昔の恋を、ちょっとだけ思い出してみたりする

ももくり

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話し合いのススメ

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 茉莉子ちゃんが素早く紙ナプキンをくれて、それで涙を拭いているとコトリさんが喋り出す。

「あのさ、好きじゃないってなんで分かるの?」
「え?…な、なんとなく」

「は?!そんな曖昧な確認方法なの?」
「でも、そんなのいつも一緒にいれば分かるし」

「2年も付き合った彼女が、突然別れを切り出すってさ、それ、かなりダメージ大きいと思うんだけど…」
「でも、すぐに新しい彼女を作ってたし」

「それ、本当に彼女?」

『たぶん』と弱々しく答える私に、コトリさんは瞳孔をカッと開いて喋り続ける。

「新見さんの立場で考えてみるわよ。

 面と向かって『好き』と言えば、それが犬猫に対する気持ちと同じレベルだと。

 そして今までどんな時でもニコニコ笑って2年も一緒にいてくれた可愛い彼女が、何の前触れもなく、ある日突然『もう無理』と去って行く。

 何事かと思うわよねえ?

 私なら驚いて引き留めることも出来ないかも。アヤさん、あなた新見さんと話し合いなさい」


 話し合う??

「あの…コトリさんってウチの店長のことを…」
「ええ、狙っているわよ」

「でも、私と話し合えと…」
「そうよ、アナタたちは職場が同じですからね。毎日顔を合わせるのに未練を残されては困るの。スッキリとした状態で新しい恋愛を始めないと」

 あまりにも自分とは違う人種すぎて、コトリさんをひたすら凝視する。

 すごいよなあ…ここまでズカズカとパーソナルスペースに踏み込んじゃうんだ??

 生きていく上で問題点が発生したら、とことん解決しないと気が済まないんだろうな。

 ここで私がどんなに嫌だと言っても、許してくれないことは分かっていた。それなら、押し問答する時間が勿体ないし、最初からYESと答えておいた方が無難かもしれない。

「…えと、じゃあ明日にでも話し合ってみます」
「ええ、頑張ってね」

 特に『報告しろ』とは言われなかったが、どうにか納得して貰えたらしく。それから一時間程度の雑談をしたあと、ようやく解散した。

 その夕方。

 浦くんと約束していた私は、彼のマンションへと向かう。

 ウチのスタッフは割と仲が良く。飲み会の後に店長の部屋で雑魚寝したり、浦くんのマンションで鍋パーティーをしたり。とにかくよく集っているせいで、彼の部屋へ行くことに抵抗は無いのである。

「いらっしゃい」
「うう、暑いねー。汗だくになっちゃった。あ、これお土産だよ。日本酒なんだ~」

 相変わらず綺麗に整えられた室内はエアコンがガンガンに効いていて、身震いしてしまうほど冷えていた。

「あ、寒い?設定温度を下げ過ぎたかな」
「ううん、全然大丈夫だよ」

 …と言っているのに温度を上げてくれる。うん、こういう分かり易い優しさっていいよね。

 店長と私が付き合っていたことを、浦くんは未だに知らない。きっと私から言うべきなのだろうが、それでこの人と店長がギクシャクしないかと心配なのだ。

 それよりも店長と話し合うって、いったい何を話せばいいのだろうか?もう付き合う気は無いと伝え済だし、鎮火した状態をそれで再燃させるのではないか。

 私はこの忠犬のような浦くんと親交を深め、『平穏無事な恋愛は退屈』だとか贅沢なことをボヤきながら続けていくしかないのだ。

「あ、浦くん。明日は人と会う約束してるから、帰りに送ってくれなくていいよ」
「うん、でも珍しいね、平日に人と会うなんて」

 やましいことなど何も無いのに。疑うことを知らないそのキラキラとした目を見ることが出来ず、思わず逸らしてしまう。

「何?どうした?」
「な、なんでも無い」

 それから浦くんの手作りご飯を食べ、他愛もない話をして。夜9時には自宅に帰り、酔った勢いで店長に電話してしまう。

「アヤ、どうした?」
「ちょっと話が有って。明日、仕事が終わってから大雅のところに行ってもいい?」

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