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オクラホマミキサーな私と貴方
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※サブタイトルを『ミキサー』にするか
※『ミクサ』にするかで悩みました。
玉砕だ。
なんだろう、この正体不明な悲しみは。
もっと吉良には…ううん、吉良だけには動揺して欲しかった。グラスを倒すとか、分かり易い反応を期待していたのに、余りにも平常運転で逆にこっちの方が驚いたわ。
「廣瀬さん…ですかあ、でもまあ何というか納得かも。『ミスター完璧』の人気は尋常じゃないですからね。ウチの部署の丸谷さんなんて既婚者のクセにワンチャン狙って食事に誘ったらしいし、受付嬢のミカちゃんに、取引先ではミスK大だった電広堂の秋山さんも撃沈したって話なんで。逆に誰ならOKしてくれるんだろうって皆んな興味津々だったんですけど…そっかそっか、村瀬姐さんかあ」
何故かノリノリでこの話題に食い付いてくる竹松くんに、落ち込んでいることがバレぬようひたすら相槌を打っているとスマホが鳴った。って、なんだよ、盗聴器でもつけてるのかよ、このタイミングで電話してくるって怖いよ。
「あ、廣瀬さんからだ。皆んなゴメン、失礼してこのまま電話に出るね」
そうすることでより一層、真実味が増すと考えたのである。
「もしもし。今?えっと同じ部署の仲間と4人で飲んでる最中。あ?うん、そう、場所?ほら、会社のすぐ裏にある居酒屋。来る?なんで?…そういうこと。あー、ちょっと待って」
私は3人の仲間達に、これから廣瀬さんが合流しても良いかとお伺いを立てた。
「もしもし。うん、OKだって。じゃあ待ってるから、はーい、またね」
案の定、電話を切った途端に大石が騒ぎ出す。
「なあ、おい、もしかして最初から俺らに紹介するつもりで廣瀬さんの話題を出したのか?ったく相変わらず策士だな、村瀬は」
「違う違う、話すと長いけど、総務部の新人で太田朱里ってコを知らないかな?」
この問いに素早く竹松くんが答えてくれる。
「知ってる!アイドルのミヨポンに似てて、可愛い子でしょ?!」
「ミヨポンとやらに似てるかどうかは知らないけど、多分そのコだと思う。なんかさ、以前は前田のことを狙ってて、付き合ってもいないのに『自分が彼女です』とか言いふらしてたんだって。そうやって周囲の女性を牽制しちゃうような、ちょっとヤバめのコらしくてね」
これには大石が相槌を打つ。
「それ、ちょっとどころか相当ヤバくないか?」
「んー、まあ、とにかくその太田さんがねー。廣瀬さんが経営企画と総務とを兼任し始めたことで、標的を彼に変えたっぽいの。なんか毎日、終業後に待ち伏せしてるらしいよ。…で、廣瀬さんの方も以前は千脇さんとの交際を理由に断れたけど、その千脇さんが今度は前田と付き合い始めたでしょ?それが太田さんの耳にも届いたらしくて。『じゃあ廣瀬さんはフリーなんですね』と更にしつこく誘ってくるから、凄く困ってるんだって」
「そっか、それで村瀬姐さんに会わせて撃退するってことですね!」
「そう、そのとおり」
こんな展開になるとは夢にも思わなかったけど、もういいや。どうせ吉良は私のことなんか何とも思ってなさそうだし、せいぜいそれっぽく振る舞ってみせますとも。
「やあ!お寛ぎのところをお邪魔して誠に申し訳ない。裕美…じゃなくて村瀬さんから事前説明は終えているのかな?」
「ええ、簡単にですけど」
店内は満席だったらしく4人用テーブルに椅子が2つ追加され、廣瀬さんと太田さんはそこに座った。ちなみに廣瀬さんは私の隣りで、太田さんは大石の隣り。小心者の大石が彼女に触れぬよう壁際の竹松くんをグイグイ押しているせいで、太田さんの周りだけ結界が張られているかの如く広々としている。
そんでもって、それらしく見せるためだとは思うけど、廣瀬さんってば私にくっつき過ぎ。最早、その右膝に私の半尻が乗っかってるし。背後から右腕を回して私の肩を抱いたりするのも、どうよ?
止めて欲しいという意志表示をしようと、私が左肘を軽く廣瀬さんの脇腹に押し付けたら、『あはは、裕美の手はここに置くといいよ!』とか意味不明なことを言って自分の手と恋人繋ぎにしやがった。
ん?これはあれだな、オクラホマミキサーだ。
って、んなわけない。
なぜ居酒屋でフォークダンスを踊らにゃならん?!
恥ずかしいから離してくれと目で訴えると、次はとんでもない熱視線が返ってきて、見つめ合うラブラブカップル状態に。こんな我らを見た太田さんがシミジミと呟く。
「私、実は疑ってたんです。だけど本当にお二人は付き合っているんですね」
はあ?!
