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その29
しおりを挟む湊は私よりも多忙なので、同じ総務部でも業務中はなかなか話すことが出来ない。だから、LINEで報告しておくことにした。
>湊、ごめん。
>今日の晩御飯は1人で食べて。
>私、デジコン部の中島さんと
>飲むことになった。
これに続けて営業部の松原さん一派も一緒だというメッセージを送ろうと思ったのだが、湊はイマドキの女子高生並みに入力が早いので、返信もアッという間に届く。ピコンという着信音と共にメッセージが表示されたかと思うと、更にピコン、もひとつピコンと怒涛のメッセージ攻撃が始まった。
>それって女子会?
>中島さんと七海って
>そんなに仲良かったっけ?
>彼女って営業部の松原さんと幼馴染で
>しょっちゅう一緒に飲んでるって
>聞いたけど。
>まさか営業部の松原さん達も
>一緒じゃないよな?
>松原さん“達”っていうのは、
>甲斐、番場、富井を含む
>4人のことだぞ。
>番場ってチャラいよな~。
>あいつ、俺の行きつけだったクラブで
>二股かけてた女とトラブって
>バケツで水をかけられてやんの。
>それに…(以下略)
残念ながらココで昼休憩が残り5分となったため、私はそっとスマホをバッグに仕舞う。いやあ、本当に湊って勘が鋭いよね。しかも全部当たってるから怖いんだな。それにしてもこの場合、何と返信すれば正解なのだろうか。
焦って近くにいた朱里ちゃんに相談すると、さすがは廣瀬さんの嫁(※予定)。
「早い時間に返信すると再びメッセージ・ボムを受けるから、こうなったら待ち合わせ時間ギリギリに返信して、正直に真実を伝えるしかないですよ」
「そ、そっか。うん、じゃあ、そうする」
と、いうワケで18時50分に『お察しのとおり松原さん一派も一緒だけど、それは決してコンパでは無いし、しかもサプライズゲストとして私の知り合いの女性も参加するらしいです』という内容で返信し、それに追加で『松原さんが強引で断り切れなかった』ということも伝えてみた。
後はマナーモードに設定してバッグの中に放り込む。ふひゅう、これで納得してくれればいいけど。いつもならば湊の方があちこちから誘われ、私に『ごめん』と言って来ることが多いので、こんな逆パターンは想定外だ。
でもまあ、私の時は必ず『いってらっしゃい』と快く送り出しているし、湊もそうでないと不公平だよね…などと自分で自分に言い聞かせ、化粧室でメイクを直してノロノロと待ち合わせ場所に向かう。
「ゲッ、なにコレ…」
「あ!九瀬さん、お疲れ様です」
夜間出入口はそのまま駐車場にも繋がる様な設計になっており、19時くらいだとそれなりに人の出入りが激しいのだが。ドアを開けてすぐの場所で人だかりが出来ていて、その群れから少し離れた場所にいた中島さんが私を見つけて駆け寄ってくる。
「中島さん、お疲れ様です」
「急にお誘いして本当に申し訳ありませんでした。あ、こちらは同じ部署の竹中さんです」
女子アナっぽい雰囲気を持ったモテ女子が目の前に現れた。おお、これなら松原さん一派に誘われて当然だ。美人な上に、しかもデジタルコンテンツ部所属って…。あの部署、富樫副社長がリーダーを務めているだけあって、一握りの優秀な人間しか入れないからね。
「初めまして、総務部の九瀬です」
「ふふっ、こちらこそ初めまして、竹中マミです」
竹中さん同様、中島さん自身も中途採用で、男だらけのデジタルコンテンツ部に配属が決定した際には大騒ぎになったらしい。いかにも男受けしそうな庇護欲を掻き立てる容姿に加え、はちきれんばかりの巨乳。…なのにその内面はサバサバというアンバランスさが女性社員からは敬遠されず、男性社員からも人気という素晴らしい逸材だ。
この2人と一緒だなんてなんだか気が引けるが、どうしてもと誘って来たのは松原さんの方なので今晩は頑張って楽しもうと思う。
中島さんが人だかりに向かって『九瀬さんが来たよ!』と叫ぶと、群れの中心にいた松原さん含む4人の男性が歩き出し、彼らが事前に言い聞かせておいたのか、それ以上取巻きの女性陣は追って来なかった。
暫くして番場さんが私の隣りで並走ならぬ並歩しだす。湊情報によればこの番場さんが一番の要注意人物で、チャラい上に女性関係も乱れているらしい。
「俺、すっごく会いたかったんですよ、九瀬さんに。あ、これからは七海さんって呼ぶね」
「え…」
たぶん私の方が番場さんより年上のはずだが、初対面でいきなり名前呼びって馴れ馴れしくない?思いっきり眉間に皺を寄せてみたものの、そんな表情の変化は読み取って貰えなかった様だ。
「だって、紛らわしいし」
「紛らわしい?」
「『猛獣使い』と呼ばれているんだってね」
「猛獣って、あの、それはどういう…」
ああ、そうか。湊のことだな?
てっきりそうだと思い込んでしまったが、目的地である欧風バルに到着し、先に座っていたサプライズゲストの顔を見て漸く全てを理解した。
「あはは、久しぶり~、元気だった~?」
「なっ、どうしてここに…」
そこにいたのが、我が家のトラブルメーカーこと妹の美空だったからである。
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