朝日家の三姉妹<3>~奈月の場合~

ももくり

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家出してるの?

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「どういう意味よッ?」

 2人きりで食器を洗っている最中だったのだが、タオルで私の頬を拭きながらヒグッチは言う。

「アイツには女を喜ばせようとかいう概念が無いからね。もし、付き合えたとしてもその関係は進展しないだろうし、一緒にいても不安になって、寂しい想いをさせられるだけじゃない?」
「そんなの付き合ってみないと分からないよ!志季さんが私といると楽しいと思うようになるかもしれないし。大丈夫、私は強いんだから!不安になんかなったりしない…と思いたい…」
 
 威勢よく言ったものの、後半グダグダ。仕方ないよ、だって私、正直者だから。
 
「泡、ついてるよ。もう、本当に奈月ちゃんは可愛いなあ。自分で自分を強いとか思っているんだろうけど、俺からすれば危なっかしくって見てられない。キミは自分で考えるよりずっと不器用で脆い人間だよ。だから、俺にしときな」
「ヒグッチ…に?」
 
 この人は志季さんと違って、表情豊かだ。だからその目を覗いてみる。…何かを乞うようでいて、訴えてくるような。マズイ、このまま吸い込まれてしまいそうだ。
 
「ね?」
「えっ」
 
 食むようなキスをされる。
 
 何だこの蕩けるような感触は?いや、そうじゃないな、感触じゃなくて技術なんだ!さすがはヒグッチ、相当数をこなして来ただけ有るね!
 
 ガツッ!
 
「グーパンで殴るなんて奈月ちゃん、酷いよ~。俺の鼻、無くなってない?ちゃんと付いてる?」
「今度こんなことしたら頭突きしますよ。もう一度言いますね、私が好きなのは志季さんです」
 
 フンッと鼻息を吐きながらふと気付いた。ん?もしかしてヒグッチ、私に…
 
「まさかと思うけど今のって、志季さんを口説く方法を実地で教えてくれてた?!ごめんっ、勘違いしちゃって。ああ、私のバカバカ!」
「…は?」
 
「とっても参考になった!うん、頑張ろうっと。ヒグッチの教えどおりに志季さんを口説いてみるよ!そんでもってキスまで持ち込んでやらァ!」
「え…あ…、うん、頑張って」
 
 というワケで、早速行動に移すことにした。
 
 もじもじ、もじもじ。
 
 威勢よくヒグッチに宣言してみたものの、志季さんの姿を確認した途端、何もかもがキレイサッパリ飛んで行った気がする。
 
 何が?どこへ?
 
 ってもちろん勇気ですよ~。自分の中に有ったはずの勇気が、今では遥か遠方に飛んで行ってしまったんですっ。

 …志季さんは相変わらずラグの上でプラモデルをちまちま組み立てており、アッちゃんはどうやら入浴中らしい。えっと、ご心配なく!!
 
 ココに入り浸っている私が悪いので、『お客様を放置して風呂に行くとは何ごとか~ッ?!』などと死んでも言ったりしませんから。
 
 最初はアッちゃんも私に気を遣いなるべく一緒にいようとしてくれたけど、それを私の方から断ったのだ。だって、私のせいでアッちゃんの生活がボロボロになっては申し訳ない。
 
「奈月ちゃんってさ、そろそろ家に帰らなくても大丈夫?なんかもうココに住んでるみたいになっちゃってるけど、もしかして家出してるの?」
 
 視線はプラモデルに向けたまま、志季さんがそう質問してきた。
 
 
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