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その11
しおりを挟む「おーい、九瀬弟。そこに七海はいるか?」
祥と顔を見合わせた私は、考えるよりも先に返事をする。
「はっ、はい!私はここにこっ、こ…」
「ああ、分かった」
慌てたせいで不明瞭な答えとなったにも関わらず、湊は理解したらしい。というか私の声が聞こえるから本人がいると判断しただけなのだろうが。とにかく、部屋の主である祥の了承を得ずに彼はドアを豪快に開けた。
うっ、眩しい、目が潰れる。
インナーシャツとトランクスしか身に纏っていない湊の姿はなんかもうエロエロで、上気した頬がまるで『俺を食べてみろよ、とっても美味しいぞ!』と誘っているかの様だ。直視出来ず不自然な感じで目線を逸らすと、祥も同類だったらしく思いっきり私達は見つめ合うことになってしまう。
「姉ちゃん」
「なっ、なに?」
「やっぱり、こんな男と姉ちゃんは合わないよ」
「えっと…」
とにかく反論しようと思ったのだが、それより先に湊本人が口を開く。
「九瀬弟、『こんな』ってどんなだ?」
「ほぼ初対面の俺がいるのに、下着姿で現れるとか…。恥じらいが無いというか人前でそういう格好になることに抵抗が無いってことですよね?少なくとも我が家ではそんな教育を受けていない。姉にはもっと常識的な考えを持った人間と付き合って欲しいんです」
そう言い終えた祥は、作り笑顔を剥がして真顔になる。
「だって急なお泊りで、着替えを用意していなかったんだから仕方ないだろう?これは不可抗力だ。取り敢えず、下着姿でフラフラ出歩いたことが不快だったのであれば、詫びておく…すまなかったな。ただ、俺の言い分も聞いて欲しい。俺が生まれ育った瀧本家では家政婦や使用人が大勢いて、俺と兄貴にも各々2人ずつ専属の使用人がついていたんだ。小さい頃からずっと着替えなんかは彼らが面倒を見てくれていたお陰で、兄貴も俺も下着姿のまま人前で立つことに抵抗が無い」
「へっ?家政婦に使用人って…。ね、姉ちゃん、この人いったい…」
驚く祥に向かって、私は湊の素性をサクッと説明する。某大手システム会社の創業者の息子で、現在は我が社で働いていること等を。すると祥は眉間に皺を寄せ、胡坐をかいている自分の膝をポンポンと叩きながら呟いた。
「その外見でしかも御曹司って…そんなの放っておいてもモテモテでしょうに。なのにどうしてウチの姉なんですか?確かに俺から見れば世界イチ可愛いと思うけど、そんなのはきっと家族の欲目で。他人目線ではきっと地味女にしか見えないはずなんだ。あの…、遊ぶつもりなら、そういういかにもな女を選んでください。俺の大事な家族は絶対に傷つけさせない!俺がこの手で守りますッ」
「しょ、祥…」
先程、とっても気になるワードが含まれていたんだけど。
祥が私のことを『世界イチ可愛い』って…。
でも『世間一般は地味女だと思ってる』って…。
いや、別にアイドルじゃないんで、誰か1人に愛されればそれで幸せだと思うんですが。でも、だって、やっぱり…上手いこと自分自身でフォローしてるけど、結局のところ私は地味だと言いたいんだよね??
たぶん私のことを『世界イチ可愛い』と褒めたのは、拗れた家族愛で。祥と美空の同衾事件さえなければ、私は未だに実家暮らしを続けていたはずだし、姉に迷惑を掛けていることを改めてこの機会に謝罪したいというか、己の人生を鑑みたところ悔恨だらけの…(以下延々と続く)。
「九瀬弟が七海を守るって、どうやって?」
「例えば、姉ちゃんに相応しい彼氏を俺が見つけます!」
「はあ?この俺以上に相応しい男なんかいないだろう?」
「それがいるんですッ」
へええ、そんな男性がいたのか。祥の会社の先輩とかかな?だったらもっと早く出会いをセッティングしてくれれば良かったのに。
などと考えながら、ふと上げた視線の先に祥がいた。そして私はその姿を二度見してしまう。何故なら彼は自分の右手人差し指で自分を指していたから。
そう、まるで『俺が相応しい男です』と言わんばかりに。
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