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その12
しおりを挟む私は眉間に皺を寄せながら、祥に向かって目で問う。
『まさか自分だとかいうオチじゃないわよね?』
「うん、…俺」
『は?!バカ言わないでよ、どうしてそうなるの?』
「今までずっと一緒に暮らして来て、誰よりも姉ちゃんのことを理解してるし」
『それとこれは別でしょ?』
「俺、最高の彼氏になれる自信あるよ」
…傍から見れば、無言の私に対してひたすら祥だけが話している状態なのだが、その姿を見て湊がシミジミと呟いた。
「へえ、さすが。七海が言葉を発しなくてもその気持ちが読み取れるんだ?」
「ええ、まあ。長年の付き合いですからね」
不機嫌そうに、でも微かに優越感を漂わせながら答える祥に向かって、湊はニヤニヤと笑いつつも質問を重ねる。
「じゃあ、もしかして気付いていたのかな?七海がキミのことを…」
「うわああああっ」
何を言い出す気だ、この男は。最後まで言わせてなるものかと慌てて叫ぶ私を横目で眺めながら、祥は顔色も変えずに言う。
「姉ちゃんが俺のことを好きだということですか?」
「ああ、七海がキミ「すっ、好きじゃないし!!」」
やめてやめてやめて。
だって、お母さんとお義父さんが既に夫婦として破綻しているのに、ここで私が祥に片想いしているなんてことがバレたら…絶対に家族崩壊だよ?5人姉弟のうち、3人が社会人になって最近では余り連絡を取り合うことも無くなっていたのに、これで長男・長女が色恋沙汰でドロドロしたら、もっと疎遠になってしまう。
だから、私が祥を好きだなんて知られては困るのだ。
「姉ちゃん…」
「祥のことは好きだけど、そういう好きじゃないから。肉親というか弟として好きなだけで、恋愛対象としての好きじゃないので、ほんと、安心して!第一、お姉ちゃんが祥を…とか考えたら気持ち悪いでしょ?大丈夫、お陰様で道を踏み外すことも無く、こうして湊と新たなる恋愛ステージに進もうと決心したところなんでッ」
必死すぎると自分でも思うが、今更どうにも戻れない。そんで、新たなる恋愛ステージって何だよ?ていうか、今いったいどの辺りのステージにいるんだっつうの?
最早グダグダ状態で自問自答しまくっていると、半笑いの湊が右手中指の先端を眉間に置いて顔全体を隠しながら私に問うた。
「なぜ隠す(コソコソ)」
「な、何がですか?(ヒソヒソ)」
「弟のことが大好きなクセして、なんだよその無駄に高いプライド(コソコソ)」
「プ、プライドの問題じゃありません。祥は将来有望な若者なので、その芽を私なんぞが摘むことが無いようにと真剣に考えた結果ですよ(ヒソヒソ)」
「芽を摘む?(コソコソ)」
「ただでさえ血の繋がらない姉弟が2人きりで暮らしているのに、その姉の方が弟を狙っていただなんて、もしご近所の奥様の耳に入ったらアッという間に町内中に広がり、我が家はスキャンダルの餌食になってしまうのです(ヒソヒソ)」
「えっ、こんな都心のマンションでそんな近所付き合いが有るワケないだろ」
「ココじゃなくて、実家の方に決まってるでしょ?!あの辺りは閑静な住宅街ですが、そこそこ富裕層が多いのでマダム達もかなりヒマを持て余していて、噂話も結構エグイ内容なんですよ。もし、私と祥が…ということになると、まだ実家で暮らしている双子達と美空との仲まで疑われてしまうこと間違い無しなので…それだけは避けたいんです」
切々とそう訴える私に向かって、湊はまたニヤニヤと笑っている。
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