22 / 54
~回想~ 父ニールの懺悔・1
しおりを挟む※ここよりキッシンジャー家の当主であるニールの独白です。
お前達に何が分かる?
…異端に生まれたこの苦悩を。
──キッシンジャー家の娘は早世する者が多く、その殆どが不幸な終末を迎えている。
穏やかで優しかった叔母は32歳で。
彼女はどんな場所でも瞬時に泉を作り出せるという能力を持っていた。しかし、そのうちの1つに酔って溺死した男の爵位が夫よりも高かったせいで、周囲から激しいまでの責めを受け、ほぼ自害に近い形で短い生涯を終わらせている。
叔母の夫は、荒れ果てた土地しか持たない領主だった。慣れとは恐ろしいもので、泉を1つ2つと増やしていた時には感謝の言葉を口にしていた者達も、砂漠の様な土地を満遍なく潤わせた頃には全く関心を示さなくなっていた。婚家には既に夫の愛人が同居していたとかで、誰も叔母を庇ってくれないままの孤独な死だったそうだ。
誰よりも聡く美しかった姉も26歳の若さで。
姉の能力はどんな波でも凪らせてしまうことだったが、そのせいで海賊に攫われ、悪事に利用されることを拒絶したところ刺殺されてしまったのだと。
姉の婚家も出来過ぎた嫁を持て余し…いや、正確には『能力持ちであることが不気味』だと他人行儀に接した挙句、寝食すらも別々にして、海賊から助け出そうとする素振りすら見せなかったらしい。
聞くところに寄れば、この他にも幽閉された娘、生き埋めにされた娘、事故を装って殺された娘と数え上げればキリが無い。
これではまるで使い捨ての道具同然だ。
歴代の当主たちは実情を王とその側近に伝え続け、政略結婚を止める様にと繰り返し直訴した…にも関わらず、それが受け入れられる気配は一向に見られない。
『王命などクソくらえ!』と言うことが出来れば、どれほどラクだろうか。過去には『娘に能力は無かった』と偽りの報告を行なった当主もいたが、その嘘はほどなくして露見し、それ以降『管理人』と呼ばれる執事が派遣される切欠となってしまった。
>おめでとうございます、ご主人様。
>とても可愛らしいお嬢様が生まれましたよ!
ヴェロニカが誕生した時に、
私は誓ったのだ。
この愛しい存在を、守り抜こうと。
今、この時からキッシンジャー家の娘を不幸の代名詞にはさせない。そうだ、私の娘は愛し愛されて一生幸せに暮らすのだ。どうしても政略結婚をと言うのであれば、その前に私が相手を見極めてやる。
気付けば涙が溢れていた。
頬を伝うその雫を拭いもせずに小さな指を握ると、幼い娘は無邪気な笑顔を浮かべ、弱々しいながらも握り返してくれた。そうだ、お前はただ笑っていればいい…この父が全ての罪を被ろう。
幸運なことに、現国王は先代と違って多少は話の通じる御方だ。まずは宰相と老いた重鎮達を懐柔することから始めるとするか。
ひとつ、ひとつ、ゆっくりと。
まるで階段を上って行く様にして私は娘の婚約話を進めていく。娘の能力を最も必要とし、且つ、娘を愛しんでくれる相手を見つけなければ。その血筋は王家に近い方が心強いし、何かあれば娘を守れる財力も必要だろう。
──こうして選んだのが、ローランド家の子息だ。
長男ケヴィンはその優れた武才を早くから認められており、将来は武官になるに違いないとの情報を得て、領主を継ぐのは次男アンドリューだと確信。そして意図的に娘と二人きりにする機会を設けた。
6年だ。
その間に幾度も秘密の時間を過ごした娘とアンドリューは、幼いながらも順調に愛を育んでいたはずなのに。
残念ながら、美貌の貴公子アンドリューの令名はどうやら隣国まで伝わっていたらしく、アデラ王女自らが彼と接触し始めたのである。
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる