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志季さんと2人きり
しおりを挟む『有ります』と即答し、てっきりアッちゃんと3人で仲良く買い物に出掛けるのかと思ったら、志季さんと2人きりなのだと。
「ごめん、俺、移動は基本バイクで。曲芸師じゃあるまいし3人乗りは無理だから」
「やったあ、私バイクに乗るの初めて~」
…認めよう、セリフ棒読みだと。
だって志季さんとバイクに乗って2人で買い物するとか、どんな罰ゲームよッ?!
そんなワケでヘルメットを渡され、家電量販店へと向かう。残念ながらスカートを穿いていたので風でめくれないようにと太腿に力を込めたり、胸が志季さんの背中に密着しないようにと適度に距離を保っていたらとても不自然な体勢になってしまい、到着した頃には筋肉ピキピキ状態に。
「えっと、なんでガニ股風なのかな?」
「いえ、ちょっと…はい」
他の相手だったら冗談を交えて事実を伝えられたけど、何せ相手はクールな志季さんなのだ。言えるワケも無く、笑って誤魔化す。
「……」
「……」
真剣にボイスレコーダーを選んでくれているのは分かる。しかし、こうまで会話が無いと私もどうすればいいか分からなくなるというモノで。
「う、あ、のっ、志季さんッ。えとですね…、本当に訴えるんですか?!」
いや、何もこんな場所で質問しなくてもいいかとは思ったんだけどもですね、あまりにも沈黙が続き過ぎて息苦しくなったと言いますか。
「うん、その方が良くない?だって、その紗英って女、放っておいたら調子に乗ってどんどん奈月ちゃんのデマを広めるよ。そういうのはね、きちんと懲罰を与えておかないと。将来結婚する時に身上調査されて、事実じゃなくてもソレが理由で破談になることも考えられるんだぞ。
奈月ちゃんって銀行の頭取の孫娘なんだろ?きっと結婚相手もそれなりの家柄の人間になるだろうしさ、降りかかる火の粉は払わないとね。あとさ、さすがに俺も弁護士の知り合いはいないから、最終的には奈月ちゃんのお父さん経由で依頼することになるかなあ。覚悟しといてね」
その言葉に思わず眉を顰める。
いや、分かっていたのだ。自分たちだけで全て解決出来るはずは無いと。でも、出来れば両親にこの件は知られたく無かった。
「そっか、そうですよね。ウチの両親、きっと大騒ぎするだろうなあ…」
「だろうねえ。でも、実際に訴えるまではせず、最終的にこちらから色々と要望を出して示談で済ませるというテもあるから。その場合は弁護士を挟んで誓約書を作成することになる。あと、慰謝料は貰っておくんだぞ。弁護士さんだって無償では働いてくれないんだし、こちらに非が無いという証明としては、一番分かり易いから」
とかなんとか言いながら、志季さんは2種類のボイスレコーダーを私に差し出す。
「機能的にはどっちも同じ。録音時間も一緒。違いはサイズと値段。大きい方が3千円安くて小さい方が高い。さあ、選んで」
「じゃあ、小さい方を」
ハイと手渡され、素直にレジへと向かう。
本当に無駄のない人だなあ…と思って。でも今はその淡々とした感じがむしろラクだ。妙に同情されたり、親身になられたりするよりもずっといい…などと考えながら購入完了して志季さんの元へと戻ると、自販機の有る一角へ連れて行かれ、そこのベンチでいきなり作戦会議が始まった。
何故なら今から4時間後に久志とファミレスで会い、荷物を返して貰う予定となっているからだ。
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