私に彼氏は出来ません!!

ももくり

文字の大きさ
11 / 45

その11

しおりを挟む
 
 
「おーい、九瀬弟。そこに七海はいるか?」

 祥と顔を見合わせた私は、考えるよりも先に返事をする。

「はっ、はい!私はここにこっ、こ…」
「ああ、分かった」

 慌てたせいで不明瞭な答えとなったにも関わらず、湊は理解したらしい。というか私の声が聞こえるから本人がいると判断しただけなのだろうが。とにかく、部屋の主である祥の了承を得ずに彼はドアを豪快に開けた。

 うっ、眩しい、目が潰れる。

 インナーシャツとトランクスしか身に纏っていない湊の姿はなんかもうエロエロで、上気した頬がまるで『俺を食べてみろよ、とっても美味しいぞ!』と誘っているかの様だ。直視出来ず不自然な感じで目線を逸らすと、祥も同類だったらしく思いっきり私達は見つめ合うことになってしまう。

「姉ちゃん」
「なっ、なに?」

「やっぱり、こんな男と姉ちゃんは合わないよ」
「えっと…」

 とにかく反論しようと思ったのだが、それより先に湊本人が口を開く。

「九瀬弟、『こんな』ってどんなだ?」
「ほぼ初対面の俺がいるのに、下着姿で現れるとか…。恥じらいが無いというか人前でそういう格好になることに抵抗が無いってことですよね?少なくとも我が家ではそんな教育を受けていない。姉にはもっと常識的な考えを持った人間と付き合って欲しいんです」

 そう言い終えた祥は、作り笑顔を剥がして真顔になる。

「だって急なお泊りで、着替えを用意していなかったんだから仕方ないだろう?これは不可抗力だ。取り敢えず、下着姿でフラフラ出歩いたことが不快だったのであれば、詫びておく…すまなかったな。ただ、俺の言い分も聞いて欲しい。俺が生まれ育った瀧本家では家政婦や使用人が大勢いて、俺と兄貴にも各々2人ずつ専属の使用人がついていたんだ。小さい頃からずっと着替えなんかは彼らが面倒を見てくれていたお陰で、兄貴も俺も下着姿のまま人前で立つことに抵抗が無い」
「へっ?家政婦に使用人って…。ね、姉ちゃん、この人いったい…」

 驚く祥に向かって、私は湊の素性をサクッと説明する。某大手システム会社の創業者の息子で、現在は我が社で働いていること等を。すると祥は眉間に皺を寄せ、胡坐をかいている自分の膝をポンポンと叩きながら呟いた。

「その外見でしかも御曹司って…そんなの放っておいてもモテモテでしょうに。なのにどうしてウチの姉なんですか?確かに俺から見れば世界イチ可愛いと思うけど、そんなのはきっと家族の欲目で。他人目線ではきっと地味女にしか見えないはずなんだ。あの…、遊ぶつもりなら、そういういかにもな女を選んでください。俺の大事な家族は絶対に傷つけさせない!俺がこの手で守りますッ」
「しょ、祥…」

 先程、とっても気になるワードが含まれていたんだけど。

 祥が私のことを『世界イチ可愛い』って…。
 でも『世間一般は地味女だと思ってる』って…。

 いや、別にアイドルじゃないんで、誰か1人に愛されればそれで幸せだと思うんですが。でも、だって、やっぱり…上手いこと自分自身でフォローしてるけど、結局のところ私は地味だと言いたいんだよね??

 たぶん私のことを『世界イチ可愛い』と褒めたのは、拗れた家族愛で。祥と美空の同衾事件さえなければ、私は未だに実家暮らしを続けていたはずだし、姉に迷惑を掛けていることを改めてこの機会に謝罪したいというか、己の人生を鑑みたところ悔恨だらけの…(以下延々と続く)。
 
「九瀬弟が七海を守るって、どうやって?」
「例えば、姉ちゃんに相応しい彼氏を俺が見つけます!」

「はあ?この俺以上に相応しい男なんかいないだろう?」
「それがいるんですッ」

 へええ、そんな男性がいたのか。祥の会社の先輩とかかな?だったらもっと早く出会いをセッティングしてくれれば良かったのに。

 などと考えながら、ふと上げた視線の先に祥がいた。そして私はその姿を二度見してしまう。何故なら彼は自分の右手人差し指で自分を指していたから。

 そう、まるで『俺が相応しい男です』と言わんばかりに。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

答えられません、国家機密ですから

ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家 結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。 愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。

放蕩な血

イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。 だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。 冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。 その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。 「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」 過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。 光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。 ⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...