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母との攻防
しおりを挟む早速、母へと視線を移すと、菩薩のように柔らかく微笑み返され。それから思いっきり顔を逸らされてしまう。
「お、お母さん?その態度、すっごく不自然なんだけどッ」
「そお?っぐそんッなことなわわ」
ほら、動揺しすぎ。今も紅茶じゃなくてマカロン飲もうとしてるし。
「お願い、お母さん。貴臣のことで知っているのなら教えて!10年っていったい何のことなの?」
母は意味深な表情を浮かべたかと思うと、そのまま唇の前で人差し指を立てる。
「ヒ・ミ・ツ…っていうか、言えないの。もしスミレに教えたことがバレたら、私、お父さんに殺されちゃうから」
残念ながら母はとても頑固なので、こうと決めたら一歩も譲らない。だからこの膠着状態を動かすには、メガトン級の何かを出さねばならないのだ。そして私はそのメガトン級のネタを偶然、隠し持っていた。
「ねえ、お母さん。実は私、知ってるのよ。アレグザンダーがなぜ死んだのかを」
「ひ、ひいいっ」
アレグザンダーというのは、父が異常なまでに愛情を注いでいた犬で。チベタン・マスティフという犬種自体、とても珍しいそうなのだが、しかもそれの純血種ということで物凄く入手困難だったらしい。
裏ルートやコネを駆使して、掛かった費用は最終的に200万円を超えたとかなんとか。そこまでして手に入れた犬が、僅か2年で死亡。その原因は、最後まで不明なままだった。
しかし、私は知っているのだ。母がアレグザンダーの口が臭いと大騒ぎして、キシリトール入りのガムを噛ませたことを。それも1個では無く、一気に10個ほど口に放り込んだらしい。
勿論、そんなモノを与えれば犬は死ぬ。
この話を庭師見習いの若い男性から聞いた私は、この話を決して他言しないようにと懇願し、暴君の父から母を守るため沈黙を貫いた。それがまさか、こんな時に役立つとは。半信半疑の様子で見つめてくる母に向けて、ガムを噛むジェスチャーをしてみせる。
「ひいっ。ス、スミレ、お願いだからその話は墓場まで持って行ってちょうだいッ」
「いいわよ。じゃあ交換条件として、貴臣の件、今ここで話してくれるわね?」
母の黒目が水平なままでキョロキョロ動き、それから右側だけガクンと落ちる。どうやら2つの案件を自分なりに秤にかけて、軽い方を選んだようだ。
「…分かった。貴臣くんのことを教えてあげる。でも私がこれから言うことは絶対、内緒にして」
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