スミレの恋

ももくり

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10年

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 オバさん…そう、貴臣の母親がウチに来たのはそれから数十分後のことだった。

「スミレ、大場さんがいらっしゃってるわよ。客間にお通ししたから早く行きなさい」
 
 呑気なウチの母の声に、返事もせず慌てて向かったのは“大場さん”がてっきり貴臣だと思ったからで。走り幅跳び並みの歩幅でそこへと向かい、ドアを開けて激しく肩を落とした。
 
「なんだ、オバさんかあ…」
「あら私でごめんなさいね」
 
 軽く口先を尖らせ、ソファに座ったままでオバさんは返事する。
 
「あ、いえ、そのっ。ごめんなさい、貴臣だと思ったもので…」
「うふふ、いいのよ。はいこれ、忘れ物」
 
 差し出されたのは勿論コートだった。
 
 真冬にそんなモノ、忘れるなという感じだが、さすが貴臣を産んだ女性だ。そんなことは全然気にならないらしい。…ここで私はハッとした。どうやらオバさんは何か事情を知っている様子だし、今ここで教えて貰えば良いではないかと。
  
「あのっ、オバさん!さっき言ってた“10年”って何の話ですか?私に隠していることが有れば、教えてください」
 
 まるで赤ベコみたいに首を不安定に揺らし、オバさんは斜め上に視線を逸らす。なので、更に畳みかける私。
 
「私、貴臣さんと一生一緒にいたいんですっ。もし、彼の方にとんでもない秘密が有っても、それも含めて受け入れる覚悟は出来ています。お願いだから教えてください!」
 
「あら~、じゃあやっぱり別れていないのね。なんだ、前田さんの奥さんったらガセネタを。ほら、角のお肉屋の前田さんがね、お孫さんがもう高校生なんですってよ。
 
 そのお孫さんが深夜番組を見ていて、そこにスミレちゃんと彼氏がインタビューを受けていたとかって。その彼氏がウチの貴臣じゃなくて見たこともない金持ちそうなお坊ちゃんだとか前田さんが言うものだから、私、てっきり。
 
 やだ、やっぱりそうよねえ?だってスミレちゃんって貴臣のこと大好きだし。あんな愛想も無いコを好きになってくれて、本当に有難いわあ」
 
 …えっと。予想外なところに着地したぞ。
 もしやコレは敵の策略なのか?
 
 そう、『絶対に自分は答えません』という
 ハッキリとした意思表示に違いない。
 
 生ぬるい感じの微妙な間が空き、次の言葉を考えあぐねて下唇を舐めているとノックに続けて母が入って来た。

「はーい。本日のお紅茶はラデュレでーす!本当に美味しいから飲んでみて~」
「んまあ素敵!前々から飲んでみたかったのよお」
 
 途端にオバさんの口元が綻ぶ。『邪魔者めッ』と言わんばかりに母を睨むと、しれっとした顔のままオバさんがこう呟いた。
 
「ごめんねー、私からは言えないの。でもスミレちゃんは誤解しているわ。この問題は貴臣が起因じゃなくて、スミレちゃんが思いっきり関係しているのよ。…そうね、お父様は手強そうだから、ここでお母さまに訊いてごらんなさい。
 
 貴臣がこの10年、どんなに頑張っていたかを」
 
 
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