好きですけど、それが何か?

ももくり

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無事、解決?(前田side)

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 ※引き続き前田sideです。
 
 
 
「あはは」
 …って、笑ってるぜ、おい。

 元々スケジュールには組み込まれていなかったのに、こうして姿を現したのはどうやら迫田さんからの報告を受けて様子見に来てくれたようだ。早々にこちらの支店長へ挨拶を済ませ、館内をグルリと視察した後で急に笑い出した富樫副社長に驚いていると、彼は突然真顔でこう言った。

「なんだかバランス悪いよね、この支店。東京本社からの中堅組と地元組とで溝が出来ているというか、誰がボスかハッキリしていないから互いに牽制し合っている感じかな。ウチの会社も創業当時はモメてさ、かなり苦労したんだ。

 そういう時は仲良しグループを一旦バラして、ランダムに組み合わせたチームでディスカッションさせるといい。人事って深いよね、能力だけではどうにもできない“相性”というものが有るから。仲良し同士で仕事が捗るとは限らないし、かと言って不仲でも捗らない。ほんと難しいと思う、特にゼロからスタートする職場は」

 悔しいけど一理あるので素直に『ハイ』と返事をし、早速その手配を開始した。その際、富樫副社長からの提案により別館で働いている物流部の男性社員もこちらで研修することに。別館の方は、こちらとは対照的に男性の方が多く、彼らにもコンプライアンス研修を数回に分けて行なう予定だったのだ。

「どうせ彼らも開業まではヒマだろうし、コンプライアンス以外の研修も全部こっちでさせるといい」
「え…っ、でも、そうなると別館の方が手薄になりませんか?別館といってもほぼ倉庫なので、商品を棚に片付けたり、それに属する作業がまだたくさん残っていると思うんですか」

「物流部の男性社員をこっちで研修させて、それが終わったら逆にこっちの女性社員を別館に向かわせて商品整理の手伝いをさせればいいんじゃないか?どうせ別館の見学も予定には入っているんだろう?」
「はい、確かにそうなんですけど…」

 ここですぐ傍にいた迫田さんが『クククッ』と笑い出した。訝し気にその顔を見つめると、彼は愉快そうに説明を始めるのだ。

「前田くんしか独身男性がいないから集中するワケで、だから物流部の男性社員もいるぞと提案するんだよ」
「へ?ああ!そういうことですか」

「もちろん、女性社員の中には仕事優先でそんな色恋に興味の無い人もいる。だけど職場を未来の旦那様探しの場だと勘違いしている女性も少なからずいて、哀しいことにそういう人の方が目立ってしまうんだな。で、そういう姿を見て何故かそうじゃなかった人も焦り出す…大抵こういうのは連鎖するからね。彼女達は結婚したいんだけど誰でもいいワケじゃなくて、本当に好きな相手と結婚したいんだよ」
「なるほど」

 どうせ残り2カ月でこの地を去ってしまう俺なんかよりも、このまま地元にいて、しかも仕事面でも接点の多い物流部の男性社員の方が彼女達からしてみればずっと魅力的だろう。そっか、そっか。



 …そして数日後。

 富樫副社長の目論見どおりこちらの女性社員と別館にいる男性社員達とを顔合わせしたところ、最初は互いにギクシャクしていたものの、回を重ねる毎に打ち解けていき。そのうち仕事終わりに飲みに行くようになったらしく、俺が誘われることはほぼ無くなり、あの女王とエロ女も次なる標的を見つけたようでこちらへの執着は嘘みたいに消えてしまった。

 生活が安定すると仕事も順調になって、ここで漸く俺は千脇へ連絡することを思い立つ。まあ、何と言うか、いつも職場で本人に直接会って約束なんかは取りつけていたから、電話なんて滅多にしたことが無かったし、それどころかLINEもメールも苦手だ。願わくば向こうから電話してくれると嬉しいのだが、きっとアイツのことだ、俺が多忙だからと遠慮して連絡することを我慢しているのだろう。

 プルルルル…。

 出ない。でもまあ、入浴中なんかで応答出来ないことも有るだろうと時間をずらして何度か掛けたが、それでも出ない。

 スマホをロッカーに忘れて帰宅したのかも。
 カバンごと置き引きに遭ったのかも。
 駅のホームに落としてしまったのかも。

 次から次へと応答しない理由を考えてみたが、本当はそのどれでも無かったということを俺が知るのは…更にその数週間後のことである。

 
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