昔の恋を、ちょっとだけ思い出してみたりする

ももくり

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任しときッ

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 こっ、こんなに呆気ないものなの?
 あんなにあんなに悩んだのに?

 ここ数カ月の苦悩はいったい何だったのか。きっと知らない人がこの場面を見たら、こっちの方が振られた女のように思えるだろう。

 ニッコリ微笑むと、浦くんは颯爽と立ち上がり、それからこう付け加えた。

「あの…、仕事は今まで通りやりますんで。俺、元々オーナーを崇拝してたから辞める気はサラサラ無いんですよ。待遇も結構いいですし。明日からはいつも通りでお願いしますね。じゃ、これ、コーヒー代です」
「えっ?いいよ、ここは私に払わせて!」

 それには答えず、テーブルの上にお金を置いて浦くんは去って行った。

 ぽつん。

 そっか、案外アッサリしたものだな。私が考えていたよりも、彼はそんなに私のことを好きでは無かったのかもしれない。

「…強がる男ってどうしてあんなに可愛いのッ」
「う、ええっ?!コ、コトリさん??そ、それに茉莉子ちゃんも…」

 帰ったはずの曲者女子たちがどこからか現れ、ドカッと目の前の椅子に再び座ったのである。

 よく考えたら、きょうは平日なんだよ?

 茉莉子ちゃんは毎日お休みだけど、
 コトリさんは仕事じゃないの??

 そう訊ねると彼女はドヤ顔でこう答えた。

「おほほ、代休を貰ったのよ~。こう見えて私、休日出勤が多くてさ~。榮太郎様がレセプションパーティーや内覧会に出席する際、秘書は同伴必須なのね。榮太郎様付きの秘書はもう1人いるんだけど、やはり見た目が華やかな私が選ばれちゃうの」

 これに茉莉子ちゃんが鋭く突っ込む。

「本当は、もう1人の秘書が既婚者だから、土日は家族サービスをさせてあげようという榮太郎の優しさでしょ?
見た目が華やかなコトリさんの私生活は、残念ながらカラッカラに干上がっていて。土日なんて、予定ガラ空きですものねえ…」

 ぐぬぬ…と唸ったかと思うと、コトリさんは強引に話題を変えた。

「…で?これから新見さんを呼び出すの?てことはもう私、彼を狙えないのねー」
「あ!そ、そうです。呼び出しはしませんが、会いに行きます。だからコトリさんは店長を諦めてください」

 店長からの告白をあんな勢いよく断っておいて、今更どのツラ下げて復縁を申し出るのか。…そんなことを思ったりもするが、ここで挫けてはダメなのだ。

 そんな私の背中を押すかの如く、コトリさんが呟いた。

「見習いくん…浦くんといったっけ?こっそり見てたら、アヤさんの視界から外れたくらいのところでガックリ肩を落としてたわよ。強がってみせてたけど、精神的ショックはそれなりに受けてたみたい。

 私はさー、『新見さんってイイなあ…』程度の浮ついた感じだったけど、浦くんは本気だったんじゃないかなあ…アヤさんのこと。

 我ら敗者を労うつもりが有るんなら、絶対幸せになってよ。とにかくそれが最高の供養だから。あのフワフワした新見さんの脚を捕まえて、紐で縛って地上に括りつけられるのはきっとアヤさんだけなんだからね」

 私はスクッと大股で立ち上がり、頚椎が折れそうなほどの勢いで頷いた。

「おう!任しときッ」
「きゃー、アヤさん男らしい」

「一度つき合ってダメになってるけどさッ。考え様によっては前回の失敗を参考にして、二度目は上手くやれる気がしてきたわ!!」
「イェイ!前向きぃ!!」

 やんややんやと女子たちからの声援を受け、テンションが上がってきた私は雄叫びを上げる。

「ぐうおっ、待ってろよ、新見 大雅──ッ!」

 そして周囲の視線に気づき、真っ赤になりながら再び着席したのだ。

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