どこをどうすればそう見えるのよッ。
心の中でだけ反論していると、次は吉良までボソリと呟いた。
「俺も…驚いた」
※『ミクサ』にするかで悩みました。
玉砕だ。
なんだろう、この正体不明な悲しみは。
もっと吉良には…ううん、吉良だけには動揺して欲しかった。グラスを倒すとか、分かり易い反応を期待していたのに、余りにも平常運転で逆にこっちの方が驚いたわ。
「廣瀬さん…ですかあ、でもまあ何というか納得かも。『ミスター完璧』の人気は尋常じゃないですからね。ウチの部署の丸谷さんなんて既婚者のクセにワンチャン狙って食事に誘ったらしいし、受付嬢のミカちゃんに、取引先ではミスK大だった電広堂の秋山さんも撃沈したって話なんで。逆に誰ならOKしてくれるんだろうって皆んな興味津々だったんですけど…そっかそっか、村瀬姐さんかあ」
何故かノリノリでこの話題に食い付いてくる竹松くんに、落ち込んでいることがバレぬようひたすら相槌を打っているとスマホが鳴った。って、なんだよ、盗聴器でもつけてるのかよ、このタイミングで電話してくるって怖いよ。
「あ、廣瀬さんからだ。皆んなゴメン、失礼してこのまま電話に出るね」
そうすることでより一層、真実味が増すと考えたのである。
「もしもし。今?えっと同じ部署の仲間と4人で飲んでる最中。あ?うん、そう、場所?ほら、会社のすぐ裏にある居酒屋。来る?なんで?…そういうこと。あー、ちょっと待って」
私は3人の仲間達に、これから廣瀬さんが合流しても良いかとお伺いを立てた。
「もしもし。うん、OKだって。じゃあ待ってるから、はーい、またね」
案の定、電話を切った途端に大石が騒ぎ出す。
「なあ、おい、もしかして最初から俺らに紹介するつもりで廣瀬さんの話題を出したのか?ったく相変わらず策士だな、村瀬は」
「違う違う、話すと長いけど、総務部の新人で太田朱里ってコを知らないかな?」
この問いに素早く竹松くんが答えてくれる。
「知ってる!アイドルのミヨポンに似てて、可愛い子でしょ?!」
「ミヨポンとやらに似てるかどうかは知らないけど、多分そのコだと思う。なんかさ、以前は前田のことを狙ってて、付き合ってもいないのに『自分が彼女です』とか言いふらしてたんだって。そうやって周囲の女性を牽制しちゃうような、ちょっとヤバめのコらしくてね」
これには大石が相槌を打つ。
「それ、ちょっとどころか相当ヤバくないか?」
「んー、まあ、とにかくその太田さんがねー。廣瀬さんが経営企画と総務とを兼任し始めたことで、標的を彼に変えたっぽいの。なんか毎日、終業後に待ち伏せしてるらしいよ。…で、廣瀬さんの方も以前は千脇さんとの交際を理由に断れたけど、その千脇さんが今度は前田と付き合い始めたでしょ?それが太田さんの耳にも届いたらしくて。『じゃあ廣瀬さんはフリーなんですね』と更にしつこく誘ってくるから、凄く困ってるんだって」
「そっか、それで村瀬姐さんに会わせて撃退するってことですね!」
「そう、そのとおり」
こんな展開になるとは夢にも思わなかったけど、もういいや。どうせ吉良は私のことなんか何とも思ってなさそうだし、せいぜいそれっぽく振る舞ってみせますとも。
「やあ!お寛ぎのところをお邪魔して誠に申し訳ない。裕美…じゃなくて村瀬さんから事前説明は終えているのかな?」
「ええ、簡単にですけど」
店内は満席だったらしく4人用テーブルに椅子が2つ追加され、廣瀬さんと太田さんはそこに座った。ちなみに廣瀬さんは私の隣りで、太田さんは大石の隣り。小心者の大石が彼女に触れぬよう壁際の竹松くんをグイグイ押しているせいで、太田さんの周りだけ結界が張られているかの如く広々としている。
そんでもって、それらしく見せるためだとは思うけど、廣瀬さんってば私にくっつき過ぎ。最早、その右膝に私の半尻が乗っかってるし。背後から右腕を回して私の肩を抱いたりするのも、どうよ?
止めて欲しいという意志表示をしようと、私が左肘を軽く廣瀬さんの脇腹に押し付けたら、『あはは、裕美の手はここに置くといいよ!』とか意味不明なことを言って自分の手と恋人繋ぎにしやがった。
ん?これはあれだな、オクラホマミキサーだ。
って、んなわけない。
なぜ居酒屋でフォークダンスを踊らにゃならん?!
恥ずかしいから離してくれと目で訴えると、次はとんでもない熱視線が返ってきて、見つめ合うラブラブカップル状態に。こんな我らを見た太田さんがシミジミと呟く。
「私、実は疑ってたんです。だけど本当にお二人は付き合っているんですね」
はあ?!
どこをどうすればそう見えるのよッ。
心の中でだけ反論していると、次は吉良までボソリと呟いた。
「俺も…驚いた」
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