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私は私
しおりを挟むなぜかココで茉莉子さんが、気の抜けるような相槌を打つ。
「分かる~、分かり過ぎる~」
「さすがブス!どうやらこっぴどく振られた過去有りねッ?!」
よ、容赦無いなコトリさん。仮にも雇い主の奥様のことを『ブス』って…。
「あたぼうよッ。ほら、コトリさんも知ってるでしょ?悟と付き合ってたんだよ、私。でもそれが罰ゲームだったと判明してさあ」
「あはは、アレ~。あんたの兄貴、鬼よね~」
『あはは~』って、笑ってるしッ。思わず突っ込みを入れてしまう私。
「でも、だって茉莉子さんの方は罰ゲームと知らなくて付き合ってたんでしょ?うわあ、そんな酷い目に遭ったら私だったら人間不信になっちゃうかも…」
しかし茉莉子さんは無表情なままで、淡々とこう答えるのだ。
「なったわよお、人間不信。でも、アメリカに留学して、そこで知り合ったインド人の女のコが私に説教してくれたの。『マリコ!人間は強者に惹かれるのよ』って。
『陰気臭い顔して、世の中の全ての人を憎んでるようなオーラを出してたら誰も近寄らない。そういう人は自分が不幸なのは他人のせいだと思ってて、自分はこれっぽっちも悪く無いと思い込もうとしている弱者なんだから』って。
それもそうかと思ってね、見せかけだけでも強いフリをしてみたの。無理して笑うことはしなかったけど、なるべく人と接するようにして。面白いことは言わなかったけど誠実に対応した。
そしたらね、自然と同類が寄って来たのよ。なりたい自分になったら仲間が集まって来たの。
誰だって変わることは怖いわ。でもそれを乗り越えてしまうと案外ラクよ。だって、どんな状況だろうと、どこへ行こうと、私は私なんだもの。
例え弱者から強者に変わっても、独身から既婚に変わっても、大きなカテゴリーで纏めると私は私なの。これだけは揺らがないし変えようが無いんだな。
ねえ、アヤさん。このまま現状維持する?
それとも変化を恐れず幸せになっちゃう?
さあ、ここで決めて頂戴!!」
………………
「アヤさん、お待たせしてすみません」
「うっ、いえ、あの、こっちこそ呼び出して、急なことだったにも関わらず、その、ごめん」
そんなワケで場所はそのままに、浦くんを呼び出したのである。
もちろん例の女子たちには帰って頂いたので、私と浦くんの2人きりだ。ちなみに茉莉子ちゃんはウチの店の近所に住み、私の自宅もウチの店から徒歩20分で、浦くんはその裏のアパートに住んでいるのだが、いまいる喫茶店はその中継地点に有ると言えよう。
つまりメチャ早くやって来たんだな、この人。
全然待ってないよッと突っ込みたい所だったが、今から話す内容の深刻さを考え、我慢する。平日の午後4時という時間帯もあって、さほど混んでいないせいか驚きの速さで浦くんの注文したコーヒーが運ばれてきて。それが半分ほど無くなった頃に、ようやく話を切り出す。
「返事が遅れて大変申し訳無かったんだけど、やっぱり私は店長を選ぼうと思っています。自分でもバカだって分かってるんだよ?浦くんを選んだ方が傷つかないって。でも…」
「はい」
あまりにも短い返事だったので、思わずこちらから訊き返してしまう。
「えっ?あの、それはどういう…」
「前々から決めていたんです。アヤさんが店長とヨリを戻す決心をしたら、その時は2つ返事で諦めようって」
「う…」
「だから『はい』、もう分かりましたので。これ以上なにも言わないでください」
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