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揺れる気持ち
しおりを挟むふ…じい…。
藤井姓の有名人と言えば、モデルに歌手にお笑い芸人。そう、私は名前に拘るのである。
名前というのはグループ分けのようなもので、代表格を思い浮かべれば必然的にそのグループの特徴も分かるというものだ。
申し訳ないがモデルの藤井さんはとても美人だが、いろいろとスキャンダルが多すぎるし、歌手の藤井さんは才能に溢れる男性だけれども、モテ過ぎて安心出来ない。お笑い芸人の藤井さんは家族思いの素敵な男性だが、たまに見せる表情が闇を感じさせる。
ああ、そうだ、棋士の藤井さんがいたじゃないか!あの若さで難しい漢字を知っているし、とにかく頭が良い。そう考えると、藤井グループはなかなかの逸材が揃っていると思われる。
…そんなことを延々と考えていると、目の前の藤井が呆れ顔でネクタイの結び目を緩め出す。
「お前、いま全然違うこと考えていただろ?ったく。俺さあ、結構勇気を出して言ったのに。でもまあ、そういうところも好きだけどさ」
「す、好き?」
てっきり『最後の独身2人だから、適当にくっつこうぜ』と言っているのかと。
「は?!お前、俺を何だと思ってんの。なんで好きでも無い女に付き合おうとか言う?その…初めて会ったときから気になってた。ていうか一目惚れだよッ」
「ふ、藤井、あたま大丈夫?」
女なんて日替わりで、誰にも本気にならないと。そう豪語していたあの藤井が。『初めて会ったときから』って、アンタ10年も私に片想いしてたワケ?
い、意外~~。
「スミレ、婚約者いるっつうから諦めてたのにいつまで経っても結婚しないし。俺は皆んなと違って架空の人物だとは思わない。だからソイツとはどうなってるのか教えてくれ」
「ええっと、うんと…」
正直に言っても引かないだろうか?貴臣と再会してから私が強引に迫り、一方的に彼の家に押し掛け、勝手にオバさんと仲良くなって…。
「へ?それってさ、相手の“母親”と結婚の約束をしたってこと?ほ、本人じゃなくて?」
「うん。貴臣自身からプロポーズはされてない」
“将を射んと欲すれば先ず馬を射よ”という言葉どおり、まったく私に靡かない貴臣からオバさんに標的を移した私は、それを実行し。
>スミレちゃんが貴臣と結婚してくれたら、
>私の娘になるのになあ。
>そうだ、いっそそうしちゃいなさいよ。
…とまで言わせることに成功。
ウチの両親にもその日のうちに報告した。
反対されるかと思ったが、実はオバさんが素晴らしい家柄の出で、生前贈与を受けて大金持ちになっているとの情報を入手していたらしく、快諾された。そう、オバさんは裕福なのに働いていたのだ。
だが、肝心の貴臣にはその意思が無いので、いつまで経っても結婚は実現されず。現在、彼は有名どころの製薬会社でライフワークとなり得る研究に取り組んでおり。両親には『その研究が納得いくまで結婚を待つように言われた』と嘘を吐いている状態だ。
「えっとスミレ、それってさ、婚約以前に…その、付き合ってるのか?」
「うん、まあ、ヤルことはヤッてるんだよねえ」
そんな貴臣でも人並みに性欲はあるらしく。だから、こちらから迫ると断らない。しかし、向こうから誘って来ることは無い。土日は『読書をしたいから』と外出を拒まれ、平日夜に私が貴臣の自宅へと通うのみ。
オバさんも同居しているので、あまりイチャイチャは出来ず。その唯一の愛情確認ですらも10年の時を経て、今ではとんとご無沙汰だ。月に数回、顔を合わせるのみとなっている。
「スミレ、それはもう諦めてこっちに来いよ」
いくら苦労好きの私でも、
藤井の言葉に揺れて当然だったのである。
※藤井姓の有名人ですが、モデルは〇ナさん、歌手はフ〇ヤさん、お笑い芸人はタ〇シさん、棋士はソ〇タさんをイメージしております。
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