そんな女のひとりごと

ももくり

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21.そんな女のふたりごと

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……
そこまでを大松課長に話し、私は自分の気持ちを述べた。

小杉さんの身に起こったことは、他人事には思えないと。私の相手がたまたま当たりだっただけで、いつ小杉さんのようになってもおかしくなかったと。

「恋愛って、当たりハズレがあるんですねえ。なんだか真面目に頑張って生きていれば、それ相応の男性と出会えるってワケでも無い。仕事は手抜き、性格だって最悪な女のコでも、素敵な彼氏がいたりしますもんね。そう考えると、なんだか恋愛って不公平だな」

その言葉に、課長は真剣な表情で答えるのだ。

「でも、今の小杉さんはすごく綺麗じゃないか。…なあ、こう考えることは出来ないかな?泣いて、苦しんで、のたうち回って、彼女はそれでも前に進んだ。あの美しさは、そんな自分に対する自信の表れなんだよ。女性に階級制度があるとすれば、彼女はかなり最上級の位置にいて。そこまで上り詰めることが出来たのは、悔しいけどその最低な元旦那のお陰だと思う。っていうかさあ。なんか、この話の流れをぶった切って悪いけど、ちょっとだけ、ほんとちょっとだけ…傷ついた。小杉さんって俺に惚れてたんじゃなくて、結局は紀子を気に入ってたってコトだよな?」
「えっ。あ…そう…かな?」

かなりシリアスな雰囲気だったのに、この一言で私は吹き出してしまう。なんなんだこの可愛い男は。

「笑うのは止めてくれよ、紀子。やっぱ最近の俺、人気無いよなあ。ごめんな、こんなモテないオッサンで」

だから私は胸を張って答えるのだ。

「いやあ、私から見ると銀河系イチのイケメンですけどね。あ、もしかしてほら、私のことが好きだってダダ漏れになってるのかも。小杉さんにもスグに見破られたでしょ?女って基本、他人のモノには興味無いから。だからモテなくなったのかもしれないですよ」

その言葉に課長は、ニカッと笑い。私をギュッと抱き締めながら語るのだ。

「あのさ、どっかの編集者が言ってたんだけど。1つの作品を、『好きだ』と言う人間と、『嫌いだ』と言う人間の両方が必ず存在すると。でも『好きだ』と言う人間が10人いれば10冊購入して貰えるワケで。『嫌い』という人間が10人いてもそれは別にマイナス10冊という計算にならないのだと。だから敢えて『好きだ』という人間を大切にしていくんだってさ。

えっと、何を伝えたいかと言うとな、人間もそうなんじゃないかと思って。なぜかヒトは万人から好かれようと無謀なことを願ってしまうんだけど、たぶんそれは絶対に無理なんだよ。だから俺は決心したんだ。これからは紀子にだけ、ひたすら好かれようと。でさ、どんなリクエストでも受け付けるから、何なりと言え」

その横柄な言い方があまりにも可愛くて、私はまた豪快に笑う。

先のことなんて、誰にも分らない。毎日同じことを繰り返し、毎日同じ顔ぶれとしか話をしなかったのに、ある日突然その中の1人と恋をした。それは『突然』なように見えて実は小さな小さな積み重ねが有ったはずだし、その積み重ねが有ったからこそ恋にまで至ったのだ。

誰からも相手にされない自分に落ち込んだり、美人な友人を羨んだり、そんな日々が今ではとても愛おしい。

「紀子、何を考えているんだ?」
「リクエスト、必死で考えてみたけどなんかもう全然浮かびません。満たされ過ぎてて、コワイ…」

私の言葉で、幸せそうに課長が微笑む。その指でそっと頬を撫でて、優しくキスをする。次にすることはもう分かっているのだ。幸福なルーティン。蕩けそうな目で私を見つめてきっと彼は言う。

「ああ、好きだな。なんでこんなに好きなんだろ」

だから私もこう答える。

「ほんと不思議ですよねえ」

だって単なる上司と部下だった。絶対に恋愛感情なんて抱くはずないと思ってた。あんなに離れていた二人が、今ではこんな近くにいるなんて。

「今度は紀子の方からキスして?」
「うひゃあ、はいぃ」


…本当に神様は素敵なことをしてくださる。




--END--
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