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その45
しおりを挟む「あはっ、大量のお守り発見!」
「そういうのはお焚き上げして貰わなきゃ」
「あ~、あの神社でメラメラ燃やすヤツね」
「縁結びのお守りが、いち、にぃ…7個も有るって執念を感じてちょっと引くな」
「やだ、引かないでよ。因みにコレって去年、一気に購入してるから」
「うわあ…」
「だから引かないでってば。余りにも恋愛関係がパッとしなかったもんで、ラッキーセブンという意味で7個買ってみたんだよ」
「お守りをラッキーセブンって、和洋折衷かよ」
「あ、本当だ~」
「お前、ほんと何も考えてないだろ?」
えへへと笑いながら、ふと思い出した…このお守りを買った頃は自分なりに悩んでいたことを。
どうすれば抜け出せるのか、
どうすれば変われるのか、
どうすれば動かせるのか、
どうすればどうすれば…と。
それは主に恋愛方面のことで。
祥のことは既に諦めていたクセに、だからと言って新たに好きになれる男性とも出逢えず、一緒に愚痴を言っていた女友達は1人2人と彼氏を見つけて幸せになっていき…。
幸せがどんなものかは分からない。
その定義は不明だし、実体だって掴めていないし、どうやら各々の価値観に寄って激しく左右されるものの様だし、とにかく曖昧で霞のような存在らしいのだけれども…それでも私に分かるのだ。
『ああ、この人は今、幸せなんだろうなあ』と。
不明瞭なはずなのに、本人はハッキリとソレを実感しているし、周囲にもそうだと伝わってくるだなんて、幸せというのはなかなか油断ならないものらしい。
…なんてことを湊に向かって訴えてみた。
すると彼は悪戯っ子の様な目をして私に微笑むのだ。
「俺さあ、番場・兄に『世の中は不幸で溢れている』と言っただろ?」
「うん」
「だけど、実は幸せも同じ数だけ溢れているんだ」
「ええっ、そうなの?」
「よく分かんないけど、多分そうなんだ」
「なんでよく分かんないのよ~」
「だって俺、めちゃくちゃ幸せなんだけど」
「うっ」
「今まで不幸だと思ってたはずの過去の記憶が、全部この幸せに塗り替えられて、なんかもうオセロみたく全て黒から白になっちゃった感じ。…なあ、幸せって凄いよなあ、俺の過去を全部消しやがんの。
今が幸せならそれでイイじゃん…って」
──初めて湊に会った時は、チャラくて我儘そうでこんな男とは絶対仲良くなれないと思った。それが、いつの間にか一緒に食事するようになり、『嫌い』から『嫌いじゃない』へ、それが『好き』へと変化し、最終的には『大好き』になってしまった。
縁結びのお守りを7個も買うほど焦り、この男だけは対象外だと思っていたはずだったのに、何てことはない、結局はその対象外を選んでしまったのである。というか、対象外だから気軽に話せたし、対象外だから平気で一緒にいられて、それで仲が深まったのだからいま思えば可笑しな話だ。
「あ~、私も幸せかも」
「そりゃそうだろうよ」
「なにその自信?」
「長年好きだった義理の弟をフッてまで、選んだ男だぞ?お前、俺のこと超好きに決まってるじゃん。そんな俺と付き合えて幸せ一杯に決まってるだろ」
「うん」
「ぶっ、バッ!バカ。ここで突然素直になるなよ」
「湊が好き」
「うっ、ぐっ、…お、俺も…」
「大好き!」
「俺も七海が大好きだ!」
ヒシッと抱き締め合ったその時、誰かが背後で『コホン』と咳払いした。
…誰かって、祥しかいないんですけどね。
「ひいいっ!!」
「げええっ!!」
「って、2人ともココで盛っちゃダメだから!姉ちゃんが引っ越した後、このリビングを見るたび俺がイヤァな気分になるってこと、忘れないでくれよ。ていうか、早く引っ越しの荷物を纏めなってば!イチャついてる場合じゃないからッ!」
グッタリした様子で自室に戻る祥の背中に平謝りしながらも、私達は慌てて作業の手を進める。その数時間後にはどうにか梱包完了し、あれよあれよという間に引っ越し屋さんに荷物を渡し終えた。
「やっぱり私は、やればデキル子」
「ああ、偉いぞ七海!」
「とか言ってないで、早くタクシーに乗って引っ越しトラックより先に新居に到着しなきゃ!2人とも急ぎなよ」
普段はオットリしている祥に急かされながら、私達は慌てて靴を履く。
「じゃあ、祥!またね」
「祥くん、お邪魔しました~」
正直に言うと少しだけ感傷的になっていたのだが、それを悟られまいと明るく手を振ると、祥はダルそうに手を振り返す。
「バーカ、ずっと幸せになりやがれ」
…そんな餞の言葉に、私と湊は心の底から笑った。
--END--
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