26 / 35
俺、戦利品と化す(前田side)
しおりを挟む※ここからは前田視点でお送りします。
女、怖い。
女、メチャクチャ面倒臭い。
今回の仕事相手は、女性下着の製造と販売がメインの会社だ。そこの通販部門のみを独立させ、福岡に支店を作る運びとなったのは、税金対策として利点が多かったことと、もともと社長自身が福岡の中でも比較的長閑なこの土地の出身で、自治体からの熱烈な勧誘に応えた結果だと聞いた。
取り扱う商品が女性下着ということも有り、社員の男女比率が圧倒的に女性多めとなってしまうのは当然のことで。福岡支店でも、地元採用組が52人、東京本社から中堅どころが12人も異動して来たのだが、そのうち男性は僅か10人のみ。しかもその殆どが既婚者とくれば、女性達がどんどん強くなってしまうのは仕方のない話で。既に派閥も複数存在しているらしく、どうやらその中で奪い合いを始めたようなのだ
──この俺を。
「さ、迫田さん、今晩も泊めて貰っていいですか?」
「あはは、またなのかい?いいよ、おいでおいで」
3カ月限定のウィークリーマンション生活。幸いなことに迫田さんと同じマンションだったのだが、手配してくれたのが先方の総務だったせいか、本社からの移動組も同じマンションで。両隣のいかにもキャリアウーマンという感じの女性社員2人が、毎夜攻めてくる。左隣はプライドが高そうな女王様タイプ、右隣はフレンドリーなんだけど誰とでも寝ていそうな…いや、実際にそういう目撃談多数のエロ女タイプ。
この2人、どうやら同期でかなり以前に1人の男を取り合ったそうで。その男は結局、どちらとも付き合わず別の女性と結婚したらしいが、それ以来の因縁の関係なのだと。
いや、だからってリベンジに俺を巻き込むのはどうかと思うし、ヘトヘトに疲れて帰宅すると鍵を開けた瞬間に女王とエロ女が飛び出してくるって、どうよ?一応こっちは下請けという立場だからと下手に出れば調子に乗りやがって、不気味な手作り料理を持って来たり、一緒にDVDを観ませんかと誘ってきたり、なんかもうノイローゼになりそうだ。
勿論、婚約していることは伝えたが、それはどうでもイイのだと。女王はエロ女にしか関心無いし、エロ女は女王にしか興味が無いようなので、早い話が俺は単なるダシだ。つまり、相手に勝った時の分かり易い戦利品という位置付けなのだろう。
それでも入居1カ月もすればこっちも慣れてきたもので、開錠の音を立てずに中に入るというワザを習得したが、残念なことにこれは1週間しか利かなかった。ベランダから俺の部屋を覗き、照明が点いていれば突撃してくるようになったからだ。テレビもつけず、電話の電源も切ってシャワーも朝に入るようにしていたのに。俺にはもう、人間らしい生活を送ることすら許されてはいないのか?
「可哀想になあ。俺からもさり気なく注意したんだよ、『前田くんのプライベートを奪わないでください』って。でも聞く耳もたないんだあの2人。既に本社の方には報告済で、前田くんだけ住まいを替えて貰うことになっているんだけど、この時期どこも満室みたいでさ。空き部屋が出次第ってことになってるから、それまでは遠慮なく俺のところにいればいいから」
「迫田さん…。本当にすんません」
きっと迫田さんも迷惑に違いない。だってワンルーム6畳の部屋に男2人って、息苦しいにもほどが有る。迫田さんの部屋と取り替えるという案も出たが、そうしてもきっと突撃はされるだろうし、意味が無いという話になった。
「そう言えば今日は遅い帰宅だね。何かトラブルでも発生したのかい?」
「いえ…、そうじゃないんですが先日、百田さんたちのグループに誘われて飲みに行ったでしょう?それをどこからか聞きつけたみたいで、『あっちのグループだけズルイ』と責められて仕方なく一杯だけという約束で福島さんたちのグループと飲みに行かされました」
「あ…ああ、そうだったのか。でもそれをすると、次も次もとキリが無いだろう?」
「ええ、もうこの1カ月の間は、飲みに行っていない日を数えた方が早いですよ」
迫田さんが憐みの目で俺を見ている。いいんです、分かっているんです、そういう誘いを上手く断れない己の度量が恨めしいです。でも、集団になると女ってメチャクチャ強くなるからッ。というか、既婚者の中でも一番若い男性社員の里中さんも結構標的にされてて、俺が行かないと彼が1人で奮闘することになるから可哀想で。
「そっか、里中さんが…。うーん、きっと仕事が始まれば忙しくなって彼女たちもそんなヒマは無くなるんだろうけど。今は開業前ですることが無いからきっとヒマなんだよな」
「ええ、そうなんですよ。開業までの辛抱だとは思うんですが」
…と、まあ毎日がこの状態で、俺は千脇のことを考える余裕が無かった。
そう、全然まったく無かったのである。
0
あなたにおすすめの小説
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました!
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました
藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。
そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。
ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。
その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。
仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。
会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。
これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛
春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる