昔の恋を、ちょっとだけ思い出してみたりする

ももくり

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彼の常識

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「最初はね、本物の腹心である剣持さん…、あ、ほら、以前コトリさんと一緒に厨房に来て、私を説得したあの男前ね!とにかくその彼が調査する予定だったんだけど、あまりにも面白そうだったから奪ったのよ。

 ネタ元の小田さんの連絡先だけ、剣持さんから教えて貰ってね。後は私が直接会って話を訊いたの。

 小田さんもフランスで修業したって言うからさ、それでもう意気投合しちゃって。今ではムッシュ・オダとマダム・マリーと呼び合うほどの仲よ。おほほほっ」

 そんな余談は無用とばかりにキッと睨むと、茉莉子ちゃんは再び唇を尖らせて話を続ける。

「新見さん、未だに小田さんとは連絡を取り合ってて、相談なんかもよくしているみたい。小田さんって、すっごく軽い感じで掴みどころが無いように見えて、実は思いやりに溢れているの。茉莉子的にはとても好きなオジサマよ。

 アヤさんも一度会ってみるといいのに。絶対好きになっちゃうわよー」

 …ん。えっと、何の話をしていたんだっけ?
 思考回路がブチッと切れてしまったようだ。

 ここで注文した料理が運ばれて来たので、それを食しながらコトリさんが呟いた。

「それで?結局アヤさんは、私が新見さんと上手くいくよう協力するの、しないの?」
「…ああ、その話をしていたのでした!」

 忘れていた自分にビックリだ。そして私はコトリさんに向かって静かに答えた。

「あの、コトリさん、よく聞いてくださいね。…店長はあまりお勧め出来ません。

 彼は優先順位がおかしいんです。

 私と付き合っていた頃は、他の女から電話で呼び出されるとそちらへ行き、朝まで帰って来ないことなんて日常茶飯事。誕生日に温泉旅行へ連れて行って貰った時も、どこぞの女が電話してきてスグ切るかと思えば1時間も話してた。もう有り得ないでしょ?!」

『それはヒドイ』と同意して欲しかったのに、コトリさんは何故か首を横に振ったのである。

「大丈夫!私、オトコを躾けるのは得意だから」
「し、躾って…。そんなレベルじゃないんです」

 強いな。このドッシリ感は何だ?

「あのね、アヤさん。世の中には色々な人がいるんだよ。

 例えば外国人だと許せるのに、日本人だと許せない。それってスゴクおかしくない??

 生立ちや環境の違いで、自分の常識からズレた人がいるのは当然なの。それを指摘もしないで心の中でだけ文句言って、最初から諦めちゃダメだよー。

 嫌われるのが怖いとか、そういうのは言い訳ね。

 長く付き合っていきたいのなら、直して欲しい部分をきちんと指摘して、互いの認識を擦り合わせないと。もしかして自分が間違っている場合も有るし、相手が素直に非を認めて改善するかもしれない。

 それもこれも、まず話し合わないと。

 アヤさんって新見さんの元カノなんだよね?なのに、彼の過去を初めて聞いたって顔してたし。それって本当に付き合ってたって言えるのかな。

 恋愛の美味しい部分だけ齧ろうとしてない?
 恋愛ってそんな綺麗なモンじゃないよ。

 正面から相手と向き合って、汚い部分を見せられても逃げずに踏ん張る!…そのくらいの覚悟を見せなきゃ。

 ていうかさ、そもそも、ちゃんと言ったの?」

 コトリの勢いに呆然とした私は、思わず茉莉子ちゃんにしがみつく。

「な、何をですか?」
「『他の女の呼び出しに応じるな』って。そう伝えたのに新見さんは出て行ったの?」

「それは…言ってませんけど…。でも、じょ、常識じゃないですか。彼女を置いて他の女と朝まで飲んだりしたら、普通は誰だってイヤですよね?」
「だって茉莉子さんの報告聞いたでしょ?新見さん、普通じゃないんだもん」

 ふぐぐ、と言葉に詰まる私に、コトリさんは尚も攻撃を緩めない。

「チーフとやらにナンパさせられてたとかって。多分それに引っ掛かる女なんてどれも貞操観念ユルユルのビッチばかりだったんじゃない?だから朝まで飲んで何もしない俺ってスゴイ…くらいに思ってたかもしれないわね。

 きっと彼の常識は大きくズレちゃってるのよ。そこんとこ軌道修正してやれば良かったのに」

「わ、私が悪いんですか??だって女友だちにも相談したけど、皆んな声を揃えて『別れろ』って。だから私…」

 なんだかもう、コトリさんには何を言っても敵わない気がする。

 女としての経験値が違い過ぎるのだ。

「ハイハイ。責任転嫁、責任転嫁。恋愛はね、1対1の真剣勝負なのよッ。そこに外野を巻き込むなっつうの!!」
「でもコトリさんだって私を巻き込むクセに!」

 なんだか子供のケンカ状態になってきたぞ。

「私は肝心な事は自分で決めるわよッ。新見さんは閉店後も仕事していたりするし、定休日も仕事で忙しいから、彼のスケジュールをアヤさん経由で聞き出そうと思っただけ!」
「やだ、そんなの教えたくない!直接、店長に訊けばいいでしょッ」

 急に勢いが衰えたかと思うと、コトリさんはボソボソとこう答えた。

「…実は榮太郎様が私を薦めて、もう既に断られているの。新見さん、好きな女性がいるんですって」

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