無いよなあ』と貶すのだ。




「…千脇?鍵を開けるの遅いよ」
「ごめん、ちょっと先にシャワー浴びてて…」

「今日のご飯なに?おっ、餃子じゃーん」
「うん、大量に作ったからたくさん食べて」


 何が驚いたって、そんな前田と酔った勢いで一夜を共にし、そのままズルズルと2年も関係を続けていることが

 私史上最大のミステリーだ。

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫
恋愛
 蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……

【完結】ディープキス

コハラ
恋愛
酔った勢いで3才年下の草食系眼鏡男子、森山君(29)とキスをしたゲームディレクターの春川葵(32)はその日から彼に翻弄されるのだった。森山君と乙女ゲームのシナリオを書く事なり、一週間ホテルで缶詰めになる二人だったが……。果たして二人の恋の行方は? ―――――――――――― イラストは生成AIにて作成

契約結婚のはずが、御曹司は一途な愛を抑えきれない

ラヴ KAZU
恋愛
橘花ミクは誕生日に恋人、海城真人に別れを告げられた。 バーでお酒を飲んでいると、ある男性に声をかけられる。 ミクはその男性と一夜を共にしてしまう。 その男性はミクの働いている辰巳グループ御曹司だった。 なんてことやらかしてしまったのよと落ち込んでしまう。 辰巳省吾はミクに一目惚れをしたのだった。 セキュリティーないアパートに住んでいるミクに省吾は 契約結婚を申し出る。 愛のない結婚と思い込んでいるミク。 しかし、一途な愛を捧げる省吾に翻弄される。 そして、別れを告げられた元彼の出現に戸惑うミク。 省吾とミクはすれ違う気持ちを乗り越えていけるのだろうか。

叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家 結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。 愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。

俺様外科医の溺愛、俺の独占欲に火がついた、お前は俺が守る

ラヴ KAZU
恋愛
ある日、まゆは父親からお見合いを進められる。 義兄を慕ってきたまゆはお見合いを阻止すべく、車に引かれそうになったところを助けてくれた、祐志に恋人の振りを頼む。 そこではじめてを経験する。 まゆは三十六年間、男性経験がなかった。 実は祐志は父親から許嫁の存在を伝えられていた。 深海まゆ、一夜を共にした女性だった。 それからまゆの身が危険にさらされる。 「まゆ、お前は俺が守る」 偽りの恋人のはずが、まゆは祐志に惹かれていく。 祐志はまゆを守り切れるのか。 そして、まゆの目の前に現れた工藤飛鳥。 借金の取り立てをする工藤組若頭。 「俺の女になれ」 工藤の言葉に首を縦に振るも、過去のトラウマから身体を重ねることが出来ない。 そんなまゆに一目惚れをした工藤飛鳥。 そして、まゆも徐々に工藤の優しさに惹かれ始める。 果たして、この恋のトライアングルはどうなるのか。

処理中です...