私に彼氏は出来ません!!

ももくり

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その7

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 正直に言うと、私は目の前にいる人を侮っていた。我儘で身勝手なナルシストだから、自分以外の人間には興味が無いはずだと勝手に決めつけていた。だから、こんな風に誰よりも私のことを理解していて、しかも私の為に考えてくれていただなんて思いもしなかったのだ。

「みなと…」
「んあ?何」

 そして今だから言うが、
 私はこの人が大嫌いだった。

 見た目からしてチャラチャラしているし、きっと女を選ぶ基準は容姿が最優先で、本当は私みたいな地味女と一緒にいたくないのだろうと。仲間うちで恒例となっていたビヤスタンドでの飲みについても、狙っていた朱里ちゃんが抜けた時点で、私とは縁を切りたかったはずなのに。そのタイミングを失い、仕方なく共に過ごしているに違いないのだろうと。

「私、ずっと湊から嫌われてると思ってた」
「へっ?!嘘、なんで??」

「だって私…可愛くないから」
「は?!七海が??」

「だからイヤイヤ一緒に食事してるのかなって」
「どうしてそうなるんだよ?!」

 ずっと自分で自分に言い聞かせていたのだ、『この男にだけは気を許すな』と。だから名前で呼べと言われた時も口先だけで『湊』と呼んで、それを脳内で『瀧本さん』に変換していた。

 ああ、そうか、これか。
 ──さっきの湊の話。

 私は自分にとって都合のいい湊像を作り上げ、それからマブタを閉じてそれ以上は視界に入らないようにした。そうして2人の関係が深まらないようにしたのである。そのマブタを開ければきっと世界が広がるはずだったのに、ただただ一方的な思い込みのせいで…。

「私、湊と仲良くなりたい」
「え~っ、俺、七海とは結構仲イイつもりだったんだけど。そんなことわざわざ宣言される方がショックだっつうの」

「じゃあ、もっともっと仲良くなって湊のことが知りたい」
「う…、お、俺なんて中身ペラペラだぞ。でもまあ、七海と一緒にいられれば嬉しい。あのな、俺、何度も言うけど環境を変えたせいで今まで友人だと思ってた奴らとはノリが合わなくなっちゃってさ。だからこれからも七海が傍にいてくれたら凄く助かる」

 …なんかもう、反則なんですけど。

 一匹狼みたいな風体ナリで人間関係についてはとってもドライに見えるクセに、本当は人との触れ合いを渇望しているとかさ。これぞ天然物のお坊ちゃまって感じでメチャクチャ可愛いし、まんまと絆されている自分がチョロ過ぎる。

 この時、湊が何かボソボソと呟いた気がしたが、あまりにも声が小さくて聞き取れなかったので仕方なく問い返す。

「お前ってメンクイじゃないんだな」
「は、はああああ?!何それ祥のこと??分かってないなあ、湊は。あのね、あのコたぶん湊と同じくらいモテるよ?!確かに顔はボヤッとしてるけど、ほら、アイドルでもそうじゃない?イケメン過ぎるコよりもちょっと抜けてる感じのルックスの方が人気が出るでしょ。なんか程好いんだよ、あのコ。前に話したと思うけど、義父の連れ子は3人とも男のコで、顔だけだと双子の弟達の方が断然美形。でも、義父のモテモテ遺伝子を一番色濃く継いでいるのは祥だと思う。しかも本人は無自覚だからタチが悪いのよね!」

 そんなに驚いた顔をしなくても。

「ごめん。諦めたとは言え、好きな人のことだからつい弁護しちゃった」
「そっか、まだ未練タラタラか~」

 湊は無言で頷く私の頭をポンポンと撫でながらこう続けた。

「もう諦めて、俺にしとけよ。そうすれば全て上手く纏まるぞ?」

 
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