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16.ライバル出現?!
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「気を抜いたら終わりだからね」
数日後。
課長とのことを報告すると、喜三郎さんはニコリともせずにそう言った。報告することを伝えてあったので、課長は自室に籠ったきり出てこない。彼いわく、恥ずかしいのだと。ブスと貶していた女にメロメロなところを弟に見られては、兄の威厳を保てないそうである。そして険しい表情で喜三郎さんは続ける。
「まさか両想いがゴールとか、そんな小学生的発想は持っていないよね?」
「えっ、ひと段落ついたのでは無いのですか?」
ぶにゅうと両頬を引っ張られ、バシバシとエア平手打ちされた。
「このド素人がッ!!お兄ィはね、恐ろしいほど多くの女性と付き合っては別れ、別れては付き合ってるワケ。残念ながらあの人はキコちゃんと違って恋愛を重く考えていないし、いつでも別れようと思ったら別れられる男なの」
衝撃…そして納得。確かに私たちは恋愛の分母が違い過ぎる。
課長にとって私は100分の1で、
私にとって課長は1分の1なのだ。
「ど、どうすれば良いのでしょうか?どうすればこの恋を長続きさせられるのかをご伝授くださいッ、恋愛マスター!」
「うーん、とにかく追われる女になることかな」
「ど、どうすれば追って貰えますか?」
「外見はもう及第点だと思うんだよね。だから問題は中身かなあ。キコちゃんはね、良くも悪くも裏表が無い」
「ダ、ダメですか?」
「恋愛って、ドラマなんかと同じなんだよねえ。先の読めるストーリーだと、もう視ないでしょ。反対にハラハラする展開だとつい夢中になる」
そんな、そんな、そんな。高度過ぎて私にはどうすれば…。すがるように喜三郎さんを見つめると、彼は笑ってこう言った。
「キコちゃんなりに考えて、仕掛けてごらん。飽きが来なくて、ずっと続く関係を。誰もがその問題に日々、悩んでいるんだ。付き合い始めた今だからこそ、頑張らなくちゃ」
喜三郎さんが帰ったあと、手っ取り早く訊いてみることにした。
「あの、課長って私のどこが好きなんですか?」
即答して貰えると思っていたのに、彼は読みかけの難しそうな本に指を挟んだまま、じーっくりと考え込むのだ。
チクタク…。
チクタク…。
ええい、どんだけ悩むんだっつうのッ。
「えっと、ラクなとこ?」
「だからいちいち疑問形で答えないでください」
自分の良い部分を伸ばそうと思ったのだが、『ラク』と言われるとどうすればいいのやら。仕方なくソファで寛ぐ彼の頭を強引に掴み、自分の膝に乗せてみた。
「なっ、おいっ、何だよ小嶋!読んでた頁が分からなくなっただろ?!」
「タラララッタラ~ッ。ひざまくら~」
未来からやって来たネコ型ロボット風の効果音までつけて陽気にそれを実行してみたのに、どうやら不評な様子。この調子でやることなすこと裏目に出る。
「…はああ。恋愛って難しいね」
「へえッ?!…ああ、うん」
ランチタイムで帆花ちゃんにそう呟くと、相談に乗ってくれることに。課長との交際は極秘だが、唯一、帆花ちゃんにだけは話してあるのだ。今でも報告した際のあの顔が忘れられない。人間って驚くと本当に目が飛び出るんだなと、それを実感するほど素晴らしい驚きっぷりで。少しだけ複雑な気持ちになったものだ。
「うーん、そっかあ。ウチの彼氏と違って大松課長はモテそうだもんね。気を惹くと言っても、そんな高度なテクニック、紀子ちゃんには無理じゃない?」
「自分でもそう思う」
「手っ取り早いのは嫉妬させることかもね。でも、拗らせると逆効果だし。その弟さん…喜三郎さんだっけ?せっかくアドバイスしてくれたけど、もう聞かなかったことにしちゃったら?下手な小細工するよりも、ただ一緒にいる時間を重ねていくことの方が、2人の結びつきを強くすると思うんだけどな」
「そっか、そうだよね」
こんな感じで話は一旦まとまり。それから数日間は呑気に過ごしていた…のだが。
「支店からまいりました小杉瑤子です。本日から1週間、お世話になります」
たった2人だけのプロジェクトチームを見学させてくれと。29歳だというその女性は、転職してきていきなり主任に抜擢されたらしく。まだまだ伸びしろが有ると見込まれ、こんな風に本社で幾つかの部署を渡り歩くそうだ。
中身が有能なのはさておき、問題は容姿である。ミスなんとかに選ばれそうなほどの美しさで。コレと並べられると私が見劣り…いや、比べては申し訳ないほどのレベルの差なのだ。彼女が歩くと、男女問わず殆どの人がその姿を目で追う。しかもこの小杉さん、性格も素晴らしく。サバサバしていて非常に明るく話し易い。…嫌な予感がした。そしてそれは残念なことに当たってしまうのだ。
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