Blue in Green

ももくり

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Blue in Green

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 まあ、なんと言うか。
 
  
 ドラマや小説の中ではイケメンがモテモテだったりするワケだけど、実際は違うのではなかろうか。私は、イケメンの一歩手前くらいの方がむしろモテると思うのだ。何故ならイケメンは中身が薄っぺらい。それはその容姿であるが故に、無条件で愛されることを知っているからだ。
 
 面白い話をしなくても、
 気が利かなくても、
 そこにいるだけで許される。

 だってイケメンだから!

 運動全般がダメダメで、
 成績が芳しくなくても、
 ほんと大丈夫なんですよ。

 だってイケメンだから!

 周囲がそうやって甘やかすことで彼等の伸びしろが縮められ、ペラッペラな人間の一丁上がりである。よく考えてみれば思春期に抱く『モテたい』という感情は、例えそれが無意識だろうと長所を伸ばす為の良いモチベーションとなるはずで。なのに最初からそのモチベーションを奪われてしまうイケメンてのは、可哀想な人種なのかもしれないナ。
 
 
 
 
「…うるせえな。何が『しれないナ』だよッ!!」
「きゃあ、やだ、唾!唾が飛んだ、私のココにっ」
 
 
 ──自宅近くの焼鳥屋はそこそこ賑わっていた。 
 
 
 その一番奥の席を陣取り、かれこれ2時間も飲んでいれば程好く思考も麻痺し出す。向かいに座っているのは幼馴染の松井アオ。漢字は青ではなく『碧』と書く。青緑という意味を持つ名に相応しく碧眼なのは、母親がイギリス人だからだ。
 
 唾のついた右頬を手の甲で拭いながら、私は吐き捨てる様に言う。
 
「いい加減、学びなよ」
 
 『何を?』とは問い返されない。多分、アオも自覚しているのだろう。どの女性と付き合っても、長続きしないその理由を。
 
「ダメな子…」
「うるせえ!ミドリには言われたくないよッ」
 
 私の名前は梅木緑里。今年24歳で、外見も中身もごくごく普通のOLだ。人混みに放り出されれば、間違いなく瞬時に埋もれて探し出せなくなるだろう。だがしかし、私という女は異常にメンタルが強い。両親が諦めた頃に漸く授かった宝物の如き存在の一人娘なので、何をしても怒られないという育てられ方をした結果、どの局面でも愛嬌で乗り越えられるという図太い性格に仕上がったのである。
 
 対するアオは、高級クラブのホステスと客の間に生まれた不義の子で。小学校入学と同時に母親が帰国してしまったせいで父親に引き取られたものの、それ以降、本妻から手酷く扱われたらしく。常に周囲の顔色を伺う小心者になってしまった。
 
 しかも、残念なことに超イケメンだ。
 
 神に選ばれし者と表現しても過言では無いほど超・超・超イケメンだ。異国の血を感じさせるのは碧眼と薄茶色の髪くらいで、他はほぼ日本人というのもポイントが高いだろう。平坦な顔の我らにとって、アチラの方々の顔は敷居が高過ぎる。アオの顔はその辺のバランスが絶妙なのだ。
 
 同じ年齢で家も隣り同士。つまり、誰よりも長い付き合いの我らが社会人となってもこうして頻繁に会っているのは、独り立ちした際に同じマンションを選んだからだ。と言うか、アオの父親が不動産会社を経営しており、そこで勧められた物件が同じだったというだけなのだが。
 
 前置きが長くなってしまったけれども、とにかくアオはその見た目から肉食女子によく狙われる。そしてグイグイ迫られて仕方なく付き合い出すものの、面白味が無いという理由でスグに飽きられてしまう。それでも長続きさせる努力なんかしないし、基本姿勢は『去る者は追わず』らしい。
 
 今回もその調子でフラれたのだと。モデルのナントカちゃん似と評判の彼女からの語り掛けに『うん』と『へえ』の2パターンで応酬したところ、ブチ切れられた挙句、別れを告げられたそうなのだ。こうして私と一緒の時はペラペラ喋りまくるクセに、美人の前では無口とか何だソレ。内気か!
 
