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砕けまくった恋
しおりを挟む貴方のマルは、
私のバツで。
私のマルは、
貴方のバツかもしれません。
価値感なんて人それぞれ。
だから同じ考えを
強要しないで欲しいのです。
私の初恋相手は、その名を御門圭といい。それはもう見目麗しい人だった。イギリス人とのクォーターで、その見た目は8割が日本、残り2割がアチラという感じだろうか。あまりの美しさにその界隈では知らない人間がいないほど評判になっており、リアル王子様の周辺はいつも綺麗な女子たちで溢れ返っていた。
そんな王子様がある日突然、我が家にいたのだ。
それは私が中学に入ったばかりの頃。私には1つ年上の兄がいて、その名を聡介というのだが、あまりにも『キテレツ大百科』の勉三さんに酷似していた為、誰もが“勉三”と呼んでいた。ゲームやアニメが大好きなオタクの兄は、妹の私が言うのもなんだが非常に性格が良く、困った人がいるとスグに助けるお人好しだったのだ。王子との出会いもそれが起因だったようだ。
「ただいま~」
「あ、未来。悪いけど今、友だちが遊びに来てるからさ。お茶でも持って来てくれないかな?ちょっと俺、手が離せないんだよ」
どうせお得意のオンラインゲームでもしているのだろう、それもオタクの友だちと一緒に…その時はそう思った。なんだかんだ言って兄想いの私は麦茶をコップに注ぎ、お盆にも乗せずそのまま兄の部屋へ入って度肝を抜かれるのである。
なんだコレ?!コレなんだ?!
その一カ所だけが光を放ち、目が潰れそうだ。
目に星が入りまくった二次元キャラのポスターの前で胡坐をかいていたその人は、ただ私の方に顔を向けただけなのに、その姿がまるで一枚の絵のようだ。貧弱な兄とは比べ様も無く、その恵まれた体躯は胡坐ですらもモデルの決めポーズかと思わせる。天然のふわふわした茶髪、冗談みたいに整った顔、それが笑った時の破壊力と来たらもう…。
一目で私は恋に落ちた。
いや、たぶん世界中の女子たちがこの人に恋をするに決まっている。『人間、外見じゃなくて中身だよ』なんて台詞、この人を見たら絶対に言えない。
だってイケメンは正義!
イケメンは無敵!
イケメンはオアシス!
イケメンは最高!
とっ、とにかく私は問答無用で恋に落ちたのである。
急に静々と女らしくお茶を出して用事も無いのにそこに居座り、兄から経緯を訊き出す。どうやら、いつでもどこでも女子たちに追い回されていた王子は男友だちが皆無だったらしい。そりゃあこんなイケメンと行動を共にしたいと思う奇特な男子が存在するはず無いのだが、それでも王子は男友だちとキャッキャするのが夢だったようで、昼休みの屋上で1人寂しく黄昏ていたところ、たまたまそこに現れたのが兄だったそうだ。
この兄が『俺で良かったら一緒に遊んであげるよ』とかなんとか親切ぶって言ったらしく、とっても喜んだ王子はそのまま我が家に遊びに来た…ということだった。さすが我が兄だ、格差なんて全然気にしないんだな。ていうか一緒にゲームが出来る相手を見つけて、むしろとっても嬉しそうだし。
そんなこんなで、一時的なものだと思われた兄と圭くんの関係はそれ以降もずっと続き。私は“親友の妹”という立場を利用して、誰よりも圭くんに近い女友だちの座を獲得。そして振られても振られてもしつこく告白し、10年目にしてようやく彼を諦めたのである。
>富樫副社長と一緒に仕事した女は、
>必ずあの人に惚れて壊れちゃうんだ。
>これ冗談じゃないんだって。
>実際に13人の女性社員が自滅してる。
>独身の女性社員だけじゃなく、
>既婚の女性社員でもやっぱりダメでさ。
>でも副社長がリーダーになっている
>あの部署にはどうしても女性社員が
>1人は必要なんだよ。
>本当に富樫副社長ったら魔物だな。
>無自覚で女性の心を掴むんだから。
ハイ、お任せください!
そんな魔物に対抗出来るのがこの秋山未来、御年23歳でございます。10年もの間あのキラキラ王子を見つめ続け、男性に対する基準がハンパ無く上がったせいで残念ながらイケメンと評判の富樫副社長にも揺らぎません!!…さすがにそんなことを言えるワケ無いが。
「へえ。俺と視線をガッツリ合わせて会話する女って、久々に会ったな」
面談の際、副社長からそんな理由で気に入られ。これでもかというくらいに直視しまくったら、更に気に入られてしまったようで。副社長率いるデジタルコンテンツ部に配属されることが無事に決定してしまった次第である。
私は圭くんが好きだった、とにかくどうにもならないほど好きだった。他の女子たちとは違って外見のみでは無くその中身に関しても熟知しており、全部ひっくるめて丸ごと惚れていたのである。王子様の着ぐるみを脱ぐと中の人はごく普通で。新発売のお菓子をワクワクしながら食べたり、ヤンチャな男子生徒が接近すれば身構えるし、巨乳女性がテレビに出ると胸をガン見する。…そんな素朴な部分を知っているのは私だけだと、誰よりも彼を理解しているつもりになっていた。
>圭くん、好きです!付き合ってください。
…この言葉を何度、彼に告げただろうか。
>ごめんね、とっても嬉しいよ。
>でも、気持ちだけ受け取っておくから。
…この言葉も何度、聞かされただろうか。
今ではもう、あの頃の自分を思い出すと恥ずかしくて死にそうになる。中2の夏に初めて告白し、最後にそれを告げたのは就職が決まって1人暮らしを始める直前の22歳の冬のことだ。これでダメならもうスッパリ諦めようと決意を固め、それでも明るく振る舞って私は言った。
>圭くん、好きです!付き合ってください。
すると彼は予想外の返事をくれたのだ。
>本当に未来ちゃんは挫けないなあ。
>じゃあ1回だけ相手をしてあげる。
>それで納得してくれないか。
さすがにこれはショックだった。
この言葉を乱暴に解釈すると、こうだ。
>一回だけ抱いてやるから、もう付き纏うな!
バ、バカにすんなよ!
乙女の純情を一体何だと思っていやがる!!
…と思ったが実際に口から出たのは、こうだ。
>はい、宜しくお願い致します。
同じ人間のはずなのに、容姿の優劣如きでナゼ私だけが卑屈にならなければいけないのか??そんなアンフェアな世の中に激しい憤りを感じながらも、それと同時にホッとしていた。
ようやくこれで、圭くんのことを忘れられる。
これで私は次に進めるのだ…と。
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