10 / 45
その10
しおりを挟む姉弟とは言え、快適な生活を過ごす為のルールとして、互いの部屋に立ち入るには必ず相手の許可が必要だとしていた。だから、祥の部屋に入ったのは本当に久々なのである。
ふむふむ。
廉価でどこにでも売っていそうな家具や電化製品。クローゼットに入りきらなかったワイシャツやスラックスをぶら下げてあるスチール製のハンガーラック。
入居当時は義父の口説き部屋に相応しく、モノトーンで纏められたお洒落でハイソな部屋だったのに、今では生活感まる出しだ。その落差に思わず笑みが零れる。すると私を自分のベッドに座らせた祥は、そんな姉の姿を見て訝し気に眉を顰めた。
「なに笑ってるんだよ」
「ううん、何でも無い」
そう言えば、こうして2人で向かい合って話すのも何日ぶりだろうか。最近の祥は、私と一緒に食事することも無く、会話も少な目だ。それは社会人になったばかりで疲弊しているせいかもと勝手に解釈していたが、もしかすると違うのかもしれない。
「あのさあ、姉ちゃんって本当に男を見る目が無いよな」
「えっ、…そう?」
あんなにカワユク『あの男に…盗られる…』なんて呟いておきながら、今度はお怒りモードで攻めて来るワケ?振り幅が広すぎてお姉ちゃんは付いていけないよ。
「知ってるか?高校ン時に付き合ってた斉藤って男は、姉ちゃんと交際3日目に他の女から告白されて、そっちに乗り換えたんだぞ」
「嘘ッ!私達2カ月ほど続いたよ」
「バカだなあ、二股されてたんだって。この話、姉ちゃん以外は全員知ってる」
「う、わあ。本当に??」
そっか、『別れた後スグに新しい彼女が出来たのね』とか思っていたけれど、そうじゃなくて私と同時進行だったのか。くそう、斉藤め。私の甘酸っぱい初交際の思い出をよくも汚してくれたな。
「大学時代に付き合ってた町田は姉ちゃんの友達のチカって女とヤリまくってた」
「?!」
チカちゃん??だって、チカちゃんには当時、交際5年目のラブラブ彼氏がいたはず。
「あのチカって女、すげえビッチだったんだぞ。俺も何度か誘われたことが有る。でも、断ったけどな」
「あら、まあ」
他に言葉が見つからない。町田先輩ったら、あんなに私を束縛しておいて、自分はチカちゃんと??そ、それは酷い…。
「極め付けが、社会人になって付き合い出した吉岡な。あいつ、姉ちゃんと1年間付き合ってたけど、途中で結婚したの知ってるか?」
「け、けっこん?私、不倫してたの?!」
「ああ、それもデキ婚な。本当になんで気付かないんだよ…」
「なんでって、なんでだろう…」
過去に3人としか付き合ったことが無くて、そのうちの1人だけとかならまだ分かる。でも私の場合、全員がクズ男だったんですけど。これってもしかして引き寄せる体質とかなのかな?
落ち込む私に、祥は更に畳み掛ける様に言う。
「俺がその情報を入手して、姉ちゃんに忠告しようとすると、タイミング良くその直前に別れていたりするんだよ。だから、今度もまたそうならないとは言い切れない。あのチャラそうな男がさ、姉ちゃんを散々弄んだ後で俺がその悪行を知るんだ。なあ、こんな風に3回も続いたら次も間違い無くクズ男だと思ってしまうだろう?…俺は、純粋に姉ちゃんを守りたいだけなんだ」
「ううう」
コンコン。
コンコンコン。
その瞳から視線を逸らすことが出来なくて、ひたすら低い声で唸っていたところ、突然ノックの音と続けて湊の声がした。
0
あなたにおすすめの小説
白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活
しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。
新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。
二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。
ところが。
◆市場に行けばついてくる
◆荷物は全部持ちたがる
◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる
◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる
……どう見ても、干渉しまくり。
「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」
「……君のことを、放っておけない」
距離はゆっくり縮まり、
優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。
そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。
“冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え――
「二度と妻を侮辱するな」
守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、
いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する
花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家
結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。
愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。
放蕩な血
イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。
だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。
冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。
その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。
「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」
過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。
光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。
⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる