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その2
しおりを挟む再婚によって金銭的には全く困っていないはずなのに、何度も言うが生来の真面目な気質がそうさせたのだろう。
母は義務感に燃えていたのである。
滅多に帰って来ない上に、浮気しまくりのダメ男。それが子供達の手本となるべき“親”の姿と思われては困ると。自分がそうであったように、苦労している親の姿を見せれば、子供は真っ直ぐに成長するはずだというのが彼女の持論だった。
しかし、よく考えてみて欲しい。子供が5人もいるのにフルタイムで働き出せば、家事はどうなるのか。小1のヤンチャな双子は散らかし放題だし、小5の美空は軽い潔癖症で掃除と洗濯を毎日しろと言う。さすがに私1人では無茶だと母に抗議したが、『働かざる者、食うべからず』と言われ相手にして貰えなかった。
これは後に判明するのだが、どうやら母は義父が肩代わりしたお金を返し、対等な立場になろうと考えていたらしい。そんなことを当時の私が知るワケも無く、何度も失敗を繰り返しながら家事を覚え、弟達や妹に協力を仰いでいくうち5人は強い絆で結ばれていく。
そして事件が起きた。
血の繋がりの無い、連れ子同士の男女がひとつ屋根の下で仲良く暮らしていたらどうなるか。いや、九瀬家の場合は特殊だろう。何故なら監視役となるべき両親が不在がちなのだから。いつからだったのかは私も知らないが、発覚したのは私が大学に入ったばかりの頃だ。
祥と美空が恋をしたのである。
薄暗い祥の部屋で、2人が同じベッドで眠っている姿を母が見つけてしまい、それからは大騒ぎになった。『ただ一緒に寝ていただけで何もしていない』という祥の弁明は通用せず、母いわく『絶対に祥と美空を離さなければ』と。とにかく義父の耳に入らないよう子供達には緘口令が敷かれ、まずは私が希望したからという体裁でマンションで一人暮らしを始め、そこに『双子達が煩くて受験勉強に集中出来ない』という理由で祥も同居するという筋書きになった。
つまり、私はお目付け役だ。
恋する2人の邪魔をする、悪役。
私も本当は、
祥のことが好きだったのに…。
…………
「うわあっ、そんな悲惨な経緯で同居開始したの?」
今夜もいつものビヤスタンド。
だが、飲んでいるのは瀧本さんと私の2人きり。
どうしてかと言うと、瀧本さんが同僚の朱里ちゃんから完璧にフラれたからで。ヤケ酒なのか、いつもより飲むペースが速い瀧本さんは珍しく酔っているらしく、いきなり自身の過去を語り出した。
兄や母との確執、その反動で遊び歩いてフラフラと生きていたことも。…人間というのは、相手が自分のディープな部分を曝け出すと、こちらも同量かそれ以上曝け出さなくてはいけない気がしてしまうものだ。
だから、話した。
私と祥が同居するまでの経緯を。それを語るには両親の再婚に関しても触れなければいけなかったので、かなり長い説明になってしまったが、瀧本さんは真剣に聞いてくれた。私なんぞに興味は無いだろうと思っていたのに、良い意味で裏切られたというか。しかも素晴らしく聞き上手なので、つい口が滑らかになってしまった感は否めない。
「でもさあ、弟が17歳の時から同居開始して、8年も経ったんだろう?もう2人とも社会人なんだから、別々に暮らせばイイじゃないか」
「そうなんですけどね、なんかタイミングが掴めなくて」
見惚れるほどスッキリした顎のラインをそっと右手で擦りながら、瀧本さんは悪戯っ子のように微笑む。
「ふふっ、本当は離れ難いんだろう?」
「そ、そんなこと…無いですよ。それに、あの、美空が一昨年まで大学生だったから、母がとにかく社会人になるまでは不祥事を起こさせるなと煩くてですね…」
「ふうん、そうなんだ?」
「学生の身分で妊娠なんてことになったら、義父に何を言われるか分からないからと疑心暗鬼になっていたんですよ」
「でも、もう別れてるんだよね?九瀬さんの見立てでは」
「はい。祥と美空の関係は熱病みたいなモノだったようで、私の知っている限りでは、それぞれ別の相手と交際しているようですけど」
…そう、美空には長年付き合っている同じ年齢の彼氏がいるし、祥の方も定期的に彼女がいるみたいだ。
「だったら、尚更もう別々に暮らせば?だって、弟がいたら、九瀬さんも男を連れ込めないでしょ?」
「そ…っれは、特に困らないと言うか」
言わせんなよ!と心の中で叫んでみたが、瀧本さんは一昔前に流行したアヒル口にしながら、ギュッと私の手を握ってこう言った。
「じゃあ、今から九瀬さんちに行こう!」
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