「ぐへへ。実は私、彼氏出来そうなんだよね」
「は?」 
 
「ぐふふ、同じ職場の先輩とさ、イイ感じなのよ、コレが」
「ダ、ダメ!」
 
「ダメって、アンタ…。私もそろそろ彼氏くらい欲しいし」
「ま、まだ早いよ、焦らなくても大丈夫!」
 
「自慢じゃないけど彼氏いない歴イコール年齢だからね」
「だからって好きでもない相手と付き合うなんて!」
 
 だって、もう疲れたよ。
 
 知らないんだよね…本当は私がアオに片想いしてること。でもアオは私なんか相手にしないでしょ?だったらもう、相手なんて誰でも同じじゃない。それにほら、彼氏が出来ればこうしてアオに会う時間も減って想いが薄れるかもしれないし。
 
「いいの、もう決めたんだ。アオも早く新しい彼女が見つかるといいね」
「えっ、ミドリは、あの、ほら、俺…、なっ?だろ?」
 
 何?この奥歯に物が挟まったみたいな言い方。
 
「アオがどうしたの?」
「ほれ!ほら!だよな?!」
 
 そう言いながらアオは、立てた親指を繰り返し自分に向ける。
 
「何よハッキリ言いなさいってば」
「そっちこそ言えよ!」
 
 え、ああっ?!
 
 突然立ち上がったアオは、私の腕を掴んで店を出ようとする。多分、お会計は5千円もしないはずなのに1万円を顔なじみになっている店員に渡し、『つっ、釣りは要らねえ!』と叫んだ。
 
「アオ、…太っ腹」
「いい、こういうのは勢いだ!」
 
「さすが高給取りの仰ることは違うわ」
「憎まれ口を叩いている暇が有るなら、他に言うことが有るだろ?!」
 
「他に言うこと??」
「お前なあ、俺が気付かないとでも思ってんの?」
 
「どういう意味よ」
「ずっと好きだったんだろ?だったら告白しろよ!」
 
 へ?
 
 まさかアオ、私が自分のことを好きだって知ってるワケ?分かってて告白しろと?んで、バッサリ振っちゃうのね。そうすると気まずくなって、もう会うことも無くなるって算段か。やだ、それどんな罰ゲーム?
 
「すっ、好きじゃない」
「嘘吐け、絶対に好きだよな?!」
 
「ちょ、何、どこに行くの」
「決まってんだろ、俺んちだ」
 
「ってことは私のウチでもあるワケだ」
「は?!俺んちだって言ってるだろ!」
 
「だって同じマンションだもん!」
「だけど向かうのは俺の部屋だ!」
 
 
 
 
「…いや、んふぅ」
「言え!誰が好きか早くッ」
 
 なんだこれ。
 
「はあ、はあ、ん、ちゅ、やだあ」
「言わないと、こうだぞ!」
 
 あれから予告どおりアオの部屋に放り込まれ、そのまま玄関でブチュブチュとキスをされているんですけど。
 
「あ…ああ、あ」
「そうだ、頑張れ、その調子だ!あと一文字!」
 
 どうして私達の仲を終わらせようとするの?もしかしてずっと嫌いだったとか?
 
「う、うえええん、やだ、ごめんなさいい」
「は?!違うだろ、ミドリ!どうして謝る?!」
 
 考えてみたら私、アオにはいつも生意気なことばかり言って、上から目線でヤな女だったかも。アオだって男としてのプライドを傷つけられて内心ムカムカしてたってことなんだよね?
 
「分かった、もうアオのことバカにしないから、だから嫌いにならないでええ」
「そ、そんなこと思ってないし!ミドリの憎まれ口なんか微笑ましいもんだ!あの女豹共に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいよッ。だいたい、嫌いになんかなるワケないだろ?!俺はミドリのすることなら何でも許すし、むしろ厳しい言葉なんかご褒美だと感じているし、世界一カワイイのはミドリだと思ってるからな!」
 
 ん?
 
