おとなロマンス

ももくり

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鋭い男

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通常、この流れだとウッフンアッハンでエロ展開に突入すると思う。しかし、そこは相手が私なので。
 
「ふんぬっ!」
「ああ、こら、なんで外すんですかッ」
 
だって両手が空いていたから。
 
ネクタイなんて元々そういう仕様になっていないし、そんなキッチリ結べないよね?って、何をそんなに驚いているのだろうか。もしやこの村瀬裕美がおとなしく従うとでも思っていたのか?
 
ははっ、ちゃんちゃら可笑しいわッ!!
 
「吉良、そこに正座して頂戴」
「え?なんでですか」
 
「だってアンタ酔ってないんでしょう?」
「…はい」
 
後輩としての悲しいさがなのか、返事をしながらも既に正座している。
 
「質問なんだけど、どうして私が廣瀬さんと…その…してないと思ったワケ?」
「匂い…というか」
 
やはりか?!こやつ特殊な才能を持っているのだな?!
 
「あ、いえ、そういう意味じゃなくてその…雰囲気…ですかね?2人からそういう甘い空気を感じないし、いや、それ以前に村瀬さんは絶対に廣瀬さんみたいなタイプを好きじゃないと思ったから」
「ええっ?」
 
なかなか鋭いぞ、この男。
 
「村瀬さんはもっと、何を考えているのか分からないような、それでいて自分をいつも見守ってくれる、だけどなかなか手に入らない、遊び人のクセに仕事は手を抜かない、そんな危険な男が好きなはずなんですッ」
「うーん、確かに好きかも、そういうタイプ」
 
って、アレ??なんかそれってまるで…。
 
「俺、頑張ったんですけどッ」
「え…何を…」
 
鉄面皮でいつもは何を考えているのか分からない吉良が、目の前でふるふると震えている。…ああ、そうか、今コイツの言った“私の好きな男性のタイプ”はまさしく吉良そのものなのだ。
 
「3年間ずっと村瀬さんの下で働いて、いつか男として意識してくれるようになったらいいなって、それだけを期待して仕事も接待も頑張りましたッ」
「男としてって、吉良、貴方…」
 
この話の流れは、まさか、もしや、ひょっとして?
 
「特に“遊び人”の部分、俺、本当はセフレなんていませんからッ」
「嘘?!いないの?!」
 
「いた方がイイって言うのなら、頑張って作りますけど。でも、村瀬さん以外の女性とそういう行為をするのは正直、厳しいですッ」
「吉良…、ねえ、吉良?」
 
「正直、接待での村瀬さん、尋常じゃない量のアルコールを摂取するんで俺も命懸けでした。だけど寿命を縮めてでも尽くすだけの価値が貴女には有ると思ったから、死ぬ気で臨んだんですッ」
「吉良、教えてよ。…それってつまり?」
 
ああ、そうだ。
 
3年前、初めて会った時の吉良は器用そうに見えて人から教えを乞うことが苦手で。だから私が先回りしてフォローするとホッとしているような、そんな不器用なコだった。それがみるみるうちに実力をつけ、隠れて努力をし、私をフォローしてくれるまでになって。それは全て吉良個人の資質なのかと思っていたけど、それだけじゃ無かったということか。
 
「ズギでずッ!!」
 
何故に濁音なのかと思ったら、どうやら感極まって泣き始めているらしい。なんだよ、私の好きそうな男性のタイプに寄せて頑張ったんじゃなかったのか?27歳にもなってメソメソ泣く男なんてさあ…
 
どうやら嫌いじゃないんですけど。
 
なんだよ、クソ可愛いな。私に必死で気に入られようとしていたって、そんなの聞いたら健気過ぎて舐めまわしたくなるじゃないの。ああ、もういいや。
 
「えっ?あの、村瀬さん??」
「まあまあ、いいからいいから」
 
驚くのも仕方ない。
だって自らネクタイを手に取り、改めて目隠ししているのだから。

「それって、そういう意味ですか?」
「ん、そういうこと」
 
そう答えて私は、その場で横たわった。
 
 
 
 
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