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おかしな目
しおりを挟む「アヤ…お前、信じられる男だったら初老の爺さんでも付き合うのか?」
「は?!そんなワケないでしょッ」
「…だよなあ。なんかさ、お前、間違った方向に進んでない?」
「なっ、何が??」
そんなことより、いい加減その手を離して欲しい。
「恋愛ってのは好きなことが大前提で、お前と俺は好き合ってる…それも互いに一番だ。なのになんで俺を諦めて、他の男を選ぶワケ?」
「だ~か~らッ。私の話を聞いてましたか??」
「もちろん」
「だったらもう一度言いますよ、店長と付き合っても上手くいかないからですッ」
ようやく私の手首を掴んでいたその手を離し…たかと思うと、その両手を次は私の両肩に乗せ、店長はゆっくりと弧を描くように口角を上げた。
「バアカ、一番好きな相手ってのはな、そうそう見つからないんだぞ?
二番手とか三番手を時間掛けて育てても、それは一番に成り得ない。
あのな…恋愛ってのは妥協出来ないモノなんだ。好きでもない相手と無駄な時間を過ごすなら、本当に好きな相手を教育した方が有意義だぞ。
だってお前、今まで一度も俺に要求とかしてこなかったじゃないか。
俺、直して欲しいと言われたら努力したよ。
何もしてないのに、もう諦めちゃうのか?
なあアヤ、一番好きな相手というのはそんな簡単に見つからない。
俺達は幸いなことに、それを見つけたんだ。だからもっと話し合って、頑張ろうよ。お前の一番は浦じゃなくて、この俺だろう?」
うー、ああっ。
そんな目で見つめられると、アッという間に心を奪われてしまう。強いようでほんの少し滲み出る彼の弱さが、スポンジ状になった胸をギュッと搾り取る。そして瞬時に潤いを奪い去り、この男への恋慕で浸してしまうのだ。
虚勢を張った言葉で攻めて来るけど、
本当は恐れているのでしょう?
…私から拒絶されるんじゃないかって。
どうしてこんなにこの人が好きなんだろう?
信じたい、やり直したいと思う気持ちと同時に、また裏切られたらきっともう次は立ち直れない…そんな恐怖の方がムクムクと膨らんでしまう。
迷い始めた私の手を、そっと誰かが握った。
「浦くん…」
「即答出来ないのは迷っているからでしょう?…大丈夫ですよ、俺は追い詰めたりしないから。納得いくまでジックリ悩むといい。俺はね、アヤさんには幸せになって欲しいんだ。だからそんな困った顔をさせたくない。取り敢えず返事は保留にしてもう帰りましょう」
もう少し若ければ、店長の胸へ飛び込んだかもしれない。でも、私は28歳で。周囲には既婚者になった友だちも増え、子供の写真付き年賀状が届くことも多くなった。
もちろん、頭だけで考えれば浦くん一択だ。結婚しても浮気しそうに無いし、私を一生大事にしてくれるだろう。どうしてこういう男を一番好きになれないのか。つくづく自分で自分が嫌になる。
ゴチャゴチャになった頭を軽く左右に振りつつ、私は店長に向かって言った。
「もう帰ります。店長、おやすみなさい」
「えっ?!ああ、送るよ」
「浦くんに送って貰うから大丈夫です」
「いや、だってしばらくの間は俺とも浦とも保留状態なんだしさ。そこんとこは平等に接して欲しいなあ」
まったくもう、この人は何をゴチャゴチャと。
ここから我が家までは徒歩20分程度の距離だ。そして浦くんは、我が家のすぐ裏にあるアパートの一室を借りている。だから、わざわざ『送ってくれている』のでは無く、帰宅のついでという感じなのだが。
無抵抗でいると、いつの間にか男同士で話は纏まっていて。気まずいとしか言い様の無い3人で、夜道を歩くことになる。しかもなぜか店長と浦くんの2人だけで会話し、内容も仕事のことだったりして。
生きていると、おかしな目に合うものだ。
今まさにその事象の真っ只中にいる私は、彼らに聞かれないよう大きな溜め息をひとつだけ吐いた。
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