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こころの恋人
しおりを挟むフリーじゃないよッ!!
そう反論したいが、直也はもう私の言葉を信じてくれそうに無いので地団駄を踏む。30歳にもなって地団駄踏むとは自分でも思わなかったよ。ハハッ、私ったら、あまり良い年齢の重ね方をしていないなあ。…いや、ココにもっとダメな大人がいるけどさ。
「あの…、俺たち本当に付き合ってるんです」
「…ダメじゃなかった!やれば出来る子!!」
心の中で貶したことを猛省しながら清水さんの腕を握りしめ、その背後から支援する私。
「俺、恋愛経験あまり無くて、だからなかなか吉川…じゃなくて桂さんとの関係も進展しないんですけど、桂さんはそれでもイイと言ってくれました。そのプロセスを1つ1つ楽しむのも恋愛の醍醐味ではないのでしょうか?俺たちは本当に惹かれ合っていて、互いのことを少しずつ知っていく途中の段階なんです。
俺はもっと桂さんのことが知りたい。もっともっと知って、心の奥の方から深く繋がりたい。世の中には幾通りものカップルが存在するはずで、同じ組み合わせは2つと無いから、俺たちのことを他のカップルと比べて『らしくない』と断言するのは止めて欲しいんです。
いつか俺たちは、他の誰よりも仲の良いカップルになれる自信が有りますし、絶対に死ぬまでイチャイチャし続ける自信が俺には有るんです。だから最初だけギクシャクしていても、全然平気です。だってこのギクシャクもプロセスの1つだから。今しか味わえない、もどかしい感じが堪りません。俺たち、いま正に青春なんですよ」
パチパチパチ。
私と中島さんと…あれっ?何故か千脇さんまで一心不乱に拍手している。
「いい、好き、そういうの堪んないッ。最近の男共は余裕ぶっこいて、互いを深く知る行程をすっ飛ばしていきなりカラダの関係になろうとするでしょう?だから脆いんです、イザという時に呆気なく壊れちゃうの。…吉川さん」
「え?あ、はい」
どうやら、あざとい女だと思っていた千脇さんは単なる変人だったようだ。
「貴女が清水さんの心の恋人だったんですね」
「こ、こころの恋人…」
ププッと吹き出しそうになるのを堪えながら、私は神妙な面持ちを作ってコクリと頷く。
「もしかして職場では隠していらっしゃるのかしら?それは仕事がやり難くなるから?でも、今回のように誤解が生じることも有りますから周囲にカミングアウトした方が良いですよ」
「はい、ではそうします」
そう言い残して千脇さんは去って行った。なんだか狐につままれたような気分でいると、直也が最後に爆弾を落とす。
「そこの彼氏に言っておくよ。御大層なことを語ってくれたけどさ、心だけ繋がっててもダメなんだよなあ」
「は?何をいきなり…」
「仲良し夫婦の一方が、ある日突然浮気をして離婚…このケースが多いのは何故だと思う?」
「そ、そんなの知りませんよ」
「どんなに心で深く繋がっていても、時に人は性欲に負けてしまう生き物なんだってこと」
「せ、性欲って」
せっかく良い雰囲気だったのに、何を言い出すんだこの男はッ。
「俺と桂って、付き合ってた時に100回以上セックスしてるんだよ。それが貴方の拙い技術で満足出来るのかな…と、そう思っただけ」
「ひ、ひゃっかい」
なんて下衆いことを言う男なんだ!!…ああ、分かり易く清水さんが落ち込んでいく。これはかなり激しいダメージを受けているようだ…。
100回は大ゲサだと思ったけれど、よくよく考えたらそのくらいしていることに気付いて、今更ながらに驚く私。だって7年間だよ?お互い初めて同士で、高校の時なんて結構な回数をこなしたと思う。1日2回とか3回とかね、なんか暇さえあれば盛ってた気がする。で、人前では澄まし顔でいることにまたムラムラしたりしてね。
ああ、若かったな、あの頃は。遠い目でシミジミしていたら、私に背中を向けて立っていた清水さんがグリンッと振り返る。
「だ、だだだ、大丈夫。だって7年間も付き合っていれば、そういうことは勿論していたワケだし。1回も100回も同じだよッ!!」
…全然大丈夫じゃ無さそうなんですけど。
しかし、こればかりはどうにも出来ないワケで。だって、私の過去は何をどうやっても変えられないのだから。それにしても、悔しい。あれほど恋愛に夢見ていた清水さんがいきなり挫折しそうになっていることが。そして、何だか私が自分の体を汚れているように感じてしまうことが、とてもとても悔しい。
「う…あ…っ、吉川さん、そんな哀しい顔をしないで。ごめん、俺があんな言葉に動揺したせいで傷つけてしまったんだよね?」
こんな時にも優しい清水さんは、私のことをまるで壊れやすいガラス細工のようにそっとそっと撫でてくれる。それがまるで宝物を扱っているみたいで、救われた気持ちになった。自分を汚いなんて思うのは止めよう。だってこの人はそんなことを思っていないのだから。
…ああ、そうか。
私は、ようやく自分が清水さんを選んだ本当の理由に気が付いた。この人は臆病なのだ。それも自分に対してでは無く、他者に対して怯えている。傷つけないように、傷つかせないようにと相手を気遣い、そのせいで自分が傷つけられてもひたすら我慢する。今回の件だってそうだ。自分じゃなく、私が傷ついたと思って動揺しているのだ。ああ、本当になんて優しい人なのだろうか。
…そう思ったらハラハラと涙が出た。
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