昔の恋を、ちょっとだけ思い出してみたりする

ももくり

文字の大きさ
12 / 26

私が辛かったこと

しおりを挟む
 
 
 曖昧に笑っていると、桃を刺したコトリさんのフォークがUターンしてくる。

「あーっ、茉莉子さんったら何すんの?!」
「数少ない桃を奪うなんて、お前はジャイ子か」

「えーっ、だってアヤさんがイイって…」
「言ってないよ。私は聞いてない」

 フォークから器へと桃が戻され、ようやく茉莉子ちゃんは掴んでいたコトリさんの手首を解放する。そして、私に向かって語り出すのだ。

「言いたいことが言えない人もいるの。それは弱さじゃなくて優しさだったりもするよ。アヤさん、本当は分かっていたんじゃない?

 新見さんは困った人が放っておけないの。

 私もその優しさに助けられたクチだから分かる。あの人は真性の善人で、そんな彼を困らせたくなくて、アヤさんは我慢したんでしょう?

 残念だけどこの世の中にはね、その善意を逆手に取る女も確実に存在するの。単に店長狙いで架空の悩みを相談したりとかね。

 あの人をこのまま放置しておいたら、おかしな女に騙されるかもしれない。早くシッカリした女性と結婚して貰わないと。アヤさんが復縁しないと言うのなら、私はこのコトリさんでもいいかなと思ってるの。しつこいけど、もう一度訊ねますよ。

 アヤさんは店長とヨリを戻す気は有りますか?それとももう完全に無理なのでしょうか?」

 悔しいけれど『好き』という気持ちだけでは、恋愛は成り立たないのだ。

 だって、もうどうにも出来ないと思ったから別れを切り出したワケで。きっと復縁しても同じことを繰り返し、またすぐダメになるに決まっている。

 悲しいけれどもあの人が私に囁く『好き』は、犬猫に向けて言う『好き』と大差無く。綿菓子よりもフワフワと軽いのである。

 それを証拠に、私と別れて数週間で新しい彼女を作ってしまったではないか。…いや、それ以前に別れをスンナリ受け入れた時点で、その想いの深さが分かるというものだ。

 だいたい、付き合い始めたキッカケだって、店長に優しくされた私が勘違いして暴走し。わざと遅くまで店に残って、2人きりになるようにしたからだし。不自然な態度を取りまくった挙句、最終的には向こうから言わせたのだ。

『ねえ、間違っていたらゴメンね。もしかしてアヤちゃんって俺のことが好き?』
『う…、あの、はいぃ。すごーく好き…です』

『じゃあさ、付き合う?俺たち』
『はいっ、はいっ!喜んでッ』

 いま思えば、そんなボランティア精神で付き合って貰っても長続きするワケ無いのに。あの人の女癖の悪さを知っていながら、『自分だけは違う』と言い聞かせていたのだ。

 ここで自分の本心に気付いてしまい、それを茉莉子ちゃんに伝えることにした。

「…あの、私、多分ね…気付いちゃったんだな、店長が自分のことをそんなに好きじゃないって。だって本当に好きでいてくれたら耐えられたの。

 他の女に呼ばれて出て行っても、誕生日に他の女と長電話しても。誰よりも私のことが好きだって、愛されているんだって自信が有ったらどんなことも我慢したよ?

 でもね、違ったんだな。
 あの人は私なんかに全然興味無い。

 それを認めるのに2年も掛かってしまって。そして、ようやく認めることが出来たから、素直に別れを告げたの。

 あのね、放っておかれるのが辛いんじゃなくて、愛されていないことが辛かったんだよ。だから、復縁は無理です。どうぞコトリさん、店長を幸せにしてください。

 でもまだ自分の中で色々と感情が整理出来ていないので、橋渡しはしません。貴女なら1人でもなんとか頑張れるでしょ?だから私は巻き込まないで欲しいんです」

 ぽとん。

 そこまで言ってふと気付く。
 私は、どうやら泣いていたようだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

抱きしめて

麻実
恋愛
夫の長期に亘る不倫に 女としての自信を失った妻は、新しい出会いに飛び込んでいく。

冷たい彼と熱い私のルーティーン

希花 紀歩
恋愛
✨2021 集英社文庫 ナツイチ小説大賞 恋愛短編部門 最終候補選出作品✨ 冷たくて苦手なあの人と、毎日手を繋ぐことに・・・!? ツンデレなオフィスラブ💕 🌸春野 颯晴(はるの そうせい) 27歳 管理部IT課 冷たい男 ❄️柊 羽雪 (ひいらぎ はゆき) 26歳 営業企画部広報課 熱い女

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

処理中です...