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クロノスタシス
しおりを挟むさすがに親友の妹なので邪険に出来ないと思ったのか、壮ちゃんは今回のみ一晩限りのルールを撤廃したらしく連日私を可愛がってくださる。そう、夜だけではなく朝も昼も可愛がりまくりだ。
ワンルームなので逃げ場が無い。それなら自宅に戻れよという話なのだが、残念ながら私も結構イヤでは無いので抵抗するフリをしつつもお相手をさせていただいている。
「あー、好き、ほんと好き、アッちゃん、可愛いっ」
「はは…どうも…」
見よ、この熱量の差!
いや、だってサービスだって分かってるし。なんかもう『そんなことを言わなくても大丈夫ですよ』とさり気なく表現しているつもりなのだが、これが全然伝わらないのはどうしてか?そして突然やって来た兄に、どうにか私達の関係を誤魔化せそうだったのにペラペラと話し始めたのは何故なのか?
「志季、俺は…いや、俺たちは真剣に付き合ってるんだ!だから温かく見守って欲しいッ」
テーブルを挟んで三者面談みたく真面目な顔して向かい合っている我ら。でも、初対面のオバチャンから妙に気に入られた兄はひたすらジャレつかれている。ああもう、ウニャウニャうるさいよ、話に集中出来ないってば!
「なあ志季、俺、もう生まれ変わるから。アッちゃん一筋で生きるし、他の女なんかに見向きもしない。だから認めて欲しいんだ、俺たちの交際をッ」
あッ、オバチャンの爪がお兄ちゃんの手の甲にシュパッと…。痛いだろうに、さすが我慢強さには定評の有る男。無言のまま壮ちゃんの話に聞き入っている。
「アッちゃんのことが好きだから、ずっと一緒にいたい。過去を消すことは出来ないけど、でも俺は生まれ変わることに決めたんだ!だから是非、この交際を認めて貰いたい」
オバチャンが調子こいて兄によじ登り出した。鼻の穴を激しく舐めているから、呼吸するのが苦しいはずなのに、さすが我慢強さには定評の有る男…(以下同文)。
「俺は多分、アッちゃんのことをずっと好きだったんだと思う。だけど志季の妹だし、汚れきった俺なんか相手にしてくれないだろうなって思ってて。でも、アッちゃんが俺のこと好きだと言ってくれて、だから、この交際をッ」
同じ話の繰り返しにそろそろ飽きていた私だったが、ここで思わず口を開く。
「えっ?!壮ちゃんって本気で私のことが好きなの?」
「は?!アッちゃん、なに言ってんの?俺ら両想いなんだろ?」
3人とも一斉に上半身を仰け反らせ、それぞれ別の理由で驚いている。急に兄が動いたことでオバちゃんが呆気なく床へと落下し、これまた驚いている。
「だって壮ちゃん、誰にでもスキって言うし…、本気かどうかなんて私には判断つかないよ」
「マジでか?!」
「この前、ウチに遊びに来た時、まだお兄ちゃんと付き合う前の奈月にもスキとか言ってキスしてたし」
「いや、あれは親友の志季に遊び半分でチョッカイ出す女だと思ってて…その…、俺が身を挺して追い払おうと思ってだな…」
これを聞いてさすがに兄も怒りを隠せないらしく、口をへの字にして壮ちゃんを睨んでいる。
「ほんとー?何か怪しー。だって奈月メチャクチャ美人だし」
「本当にッ。俺にはアッちゃんの方が美人に見えるから!」
とうとうココで兄が口を開く。
「はあッ?!申し訳ないがな、奈月の方が美人なんだよッ!!」
「お兄ちゃん酷い!」
「いや、明恵、お兄ちゃんはな、そういう意味で言ったんじゃなくて…」
「分かってるよッ、奈月の方が美人だってことくらい、でも、酷い!」
なんだかもう収拾がつかなくなってきた。ところで私達、何の話をしていたんだっけ?
…暫くして、兄がボソボソと呟いた。
「もう明恵も大人なんだし、勝手に付き合えばいいだろ」
「えっ、いいのか?!」
「いいも何も。俺さあ、樋口のことは好きなんだ。それにお前、俺の妹を泣かすことはしないだろ?」
「うん、しない、頑張る」
「だったら、いいよ。幸せになりな」
「志季~」
なんか知らないけど、壮ちゃんがキスしまくってる
…お兄ちゃんに。
「この後で私とキスしたら、お兄ちゃんと間接キスになっちゃうから止めて…」
「ん~、分かったァ」
へへって笑ってるけど、この人、本当に分かってんのかな??でもまあ、楽しそうだからいいか。
なんだかんだと悩んだワリに呆気なく纏まってしまったな。じゃあ最初っからカズじゃなくて壮ちゃんを選べば回り道をしなくて良かったんじゃない?とも思うけど、アレを経由したからココに辿り着いたワケで。
うん、そうなの。皆んな幸せそうで自分だけが不幸だと落ち込んだことも有ったけど、なんだかんだ言って皆んなそれなりに不幸なんだよ。でもそれを見せないことがカッコイイとされる風潮は、そんなに嫌いじゃないし、不幸だと嘆いて生きることは確かにカッコ悪いと思う。だって皆んながそれぞれに乗り越えようとしているのに、自分だけが『出来ません』と言っているも同様だから。
恋愛なんてその最たるものだと思う。
私はずっと恋から逃げていた。何故なら傷つくことが怖くて、そんなことをしなくても生きていけると虚勢を張っていたからだ。そして周囲との経験値の差に焦り、ようやく重い腰を上げたのに一番好きな相手を選ばず、もし破局してもダメージの少ないそこそこの相手を選んで無事に破局し、そこでやっと傷つく覚悟が出来たのである。
そう、どの工程も無駄では無かったと思う。だからこそ今、私はここまで辿り着けたのだから。
「頑張ろうね、壮ちゃん!」
「おう、アッちゃん!」
順調そうに見えるけど、きっと兄と奈月の恋にも色々と障害はあるのだろう。
恋なんてしなくても生きていけるが、
それでも何だかんだ言って恋は
…最高だ。
--END--
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