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こんな感じのプロローグ
しおりを挟む相性の悪い人というのは確実に存在するらしい。
私の場合、それが前田諒なのだ。
勤務先のYMシステムサポートは、聞けば10人中10人が『知っている』と答える大企業の御曹司である羽柴満氏が、親友の富樫裕斗氏と仲良く興した会社で。会社自体の歴史も若いが、そこに勤める社員も皆、若い。親の威光を隠そうともせず、そのツテで受注しまくった社長の営業力と、1つの仕事から枝葉を広げる副社長のヒアリング能力の高さが功を奏し、ここ数年で急成長しているのだが、如何せん、それに対応するための人材が不足気味で。
どんなに仕事を貰っても、それをこなす人間がいなければ意味が無いからと、漸く総務部へのテコ入れが始まったのが数年前のこと。副社長自身が現場で辣腕を振るい出したこともあり、その秘書だった迫田さんが自ら望んで総務部に期間限定で在籍し、“人材開発課”なるものを作った。
まあ、早い話が迫田さんが鬼の様にヘッドハンティングしてくる人達のスキルを正確に把握し、どの部署に配属するかを精査するのだが、もし、スキルに欠けている部分があれば研修などで補いサポートするという役目だ。この場合のスキルというのは、業務に必要となる専門スキルだけでは無く、コミュニケーションスキル等も含むので、研修も多種多様だ。外部から講師を招くことも有るし、内部の社員が研修を企画することも有る。
他部署からは『総務部ってラクでいいよね』とよく言われるが、『それならやってみろ』と反論したくなるほど重責だ。自分に知識が無ければ人に教えることは出来ないため、人材育成関係の書籍を読み漁り、暇さえあれば講演会にも参加し、他社の人事担当との連携も密に行なう。
こんなに身を粉にして頑張ってもその成果は傍目からはあまり理解されず、いつまで経ってもゴールの見えないマラソンのような仕事なのである。だからというワケでも無いが、人材開発課内の繋がりは非常に強く、在籍している10人の社員は皆んな仲が良い。
私と前田以外は。
迫田さんの鶴の一声で人材開発課が発足したため、選ばれた社員はその半分が新入社員で、私もその中に含まれる。同期が5人、しかも社会人になったばかりとなれば和気藹々とするのは当然だ。男性3:女性2という割合から考えると、1組くらいカップルが成立してもおかしく無いのだが、残念ながらそうはならなかった。
どいつもこいつも私では無い方の女子…その名を佐々岡マリというのだが、このマリちゃんを全員で奪い合うという構図がいつの間にか出来上がっており、私なんぞは蚊帳の外という感じなのである。
いや、分かる。だってマリちゃんは『サザ●さん』でいうところの『かおりちゃん』的な存在で、私は『花沢さん』的位置づけなのだから。せめて『早川さん』と書きたかったけれども、そんなことは虚しいので止めておく。っていうか、マドンナとして『かおりちゃん』がいるのに『早川さん』は要らなくない?いや、それよりも『花沢さん』の扱い、雑じゃない?いつもオチに使われちゃって、同じ女子なのに可哀想で見ていられないんですけどっ!
ゼエゼエ…、えっと、話を元に戻そう。
そもそも前田の方が私を嫌っているのだ。あれは忘れもしない、人材開発課に配属されて1カ月が経過した頃。休憩室で同期男性3人がこんな会話をしていた。
「佐々岡さんも千脇さんも彼氏いないんだってさ。どっちかと付き合っちゃおっかな」
その声はたぶん、チャラ男の北村くんで。それに対して見た目は政治家みたいな宮丸くんが真面目な口調でこう答える。
「佐々岡さんは優等生タイプでちょっと近寄り難いかな。千脇さんの方が話し易くて一緒にいても楽しいよね」
休憩室のドアノブを握ったまま、中に入れずにいた私はその言葉に『いいぞ宮丸!』と浮かれていたのだが、後に続いた前田の言葉で叩きのめされる。
「うーん、千脇は無いな」
いや、別にモテたかったワケでは無い。だが、女性としての自分を即座に否定されたことが殊の外ショックだったらしく、私はその後に続けられた理由を必死で聞こうとした。
「上手く言えないんだけどさ、なんか恋愛対象として見れないんだ」
『なんか』って何?
そんな曖昧な理由で私を切り捨てるの?
納得いかないのは私だけだったようで、どうやら日頃から意見が的確だと評判の前田に、他2名は巻き込まれる形で賛同し。その時から私の扱いはとても軽くなってしまう。
とにかくこの前田という男は、長身で整った顔立ちをしており、無愛想に見えて実は優しいというギャップに隠れファンも多いが、何故か私にだけは冷たい。例えば、マリちゃんと私が2人揃って講習に配布するための資料を大量に運んでいると、マリちゃんの分だけ奪って運んだり。私がサーモンピンクのブラウスを着ていたりすると『その年齢でピンクは無いよなあ』と貶すのだ。
「…千脇?鍵を開けるの遅いよ」
「ごめん、ちょっと先にシャワー浴びてて…」
「今日のご飯なに?おっ、餃子じゃーん」
「うん、大量に作ったからたくさん食べて」
何が驚いたって、そんな前田と酔った勢いで一夜を共にし、そのままズルズルと2年も関係を続けていることが
私史上最大のミステリーだ。
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