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グルメリポートは難しい(志季視点)
しおりを挟む過度なまでに褒めまくる樋口を横目にしながら、俺もウキウキと箸を進める。うん、美味しい!いや、待てよ?そんな短い言葉じゃ、あの樋口の後なんだ、上手く感動が伝わらないかもな。ああ、普段はスルーしてるグルメリポーターの感想だけど、もっと真剣に聞いておけば良かった。
えっと、取り敢えず『この出汁は何を使っているんだい?』と興味を示しておけばいいのか?それとも『優しい味』と短く纏めた方が?
──この時の俺は気付いていなかった。言葉の選択に悩み過ぎて、せっかくの美味しい弁当をしかめっ面で食べていたことに。
ああっ、ニコニコがションボリに変わっていく。
これはマズイ、この空気をどうにかしないと!
そう思って自分史上最高のワザとらしい笑顔を作ってみたが、残念ながら奈月ちゃんは俯いたまま自分の爪をジーッと見つめているため俺の変化に気づかない。
美味しいよ!
ほら、だって俺、モリモリ食べてるしッ!!
そんなアピールも見てもらえなければ意味が無い。よし、こうなれば拙くても頑張って自分の言葉で感想を伝えよう!…そう決心した、その時。意外な人物が登場するのである。
「あっ、奈月ちゃんじゃないか?!」
だ、誰だ、この爽やかエリート君は??
すかさず明恵が、『美香さんの婚約者だよ』と耳打ちしてくれた。へえ、そっか、なるほど…。俺とは真逆の陽気な人物らしく、一緒に花見に来たという同僚たちも同類のようだ。
このテの男たちって初対面でも距離が近くないか?だってほら、俺の奈月ちゃんにそんな馴れ馴れしい態度…って、ぶはっ『俺の奈月ちゃん』だって!オレ~、急に彼氏気取りかよ~、なにその切り替えの早さ~、ちょっ、恥ずかし~。
こんな内面の葛藤はもちろん表には出さず、
鉄仮面を被ったままで俺は里芋を食す。
うむ、美味であるぞ。
堂々としていよう。だって俺は彼氏なんだし。そりゃあ何を話しているのかは気になるけど、ウチの奈月に限って妙なことは言わないだろう。
と、思ったのに。
お姉さんの婚約者のツレが、奈月ちゃんのことを口説き出し、その流れで俺との関係について質問し始めた。ちょ、待って。いま里芋がさ、口ん中に入ってて、俺、喋れないんだけどッ。
慌てて咀嚼していたら、箸に摘まんだままの残り半分がコロンと膝の上に落ちた。大変だ、奈月ちゃんの愛情が詰まった里芋がッ。何食わぬ顔で再び箸で摘まみ直す。ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、有り得ない言葉が立て続けに聞こえてくる。
「えと、あの人は親友の彼氏で、えっと、こっ、この人は親友のお兄さんです!」
…へ?俺の…こと…だよな?
「嘘、じゃあ、奈月ちゃんって彼氏いないの?」
「えと…は、はい」
ええっ?!
驚き過ぎて再び里芋が転がっていく。
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