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~回想~ ローランド家の不整合・1
しおりを挟む※ここよりケヴィンの告白が始まります。
[そこへ至るまでのケヴィン]
「私が、キッシンジャー家の娘と婚約…ですか?」
「ああ、非常に残念だがな。我が団の諜報員がそう話していた」
騎士団に於いて総長に次ぐ地位の高さであるスタン本部長は、そう言いながら無精髭の生えた顎をガシガシと撫でた。
礼儀作法を『堅苦しい』と嫌うこの人からの要望で、本来ならば首肯すべきところをこうして目線を合わせて対話している。ふてぶてしいまでのその表情は、時に頼もしくもあり、時に難解でもある。
「でも、あの…確かその令嬢は私の弟と恋仲だったはずなのですが。しかし、弟は…別の縁談話が持ち上がっておりまして、そのせいで令嬢はレイモンド・ラングストンと婚約を…」
「婚約したが、ラングストン家が現在どうなっているか、お前も知ってるだろ?」
もちろん知っていた。
ラングストン家の当主が私利私欲のためにキッシンジャー家の娘を監禁したせいで、大規模な山火事が発生し、その責任を取る形で爵位を剥奪されたことも。上層部がひた隠しにしている事案だが、その山火事が発生したのが我がローランド家の領地だった為に、父から詳細を聞いているのだ。
「それでも早過ぎませんか?ラングストン家との婚約が破談になったばかりなのに、間を空けずローランド家というのは。何か特別な理由でも有るのでしょうか?」
「…俺がお前を派閥争いに巻き込んじまったのかもしれん。ふん、小賢しい真似をしてくれるよなあ」
確かに現在の騎士団は、総長派と本部長派で大きく二分されている。
王族及び貴族のみを守ることでその任務は果たしていると主張する総長派と、広い意味で国を守ろうとし、場合によっては平民により構成されている軍隊と連携を図る本部長派。その信念は真逆で、決して相容れることは無いだろう。
私ことケヴィン・ローランドは幼少時にこのスタン本部長から剣術の才を認められ、最年少で騎士団へと入団した。そしてそれ以降、細かい駆け引きを不得手とするこの上司の代わりに戦術を立てており、現在は参謀という重責を任されている。
「キッシンジャー家の娘と婚約したからと言って、どうして私がスタン本部長の足枷になるのです?」
「まあ、そこに座れ。長い話になるからな」
赤い天鵞絨張りの椅子に腰を下ろすと、目の前のその人は朗々と語り出す。
隠され続けていた、
キッシンジャー家の闇の部分。
感情が不安定になったその娘は囚われ、獄中で毒殺されるのだと。
「しかも、それだけで話は終わらねえんだ。再発防止というか、見せしめで婚家の方にも罰則が与えられるらしい。これは噂なんかじゃねえ、現に俺の友人が責任を取らされているからな」
訊けば、スタン本部長の友人も代々将軍を輩出してきた由緒正しい家柄だったらしいが、キッシンジャー家の娘を娶り、その娘が能力を暴走させたせいで廃嫡させられたのだと言う。
「そうなると当然、出世は難しくなるだろう。…俺はな、近々お前を参謀から本部長補佐に引き上げるつもりだ。それを会議で公言した途端にこの婚約話。知っているだろうが総長は宰相の娘婿だからな、絶対に裏が有ると考えておいた方がいい」
「…私を、補佐に…ですか?!」
参謀から本部長補佐へとなると、一気に階級が5つも上がる。当然、それは大出世だ。
「ああ、俺はお前のことを誰よりも認めてるからな。だからこそ、キッシンジャー家の娘なんぞにその未来を潰されたくねえんだ。聞くところに寄れば、ヴェロニカとかいうその娘、情緒不安定でローランド家の森に1カ月ほど水を降らせたことも有るそうじゃねえか」
「それは…はい、そうです。その際にはキッシンジャー家の当主が上手く立ち回ったと聞いていますが…今回もまた、陰で動いているのではないでしょうか?」
不安要素しかないヴェロニカ・キッシンジャーとの婚約話。私だけならまだいいが、この先スタン本部長にまで迷惑を掛けることになるのであれば、本部長補佐への昇級は辞退しなければならない。
なんと理不尽な。
国の為に血と汗を流しながら訓練を積み、身を粉にして働いた結果がこれなのか。あの陰気で顔もよく分からない娘の為にあとどれほどの犠牲を強いられるのだろう?
激しい怒りに身を焼かれそうになるのを堪えたその翌日、キッシンジャー家の当主から私は面会を求められたのである。
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