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その13
しおりを挟むあ、最後の方の会話、声を潜めるのを忘れていたや。…と気づいた時にはもう、祥が複雑そうな表情を浮かべていた。
「俺は別に平気だけど。だってよく有る話だろう?血の繋がらない兄妹が一つ屋根の下で暮らして、そのまま結婚するとかさ」
「けっこん」
祥くんったら、恋愛すっとばして結婚までいっちゃう?
でもアンタの好きなのは美空で、いや、ムリヤリ引き離されたせいで今はもうお互いの心が離れてしまって過去形なのかもしれないけれど、それでももし九瀬5姉弟の中でラブラブカップルが誕生するとすれば、絶対に祥と私じゃないよね??
だって万が一、いや億が一にでも祥が私を好きだったと仮定しよう。だとすればこんな風に2人暮らしをしていて、いつでも手を出せる状態にあったにも関わらず全然そんな感じじゃ無かったでしょ。
私に彼氏が出来た途端、気のある素振りを見せるって、いったい何を考えているのよ?!
1.私に迷惑を掛けた罪滅ぼし。
2.湊と別れさせる為の苦肉の策。
3.実は超ド級のシスコンだった。
ふうむ。
顎を擦りながら、瞑想するかの如く私は考える。これは…多分、2番だな。いや、1番も捨て難い。2人暮らしを始めた当初は家事や金銭面での負担が私1人に集中してしまったことを、最近になって祥はしつこく詫びてくるから。あの頃は学生だった祥も今では立派な社会人だ。自分が収入を得る立場になったことで、色々と察したのかもしれない。
なぜ、私がバイトで得た給料を毎月すぐに使い果たしていたのかを。
だけどあれは仕方なかったのだ。母はあの調子で己にも他人にも厳しい人だったから、当時大学生だった私は渡された生活費だけでやり繰りするようにと厳命されていた。とは言え、姉弟2人暮らしのマンションなんて男子学生の溜まり場になるのは当然で、祥の友達に食い尽くされて何かと食費が嵩んでしまったのである。
「姉ちゃん」
「なに?」
目からレーザービームを出しそうな勢いで、祥は私の両肩をガシッと掴んだ。
「大丈夫、俺も好きだから」
「は…あ」
『大丈夫』の意味が分からないし、唐突過ぎる『好き』も真実味が無い。
「だから無理して他の男と付き合う必要は無いんだ」
「別に無理してないけど」
予想とは違った回答だったらしく、祥の目はレーザービームからパトライトへと変化した。
「あのさあ、姉ちゃんはもう27歳なんだぞ。次の恋愛は結婚も視野に入れた相手になるって分かっているのか?なのにどうしてこんな見るからに遊び人風の男を選ぶんだよ。今からこんな男と付き合うのは、時間の無駄だろう?俺、姉ちゃんがこんなバカだとは思ってなかった」
「あのね、祥。結婚したら50年以上、1人の相手としか付き合えないんだよ。そりゃあ不倫とか離婚とか絶対にしないとは言い切れないけど、でもまあ死ぬまでその相手と添い遂げることを前提で話しをさせてね」
「あ…、うん」
「恋愛ってセミの一生の逆バーションだと思うワケよ。セミはさ、長いあいだ土の中で体力を温存して羽化した途端ハイテンションでミンミン鳴き続けるワケじゃない?そして1週間程度で死んでしまう。人間にとって恋愛はミンミン鳴き続けている状態でその期間もごく短いんだけど、結婚すると土に潜ってとにかく外敵から身を守ろう、無駄な体力を使わずにいようと思うんだな」
「……」
「ウチの両親みたいのは例外だけど、自分はああなるまいと様々な夫婦の形を観察し続けていたら、そういう結論に辿り着いたの。あのさ、恋愛期間は盛り上がるけど、結婚期間はまた別モノなんだよ。恋愛期間の延長として結婚期間に突入すると絶対に長続きしない。だから、切り替えないと」
祥は作り笑顔を見せながら、私に問う。
「えっと、それはつまり?」
「恋愛期間をきっちり楽しまなければダメだということ。後悔の無いようにしておかないと、結婚期間を安穏と過ごせないでしょ?湊は確かに結婚には向かないかもしれない。だけど恋愛に関して言えば、これ以上の逸材は無いと思うわ」
残念ながら私の真意は伝わり難かったらしく、この場にいる男2人が険しい表情をしている。
うん、いいの、自分でも意味ワカンナイから。祥の本心が分からないのなら訊けばいいだけの話だし、両想いになって目出度く付き合うという選択肢も有るだろう。だけどそうしないのは、多分、揺れているからだ。
そう、私は瀧本湊をもっと知りたい。
長年片想いしていた祥よりも、短期間で心に浸食してきたこの男に、思いのほか興味を持ってしまったようなのだ。
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