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その15
しおりを挟む「いえ、俺は結構です」
「あー、そう?」
本人の意向を無視して勝手に話を進めないで欲しい。
向かい合って座る私と湊の間にグイグイと入ってきて、強引に座る祥。その背後に隠れているが、どうやら湊は部屋着に袖を通している最中らしい。
「ねえ、九瀬弟。これってもしかして七分丈?」
「長ズボンのはずですけど」
自分の脚が長いというアピールなのかと思えば、実際に着用したその姿を見ると確かに不格好だ。身長は確かに湊の方が高いが、それでもこの寸足らずっぷりはおかしい。おかしいと言うか、この部屋着は一般的なMサイズなので、湊の脚が長過ぎるだけみたいだが。
でもまあ、部屋着とか言って本当は祥が高校時代に愛用していたジャージだし。取り敢えず上下で揃えられているソレを着た湊は、涅槃像の如く傍で横たわる。
「はい、じゃあ九瀬弟、七海へのアピールタイムを再開してくれ」
「うっ、ぐっ」
涅槃像の前で、棋士みたいに正座して向かい合う我ら。祥の話は先程からループしていて、如何に私が男を見る目を持っていないかという批判と、湊みたいな男と交際するのは危険だという説教がひたすら繰り返されている。
さすがにもう飽きてきたので新展開を望みたいところだが、クソ真面目な祥にそれをどう伝えれば良いのか判断に迷っていると、涅槃像が突然口を開いた。
「ねー、九瀬弟って彼女とかいる?」
「え…っ、あ」
「ここ最近、外泊が続いてるって七海から聞いたんだけど」
「…ません」
声、ちっちゃ。
どうやら『いません』と答えたらしく、湊はボリボリと脇腹を掻きながら尚も祥に向けて質問を重ねる。
「七海の妹と一緒の布団で寝てたって、そういう仲だったんだよな?あのさあ、ソッチとはもう完全に切れたワケ?」
「なっ、えっ?!ど…」
その話は我ら家族の中で最もタブーとしていることなのに、さすが湊、サラリと訊いてくださる。
「妹の方と別れて、今度は姉と付き合うって、節操無さ過ぎじゃないか?」
「なんでっ?!姉ちゃん、美空から説明聞いてないのかよッ」
美空から、何を??
祥の顔が余りにも悲惨な感じだったので、恐る恐る聞いていないと返事した。
「…ぅああ、そっか…、なるほど」
そう呟いた後、祥から語られた真実は予想外過ぎて、目玉が飛び出そうになる。その内容はこんな感じだ。
当時の美空は16歳、高校に入りたての美少女だった。母似の私とは違い、美形な実父に似た美空はどうやら性格も父親に似てしまったらしく、我が強くて目的の為ならば手段を選ばない。ある日突然、家族になったその人に一目惚れした美空は、形振り構わずに愛を伝え、とうとう一線を越えてしまったのだと。
しかし、相手は行為に至ってしまったことを激しく後悔したようで、急に余所余所しい態度を取り出す。そして見え隠れし出す、別の女性の影。焦った美空は幼いながらも様々な仕掛けをし、全て不発に終わったことで大胆な賭けに出る。
別の家族と仲良くしている姿を見せつけ、
嫉妬させてやろうと。
「ちょっと待って、当時双子達は11歳とかだったよね?」
「いや、12歳だったと思うけど」
「じゃあ、対象外ということにして、そうすると美空の好きになった相手って…まさか…」
「そう、父さんだよ。クズだクズだと思っていたけど、血が繋がらないとは言え、義理の娘にまで手を出すとかさ、ほんと最低だろ?」
なるほど、これで何もかもが繋がった気がする。
あの義父のことだ、きっと愛情なんか無くてただ本能のままに美空を抱いたのだろう。そして激しく後悔したに違いない。これがバレれば社会的にも抹殺されるし、あの母が知ればもっと厄介なことになる。とにかくほとぼりが冷めるまで美空との接触を断ったところ、今度は美空の方が思い詰めたと。
焦った美空はどうにか連絡が取れるようにと、最後の手段として祥との関係を仄めかしたが、残念なことに母はそれが義父に伝わらないよう隠蔽した。そして真実を知らないまま、私と祥をあの家から出すという結果になったのだろう。
「あの夜はさ、俺、いつもどおりに自分のベッドで寝ようとして、そしたらそこに美空が下着姿で寝ていたからパニックに陥っちゃったんだよ。で、驚き過ぎて言葉を失っているうちに、義母さんが事態を収拾させてた。その数日後に漸く美空と2人だけで話すことが出来て、それで約束したんだ」
「約束?」
祥は、美空が直接私に本当のことを説明すると言うので、その約束を信じてしまったのだそうだ。
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