「アオ、…私のことが嫌いじゃないの?」
「どうして!まさか!有り得ない!」
 
「う…っと、じゃあどうして私に告白させようと?」
「それは…、俺からは無理だから」
 
「でも、どうせ断られるのに、告白なんて出来ない…よ」
「は?それじゃあ、先に進まないだろ!しろよ!」
 
 ちょっ?!
 
 何故このタイミングでシャツのボタンを外し始めるのか。驚いている間にブラもずらされ可愛い乳首がコンニチハ状態で飛び出す。更に膝丈スカートを潜り抜け、ストッキングもなんのその、ショーツの中に指を突っ込まれた。ちょ、私、処女なんですけどっ。
 
「アオ?!いったいどういうつも…んぐ」
「ハァ、ハァ」
 
 いでで。
 
 勢いよくキスしてくるから、玄関ドアにしこたま背中をぶつけてしまった。ショーツ内の指は相変わらず動き続けているので、上からも下からもクチュクチュと厭らしい音が響いている。
 
 こんなアオ、知らない。
 
 艶を含み、熱く潤んだ瞳は欲情すると碧から濃い緑に変化するらしい。その色がとても綺麗で思わず見入ってしまう。そんな私に気付いたのか、少しだけ照れ臭そうに鼻をクシャッと顰めたアオは、離した唇を私の耳元に移し吐息混じりで囁く。
 
「ミドリ、俺は、愛される自信が無いんだ。…だって、母親からも父親からも必要とされなくて、何処に行っても邪魔者扱いだった。女達だって、最初は調子いいこと言うくせに、スグに飽きてポイ捨てだ。なのに、ミドリは、ミドリだけはずっと一緒にいてくれただろう?」
 
 アオが、泣いている。
 まるで子供みたいに。
 
「…俺からは、言えないんだよ。俺が好きと言ったら、きっと全部失ってしまう。だって、母さんも…『大好きだよ』って、『置いてかないで』って泣いて頼んだのに俺の前から消えたんだ。だから言うもんか、俺はミドリを失いたくない。だから、絶対に絶対に言うもんか!」
 
 ぶわああっと私の目にも涙が湧いてくる。くそ、可愛いな。なんだよ男のクセしてそんなこと思ってたのか。
 
「アオ、ちょっと手を止めて」
「…ぐすっ、ん」
 
 ごめんね。ロマンティックな告白場面にしたいから、ショーツの中の手は出して貰わないと。だいたい、泣きながら愛撫し続けるってどうよ。
 
 素直に手が抜かれ、
 向かい合って棒立ちとなる我ら。
 
 えっと。
 うんと。
 
 なんかまだ、間抜けな感じだな。取り敢えずシャツのボタンを留めた方がいいのか?いや、それよりもむしろ…。焦った挙句、何故か斜め方向の結論に至った私は豪快に衣類を脱ぎ捨てた。
 
「ミ…ドリ?」
「さあ、アオも脱いで!(キメッ)」
 
「うん!(キメッ)」
「さすがアオだわ。長い付き合いだけあって、こんな状況でも引かないのね」
 
「もちろん!」
「わあ、すごい立派だ~」
 
「まあ、標準よりも大きめかな」
「こんなの、挿入るかなあ?」

「諦めるな、根性を見せろミドリ」
「うん。えっと、挿入ったら…その時点で告白しよっかな。何か繋がってる感じで素敵じゃない?」
 
「マジで?!じゃあ、俺、頑張る!」
「とにかく寝室へ行こう。って、じゃあなんで玄関で脱いだんだって話よね」
 
「うーん、俺、どうでもいいけど。だってミドリはいつもこうだし」
「あはは、行き当たりばったりってことね!」
 
 全裸のままギュッと手を繋ぎ、そして堂々と胸を張って寝室へと向かう我ら。
 
 うん。
 なんだかとってもシュールだわ。
 
 
 
 
 
「いだだだっ、アオ、大好き」
「……!ミドリ、俺もッ!!」 
 
 そんなこんなで悪戦苦闘の末、
 無事に私は告白出来たのでした。まる。
 
 
 
 ──END──
 
 
 
 
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