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~回想~ 父ニールの懺悔・1
しおりを挟む※ここよりキッシンジャー家の当主であるニールの独白です。
お前達に何が分かる?
…異端に生まれたこの苦悩を。
──キッシンジャー家の娘は早世する者が多く、その殆どが不幸な終末を迎えている。
穏やかで優しかった叔母は32歳で。
彼女はどんな場所でも瞬時に泉を作り出せるという能力を持っていた。しかし、そのうちの1つに酔って溺死した男の爵位が夫よりも高かったせいで、周囲から激しいまでの責めを受け、ほぼ自害に近い形で短い生涯を終わらせている。
叔母の夫は、荒れ果てた土地しか持たない領主だった。慣れとは恐ろしいもので、泉を1つ2つと増やしていた時には感謝の言葉を口にしていた者達も、砂漠の様な土地を満遍なく潤わせた頃には全く関心を示さなくなっていた。婚家には既に夫の愛人が同居していたとかで、誰も叔母を庇ってくれないままの孤独な死だったそうだ。
誰よりも聡く美しかった姉も26歳の若さで。
姉の能力はどんな波でも凪らせてしまうことだったが、そのせいで海賊に攫われ、悪事に利用されることを拒絶したところ刺殺されてしまったのだと。
姉の婚家も出来過ぎた嫁を持て余し…いや、正確には『能力持ちであることが不気味』だと他人行儀に接した挙句、寝食すらも別々にして、海賊から助け出そうとする素振りすら見せなかったらしい。
聞くところに寄れば、この他にも幽閉された娘、生き埋めにされた娘、事故を装って殺された娘と数え上げればキリが無い。
これではまるで使い捨ての道具同然だ。
歴代の当主たちは実情を王とその側近に伝え続け、政略結婚を止める様にと繰り返し直訴した…にも関わらず、それが受け入れられる気配は一向に見られない。
『王命などクソくらえ!』と言うことが出来れば、どれほどラクだろうか。過去には『娘に能力は無かった』と偽りの報告を行なった当主もいたが、その嘘はほどなくして露見し、それ以降『管理人』と呼ばれる執事が派遣される切欠となってしまった。
>おめでとうございます、ご主人様。
>とても可愛らしいお嬢様が生まれましたよ!
ヴェロニカが誕生した時に、
私は誓ったのだ。
この愛しい存在を、守り抜こうと。
今、この時からキッシンジャー家の娘を不幸の代名詞にはさせない。そうだ、私の娘は愛し愛されて一生幸せに暮らすのだ。どうしても政略結婚をと言うのであれば、その前に私が相手を見極めてやる。
気付けば涙が溢れていた。
頬を伝うその雫を拭いもせずに小さな指を握ると、幼い娘は無邪気な笑顔を浮かべ、弱々しいながらも握り返してくれた。そうだ、お前はただ笑っていればいい…この父が全ての罪を被ろう。
幸運なことに、現国王は先代と違って多少は話の通じる御方だ。まずは宰相と老いた重鎮達を懐柔することから始めるとするか。
ひとつ、ひとつ、ゆっくりと。
まるで階段を上って行く様にして私は娘の婚約話を進めていく。娘の能力を最も必要とし、且つ、娘を愛しんでくれる相手を見つけなければ。その血筋は王家に近い方が心強いし、何かあれば娘を守れる財力も必要だろう。
──こうして選んだのが、ローランド家の子息だ。
長男ケヴィンはその優れた武才を早くから認められており、将来は武官になるに違いないとの情報を得て、領主を継ぐのは次男アンドリューだと確信。そして意図的に娘と二人きりにする機会を設けた。
6年だ。
その間に幾度も秘密の時間を過ごした娘とアンドリューは、幼いながらも順調に愛を育んでいたはずなのに。
残念ながら、美貌の貴公子アンドリューの令名はどうやら隣国まで伝わっていたらしく、アデラ王女自らが彼と接触し始めたのである。
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