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その27
しおりを挟む私は自分に自信が無いから、人の目を見るのが苦手だったりするのだが。
湊という人はそれを許してくれない。見つめ合うことがとにかく大好きで、ヒマさえあれは視線を重ねてくる。そして見詰め合ったら最後、逸らすことを許してくれないのである。
でも、待って。
ちょっとだけ待って。
すぐ傍に置いてあったソレを素早く手に取り、湊の鼻にそっと当てて私は優しく囁いた。
「はい、チーンして」
「ん?あ~、鼻水か」
ティッシュペーパーで押さえつけられたせいで、鼻水が『ばなびず』に聞こえるけど、照れ臭そうに笑いながら湊は素直に鼻をかむ。
ブーンッ!
一旦離し、ティッシュを別面に変えてもう一度。
ブビーッ!
「あはは、豪快だなあ。あのね、双子の弟達がまだ小さかった頃、こうやってよくお世話したもんだよ」
「ったく、俺は子供かッ」
「ある意味、子供より悪いよね。湊は図体だけ大人で中身が子供だから、行動範囲が広いんだもの。…ほんと世話の焼ける子供だわ。…でも、ダメな子ほど可愛いってよく言うじゃない?なんか憎めないんだなあ」
「うっ、ぐっ」
私は上半身だけ起こして、そのまま湊の頭を自分の胸に抱く。
「あー、ほんとダメダメで可愛い」
「……」
こんなに貶したから、てっきり怒り出すのかと思ったのに。
湊は気持ち良さそうにその身を預け、クフンクフンとまるで大型犬が飼い主に甘えてくるかの様に鼻先を擦りつけてくる。よく見るとその鼻先は真っ赤だ。
「湊、鼻が赤い…。あ、さっき鼻をかんだせい…って、ん?なんか顔全体が赤いのはどうして?」
「くっそ」
「へ…?」
「ああ、くそっ、俺、なんかバカみたいに幸せなんだけど」
唐突なその言葉に驚いていると、湊は珍しく自分から視線を外して明後日の方向を見ながら語り続ける。
「セックスとか甘い言葉とか高価なプレゼントとか。とにかくそんなもんよりも、今こうして七海に抱き締められているだけで、メチャクチャ愛されてる気がする。あああっ、苦しい、怖い、これを失いたくない。七海…、なあ、七海…」
ポロリと目から落ちたのは、
所謂『ウロコ』だったのかもしれない。
そっか、なんだ、同じだったんだ。
「わ…たしも、ずっとそう思ってた。湊はすごくモテるし、私のことなんかきっとスグに飽きて捨てられちゃうんじゃないかって。でも、短い間でも構わないから、今この時を湊と一緒に過ごそうって決めたんだよ。…ねえ、多分これ、恋をすると必ずセットでついてきちゃうのかもしれないね」
「セットで?」
「神様に試されているんだよ。恋愛には別れが付き物だって、万人がそう思わせられているの。そしてそれを乗り越えたカップルだけが、真実の愛を掴めるんだよ」
「七海も…、怖いのか?」
私は勢いよく頷く。
「当然だよ!大事な物を手に入れたら、真っ先に『失いたくない』と思うでしょ」
「そっか、そうなんだ…大事だから、怖いんだな」
明後日に向けていた視線を漸く私に戻して、湊は柔らかく微笑む。
いつもは自信満々で、無敵な王様という感じなのに。こんな表情も出来るんだ…と思ったら、妙に嬉しくなってその頬に手を伸ばす。全体重をかけない様にと腰を浮かせて私の座骨あたりに乗っていた湊は、私を再びソファに押し倒した。
「怖い…けど、やっぱり嬉しい」
「うん、…俺も嬉しい」
「幸せだねえ…」
「ああ、幸せだ」
この時、珍しく私の方からその瞳の奥を見詰めた。
こんなことを言うとバカだと思われそうだけど、でも本当に思ったのだ。
──私への愛が、たくさん溢れていると。
これを信じずに、何を信じるのかと。
そして私達は、見詰め合ったままで、
永遠に続くみたいな長くて深いキスをした。
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