昔の恋を、ちょっとだけ思い出してみたりする

ももくり

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桃と金太郎飴

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『でも平気!』とコトリさんは言う。

「それってアヤさんのことでしょう?でもアヤさんって今、見習い君と付き合ってるって聞いたから新見さんはフラれたのよね?」
「ええ、結婚して欲しいとまで言われましたが、キッパリ断りましたよ」

 こんな厭らしい言い方、どうしたんだ私?!気を悪くしていないかと彼女の顔を覗くと、コトリさんは呑気にメニューを眺めていた。

「ねえ、茉莉子さんとアヤさんはどうする?あのパスタ、量が少なくて足りなかったわよね。このハーフサイズのパンケーキを食べようかな」

 コトリ無双。

 どんな言葉にも傷つかない、ヘコたれない、なんだこの女のメンタルの強さは?

「じゃあ私はこの紅茶アイスを頼みます。アヤさんはどうしますか?」

 ていうか、茉莉子さんも強いよね?自分をシッカリ持っているというか…。もしかして、他人の意見に左右され、グラグラ揺れまくるのって私だけ?

「…えっと、私、私は…」

 ほら、こんなデザートすらスグに決められない。

 だって全てのメニューに目を通し、ウチの店では決して食べられない…且つ、この店のウリだと思われるものを頼まなければ。敵情視察も兼ねているのだから、ミッチリ調べて帰らないと。

「えっと、じゃ、じゃあ…、この丸ごと桃を1つ使ったパフェで」
「はいはい、じゃあウエイターさんを呼ぶわよ」

 さすが秘書、テキパキしてますね。しかも美しいのでウエイターも見惚れてるし。

 自分の魅力を分かっているコトリさんは、ワザとそのウエイターに微笑み掛け。彼の方も、満更でも無い表情を浮かべながら去って行く。

「チョロイなあ~、ああいう男だとイチコロで落とせるんだけど。でもね、波風の立たない順調な恋愛って死ぬほどツマンナイのよね」

 な、なんだその恋愛上級者みたいな意見は?!そう思ったはずなのに、勝手に頭は頷いていた。

 ツマンナイとか面白いとか、恋愛に対してそんな感想が出るワケないのに。真剣に誰かを好きになり、相手も自分のことを好きになってくれる。互いを思いやり、不安にさせず満ち足りた毎日を送る。

 …恋愛とはそう有るべきなのに。

 店長とのあの狂おしい日々が、安穏とした浦くんとの日々と比べると、とてつもなく輝いていたように思えてしまうのは何故だろう。

 心の底から望んでいたはずの平穏無事な恋愛は、どこを切っても変わらない金太郎飴のようで。ダメ女の私は、既に持て余してしまったらしい。

 もりもりとパンケーキを頬張りながら、コトリさんは私の桃を奪っていく。

「ちょっとちょうだい」
「え…?あ…」

 承諾を得る前に、フォーク突き刺してたよね?しかもこのパフェ、『丸ごと桃を1つ使用した』とかいう謳い文句に偽りアリじゃない??絶対に半分くらいしか使用してないしッ。その貴重な桃を持っていくなんて、ヒドイ!!

 …と心の中では思っても絶対に言えない私。

 仕事ではハキハキしている癖に、それ以外は全然ダメ。私という人間は、初対面の相手に脳内で闘いを挑み。それに負けるとこうして委縮してしまうのだ。

 闘いのポイントは容姿や家柄などでは無く、精神面を重視しているようで。とにかく気の強い相手に弱い。

 昔、母がよくヒステリーを起こしていて、幼い私はそれが異常に怖かった。仕事人間で家庭を顧みない父への不満を、母は娘にぶつけて発散していたようで、ちょっとした失敗でよく怒鳴られたのだ。

 もしかしてこの対人スキルの低さは、母によって形成されたものかもしれない。

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