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その26
しおりを挟む同じ恋でも、祥への気持ちと湊への気持ちは全然違う。
毎日一緒にいることが当たり前で、好きだと気づくまでに随分と時間が掛かってしまった祥への恋は、穏やかなクセに苦しかった。ただただ、諦め続ける静かな恋だった。
家族だから、
妹の想い人だから、
自分は愛されていないから…。
ひたすらその想いを隠し続けたことで、いつしか心も麻痺してしまったのかもしれない。
反対に、湊への恋は驚かされることが多くて賑やかだ。湊は浮気の件でも分かる様に、良いことも悪いことも全部私に伝えてしまう。バカみたいに正直で嘘が吐けない人だから、こちらも色々と振り回されてしまうのだが、一緒に乗り越えていくみたいな連帯感が有って案外楽しい。
押し込めるしかなかった恋と、伸びやかに育っていく恋。
改めて考えてみると、絶えず付き纏う女性関係に苦しむことは分かっていても、私が湊を選ぶのは至極当然だったのだ。
勢いよく祥がソファから立ち上がり、湊に向かって言った。
「こんな男と上手くいくはず無いと思うけど…でも、姉ちゃんがアンタを『イイ』って言うんだからしょうがない。だけどもし姉ちゃんを泣かせたら、いつでも俺が掻っ攫うから。覚悟しておいてくださいよ」
「ふふっ。お前の出番は絶対に来ないから、俺と別れることを期待しないで早く新しい彼女でも見つけるんだな」
カッコつけてるけど、湊、鼻水を早く拭きなよ。
「姉ちゃん、じゃあ俺はこれから正人か斗真んちに泊めて貰うから。ゆっくりすればいいよ」
「えっ?や、だって、悪いよ」
「…どうせイチャイチャするんだろ?姉ちゃんのそういう声、聞きたく無いし。姉ちゃんとソイツが2人で別の場所に移動するより、俺1人が出て行った方が効率的じゃないか」
「でも、祥…」
「いいんだよ。正人のマンション、雀荘状態になっててさ。いつ行っても喜んで出迎えてくれるから」
「…雀荘?じゃあ、よく外泊してたのって正人くんちで麻雀してたの?」
『うん』と答えながら祥は、外泊準備をするため自室に向かって歩いて行く。
「な…んだ、そっか…」
「そういや七海って昔、『弟に彼女が出来たみたいで、外泊が増えたんだよね』とかよくボヤいてたよな」
そんなことさえ訊けなくなっていた私達が、漸く本来の姉弟という関係に戻る。いや、戻れたとしてもそろそろ潮時なのかもしれない。
「私、このマンションを出てひとり暮らしを始めようかなあ」
「賛成!」
ずっと床に直座りし、私の両手を握ったままの状態で湊は笑っている。
「ねえ、湊に教えて欲しいことが有るの」
「ん?なに」
「私のどこが好き?」
「全部」
「ちょっ、ふざけないで真剣に答えてよ!」
「だから、全部。メチャメチャ好き」
ぎゅううううっと心臓を掴まれた気がしたけど、ハアハアと呼吸を荒げながらも私は根性で会話を繋げる。
「だって、私、こんな地味な外見だよ?」
「俺からすればパーフェクトだけどな。メイク前とメイク後の差がほぼ無いし、見れば見るほど味わいのある顔だ。高くも無く、低くも無い絶妙なバランスの鼻。いつでも微笑んでいる様に見えるその唇。ボッテリした奥二重なんか最高だぞ、驚くと猫みたいに釣り目になんのな。あと、七海って生理前になると必ず顎にニキビが出来るの知ってるか?あれ便利だぞ、俺、いつもそれ見て禁欲の準備をしておくことが出来るんだ」
…なんだろう、全然褒められている気がしない。いや、むしろ貶されているのではなかろうか。
「性格だってサバサバしてるし、甘え下手だから全然可愛くないでしょ?」
「可愛くないところが、可愛いんだって。それに昔と比べれば、かなり甘えてくれる様になったと思うぞ。徐々に懐いてきたんだよな、俺に」
パタン
玄関ドアが閉まる音で、祥が出て行ったことが分かる。
「うわああっ、な、ななに??」
「もっと、懐かせてやろうかと思って。ぐふふ」
『ぐふふ』って…。
そんなワケで私は現在、絶賛押し倒され中なのである。
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