私たちは恋をする生き物です

ももくり

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2人目が同じ部署に

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「ただいま戻りました」

 それから自席に戻り、固定電話のディスプレイに表示されている時刻を見ると既に14時で。

「電広堂の人たち、こんな時間に昼ご飯を食べたら食事会の頃にはまだお腹が減らないよね」
「あ?何だって」

 独り言のつもりが、声のトーンが大き過ぎたせいか隣席の田島さんから問い返されてしまった。田島さんは中途採用組のうちの1人で30歳独身・彼女ナシのごくごく普通の男性なのだが、これが恐ろしいほど自意識過剰で。なぜか私が自分のことを好きだと思っている。

 いや、実際にそう言われたワケでは無いのだが、そういうフラグがビンビン立っていて。しかも、どうやら私はこの人の好みのタイプでは無いらしく、たびたび拒絶するような態度を取られてしまうのが妙に切ない。いつか発表の機会を与えて欲しいものだ。そうすれば『こちらもアナタが好みではありません』とハッキリ言ってあげられるのに。…そんなことを考えながらも私は百点満点の作り笑顔で返事した。

「今晩、電広堂さんと食事会が有ってウチの部署は強制参加させられるらしいですよ」
「えっ?!そんなあ…突然過ぎるだろッ」

「今後、あちら経由で大量に仕事が入るそうなので顔を覚えて貰った方が得だと思いますけど」
「いや、でも俺は…や、約束があるからッ」

「いえいえ、どうせゲーム関係の何かでしょ?」
「うるせえ、何でそれを知ってるんだよッ」

 だってそれ以外に予定は無いはずだし。可哀想な捨て犬を見るような目で田島さんを見ていたその時、副社長がフロア中央に立って声を張り上げた。

「皆んな、よく聞いてくれ!先程メールでも周知済だが、今晩、新たな提携先である電広堂の方々から食事会に誘われたぞ。突然決定したことで誠に申し訳ないが、ウチの部署は全員参加で頼む!どうしても無理だという者は直接俺に報告を。向こうは綺麗どころの女性社員も来るそうだ!女っ気のない野郎どもには、またと無いチャンスだと思う。お前ら、揃いも揃って独身だからな。ここでちょっとは頑張れよ!」

 オーッと雄叫びが聞こえ、そしてすぐに引いた。そして隣りから田島さんが私に熱弁してくる。

「うわっうわっ、だって天下の電広堂だろ?女性社員は顔で採用されるって評判じゃん。そんな美女揃いの所に行くのか?怖ぇ~」
「はァ、そうですか…」

 ふっ、だからどうした。お見合いパーティーじゃあるまいし。これは仕事なんだっつうの!!くわっと目を見開く私の肩を、背後から歩み寄って来た副社長が叩く。

「はい?」
「ほら出せ。残業になりそうな分」

 本当に手伝う気だったのか。

「…俺は、美人には飽きたからな」
「…はァ?」

 それはすなわち、私を慰めているのか??きっと遠回しに『ブスでも頑張れ!』と言っているんだろうけど、余計なお世話なんですが…。

 ドサッ。
 ムカついた私は多めにそれを渡す。

「宜しくお願いします」
「よしよし。たまにはお前、周囲を頼れよ。だいたいなあ、仕事を抱え過ぎなんだって。一応まだ新人だし、ムキになって頑張るな」

 ハイと即答しようと思ったが、副社長の肩越しに見えたその人の姿に驚き思わず言葉を失った。

「え?ああ、お前たちそう言えば同期だったな。電広堂との提携で仕事が増加することを見越し、ウチにもう1人増員することにしたんだ。辞令には来月からとなっているがな」


 …悲しいお知らせ。
 どうやら私は龍と一緒に働くことになるらしい。





………

 パーフェクツ!!
 なんだあのお嬢さん方の美しさは?!

 とかなんとか思いながら、壁際でもくもくと食べることに専念していた。電広堂では月イチで食事会をしているらしく、それも毎回、取引先の関係者を招待することが暗黙のルールとなっているそうだ。

 今日はたまたま招待客がいなくて、そんな時に我が社との打ち合わせが突然舞い込んで来たのでダメ元で誘ったところ、副社長が2つ返事でOKを出したというワケで。さすが遊び心を大切にする会社というか。過去には銭湯を貸切にして入浴後に宴会をしたり、ナイトクルーズで催された会もあるのだと言う。

 そんなものに呼ばれなくて良かったとは思うが、こんな大きなレストランを貸切るなんて、結婚式の二次会でも無ければ出来ない所業だ。しかも10人ほどいる電広堂の女性社員は、噂に違わぬ美人揃いな上に華やかな装いでバッチリ決めていて、普段着の私は思いっきり浮いている。

 …ん、“無”の精神で頑張るぞ。

「なあ、あの青い服のコ、胸が見えそうだよな」
「田島さん、そういう話は下品ですよ」

「あ、それ旨いか?なんか食べるの難しそうで敬遠しちゃったんだ。立ち食いって不慣れでさ」
「近藤さん、ビュッフェと言ってください」

 せっかく人が“無”になっているというのに、なぜか我が社の男性たちに囲まれてしまい、まるでオタサーの姫状態だ。ウチの部署は総勢11人で、そのうち女性社員は私1人のみ。しかも男性陣は皆んな独身で、彼女がいる人はごく僅かだ。…そう、お分かりだろうか?女性に対する免疫が無いのである。

 そんな男共にオンナオンナした生き物を与えたら、拒否反応を示すに決まっている。最初はイキイキと品定めをしていた彼らだが、そのうち1人、また1人と私の元に集まり。最後には半数の5人が私の周りを囲んでいた。

「なあ、秋山。なんかアレだな。電広堂って女性社員だけじゃなくて男性社員も顔採用なんだな」
「そうですね。でも我が社の男性陣もなかなかイケてますよ。何と言うか、経験値の差では無いでしょうか?人に慣れれば皆さんもイイ線まで行けると思いますけど」

 気弱な清水さんを励ましながら、私はひたすらパスタをフォークでクルクルしていた。

「…やっぱ富樫副社長はスゲエな。電広堂の女子たちがギラギラした目で狙ってる。オトナの男の色気っつうかフェロモン出まくりなんだよ、あの人。俺、男だけど副社長になら抱かれてもいいって思うんだ。なあ、秋山もそう思うだろ?」
「はー、まー、そーですねー」

 ていうか、実際に抱かれてますしね。

 オホホホ!…って、シッカリするんだ私ッ。
 男性の清水さん相手にマウントしてどうなるッ。

 それにしても感慨深いな。今、この場に私を抱いた男が集結しているのだ。しかもどれもモテモテだよ?!副社長はもちろん、圭くんに…龍もいる。龍は副社長に誘われ、異動前にも関わらず参加させられているらしい。

 アハハ!自慢じゃないけど私、その3人のうち、
 誰からも本命扱いされていないからねッ。

「あー、俺もう秋山でもいいかな。なんか金かかんなさそうだし、何と言ってもさ、一緒にいてラクだもん。なあ~俺と付き合えよ」
「し、清水さん、そういう投げやりな感じで仕方なく私を選ばないでくださいよッ」

 ここで突然、田島さんがこう言った。

「ああ、ダメですよ清水さん。秋山は俺のことが好きなんで」

 は??出たな、勘違い男!!ここで一気に誤解を解こうと口を開いたその時。

「未来、ちょっといいか?」
「え?あ…、圭…くん」

いきなり私は手を引っ張られた。
 
 
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