昔の恋を、ちょっとだけ思い出してみたりする

ももくり

文字の大きさ
17 / 26

おかしな目

しおりを挟む
 
 
「アヤ…お前、信じられる男だったら初老の爺さんでも付き合うのか?」
「は?!そんなワケないでしょッ」

「…だよなあ。なんかさ、お前、間違った方向に進んでない?」
「なっ、何が??」

 そんなことより、いい加減その手を離して欲しい。

「恋愛ってのは好きなことが大前提で、お前と俺は好き合ってる…それも互いに一番だ。なのになんで俺を諦めて、他の男を選ぶワケ?」
「だ~か~らッ。私の話を聞いてましたか??」

「もちろん」
「だったらもう一度言いますよ、店長と付き合っても上手くいかないからですッ」

 ようやく私の手首を掴んでいたその手を離し…たかと思うと、その両手を次は私の両肩に乗せ、店長はゆっくりと弧を描くように口角を上げた。

「バアカ、一番好きな相手ってのはな、そうそう見つからないんだぞ?

 二番手とか三番手を時間掛けて育てても、それは一番に成り得ない。

 あのな…恋愛ってのは妥協出来ないモノなんだ。好きでもない相手と無駄な時間を過ごすなら、本当に好きな相手を教育した方が有意義だぞ。

 だってお前、今まで一度も俺に要求とかしてこなかったじゃないか。

 俺、直して欲しいと言われたら努力したよ。
 何もしてないのに、もう諦めちゃうのか?

 なあアヤ、一番好きな相手というのはそんな簡単に見つからない。

 俺達は幸いなことに、それを見つけたんだ。だからもっと話し合って、頑張ろうよ。お前の一番は浦じゃなくて、この俺だろう?」

 うー、ああっ。

 そんな目で見つめられると、アッという間に心を奪われてしまう。強いようでほんの少し滲み出る彼の弱さが、スポンジ状になった胸をギュッと搾り取る。そして瞬時に潤いを奪い去り、この男への恋慕で浸してしまうのだ。

 虚勢を張った言葉で攻めて来るけど、
 本当は恐れているのでしょう?

 …私から拒絶されるんじゃないかって。

 どうしてこんなにこの人が好きなんだろう?

 信じたい、やり直したいと思う気持ちと同時に、また裏切られたらきっともう次は立ち直れない…そんな恐怖の方がムクムクと膨らんでしまう。

 迷い始めた私の手を、そっと誰かが握った。

「浦くん…」
「即答出来ないのは迷っているからでしょう?…大丈夫ですよ、俺は追い詰めたりしないから。納得いくまでジックリ悩むといい。俺はね、アヤさんには幸せになって欲しいんだ。だからそんな困った顔をさせたくない。取り敢えず返事は保留にしてもう帰りましょう」

 もう少し若ければ、店長の胸へ飛び込んだかもしれない。でも、私は28歳で。周囲には既婚者になった友だちも増え、子供の写真付き年賀状が届くことも多くなった。

 もちろん、頭だけで考えれば浦くん一択だ。結婚しても浮気しそうに無いし、私を一生大事にしてくれるだろう。どうしてこういう男を一番好きになれないのか。つくづく自分で自分が嫌になる。

 ゴチャゴチャになった頭を軽く左右に振りつつ、私は店長に向かって言った。

「もう帰ります。店長、おやすみなさい」
「えっ?!ああ、送るよ」

「浦くんに送って貰うから大丈夫です」
「いや、だってしばらくの間は俺とも浦とも保留状態なんだしさ。そこんとこは平等に接して欲しいなあ」

 まったくもう、この人は何をゴチャゴチャと。

 ここから我が家までは徒歩20分程度の距離だ。そして浦くんは、我が家のすぐ裏にあるアパートの一室を借りている。だから、わざわざ『送ってくれている』のでは無く、帰宅のついでという感じなのだが。

 無抵抗でいると、いつの間にか男同士で話は纏まっていて。気まずいとしか言い様の無い3人で、夜道を歩くことになる。しかもなぜか店長と浦くんの2人だけで会話し、内容も仕事のことだったりして。

 生きていると、おかしな目に合うものだ。

 今まさにその事象の真っ只中にいる私は、彼らに聞かれないよう大きな溜め息をひとつだけ吐いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

抱きしめて

麻実
恋愛
夫の長期に亘る不倫に 女としての自信を失った妻は、新しい出会いに飛び込んでいく。

冷たい彼と熱い私のルーティーン

希花 紀歩
恋愛
✨2021 集英社文庫 ナツイチ小説大賞 恋愛短編部門 最終候補選出作品✨ 冷たくて苦手なあの人と、毎日手を繋ぐことに・・・!? ツンデレなオフィスラブ💕 🌸春野 颯晴(はるの そうせい) 27歳 管理部IT課 冷たい男 ❄️柊 羽雪 (ひいらぎ はゆき) 26歳 営業企画部広報課 熱い女

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

処理中です...