昔の恋を、ちょっとだけ思い出してみたりする

ももくり

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ウチの父はこういう人

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 ポカンと口を開けたままの娘に向かって、父はポツリポツリと語り出す。

「俺も昔は新見くんと同じ立場だっただろ?しかも仕事に夢中になり過ぎて家庭を疎かにしていたら離婚されちゃったクチじゃないか。

 それでも当時は仕事に対する情熱が冷めなくて、逆に奥さんが仕事を手伝ってくれていれば一緒にいられたのになあ…とか思ってたワケ。

 この商売をしてると、いろいろと難しいよね。単純に料理だけ作っていればイイってもんじゃないし、客あしらいとか従業員の確保とかさ~。

 新見くんをウチの店に引っ張って来たのは、他ならぬこの俺自身だからさ。だから色々と心配してたんだよ。だってもうキミ32歳だろ?そろそろ結婚とか考えてるんじゃないかなって。

 でもウチの元奥さんみたく事務職とかの畑違いの人間だと、サービス業の苦しさを理解してくれなくて、なかなか難しいんだよね~。休みも合わないしさ、こっち側の苦労を分かれと言っても全部は無理だろうし。

 …でさ、ふと思ったんだ。ウチの娘、どうかなって。だって、こっち側の人間じゃん?しかも父親である自分が言うのもナンだけど、かなり有能なんだよね。

 だから俺、ずっと念じてたんだよ、脳内で!!いっそアヤが新見くんを押し倒して、ムリヤリ結婚を迫ればいいのになって。突然、浦くんと付き合うとか言い出した時は、『頭、沸いてんのかコラ!』とか思ったけど。そっかそっか、最終的には新見くんを選んだか。…でかしたぞ、アヤ」

 そう、ウチの父はこういう人だった。

 目的の為には手段を選ばず、好きなことに熱中すると鉄砲玉みたく弾けまくって。暫くの間、音信不通になってしまうのだ。

 その昔、釣りに夢中になった時は天然サーモンを釣りたいと大騒ぎして、カナダのキャンベルリバーまで行ったきり1カ月帰って来なかった。

 ワインを極めたいと言い出した時なんて山梨県の醸造工場に無給でも構わないと直訴し、収入ゼロ状態で長いあいだ働き続けた。

 それが今度は、弟子に私を差し出しますよと?

「…面白いことを言うわね、お父さん」
「あはは、そうかなあ?」

「って、言葉のまま受け取らないでよッ。これ、嫌味なんだからね?!」
「嫌味~、あはは、なんで~?」

 楽しそうで何よりです。

 でもまあ、反対されるよりはいいかと思いつつ、正座しながら私はそっと大雅の手を握った。

 普通、一人娘が結婚するとなると、相手の男性に対して敵意剥き出しになるそうだが、やはり我が家は普通では無かったようだ。





 ………………
「は?!はあッ?な、なんで店長と?だってアヤさんは浦…」

 ここで厨房から浦くんがホールに出てきたため、実夕ちゃんはテーブルクロスを突然めくり上げ。

「う、裏が汚れてる気がしたけど、私の勘違いですかネ~」

 と、誤魔化した。

 我が家で結婚話が飛び出た数週間後、開店準備をしながら私はバイトの実夕ちゃんにそのことを告げたのだが。まさかこんなに驚いていただけるとは。

「ああ、色々あって浦くんとは別れてるの。それで元サヤというか店長と復活したんだけど、ウチの父が妙に乗り気でね。あれよあれよという間に結婚が決まっちゃった。…悪いけど披露宴はこの店を貸し切るから、御給仕の方を任せてもいいかしら?」

 びっくりナマコ…じゃなくてマナコのまま実夕ちゃんは力強く自分の胸を拳で叩いた。

「お任せくださいっ!!それにしても全然気づかなかったですよ~、別れたこともヨリを戻したことも。達人かッ」

 ここで会話に割り込んで来た浦くんは、淡々と話し出すのだ。

「実夕ちゃんが気づかなかったのは仕方ないよ。たぶん店長もアヤさんも俺に気を遣ってるから、俺のいる所ではそういう態度を取らないように細心の注意を払っていたんじゃないかな?

 アヤさん、もう本当に俺、吹っ切れたから。遠慮なくイチャついて貰っても構いませんよ。

 実はその…、新しい彼女も出来たんで」

 なぬ?私と別れてわずか数週間でもう次の彼女が??

 
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