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暗殺者との遭遇
しおりを挟むもし私がエミリーの立場だったなら、同じことをしたかもしれない。
『将軍はレイモンド以外の人間を殺めたりしない』とケヴィンは言っていた。しかし、エミリーについてはどうだろうか?本人にその自覚は無かったが、彼女は暗殺計画の一端を担っていたのだ。最悪ここで口封じの為にエミリーが殺されたとしても、将軍ならば秘密裡に処理出来るだろうし、もしそれでエミリーの父親から抗議を受ければ、武器商人を挿げ替えるだけで済む話だ。
そう考えると、エミリーの立場は非常に危うい。
だからと言ってこのままエミリーと共に居れば、アンドリューの身が危険に晒されてしまう。気を取り直してエミリーの両脇を力任せに引っ張ってみたものの、錯乱状態のせいか全然離れそうに無い。アンドリュー自身も、か弱い女性を置き去りにすることへの罪悪感からか、必死に抱き着くエミリーを邪険に出来ない様子だ。
そうこうしているうちに煙は少しだけ薄れ、人らしき存在を確認出来る程になっていた。そこに騎士団長らしき人物の朗々たる声が響き渡る。
>紳士淑女の皆様、どうか冷静に!
>一斉に逃げようとなされば、
>ドミノ倒しになります!
>今から順に誘導致しますので、
>それまでは動かず
>そのままの場所でお待ちください!
キャ──ッ、怖いわ!!
助けてくれ、俺はここにいるぞ!!
死にたくない!早くしてくれえッ
誰もが己の存在を主張するなか、私達は声を発することが出来ない。もし、アンドリューがレイモンドと間違われたら?残念なことに、敵味方を区別する術など、誰からも教わっていないのだ。
「エミリー、お願いだからその手を離して」
「嫌よッ、私だけ死ねばいいと言うの?!」
「そんなこと思ってないわ」
「自分達だけ逃げようとしてるでしょっ!」
「違うの、このままだとアンドリューが…」
「やだやだ!私も助けてよ!!」
「だめよ、そんな大声を出さないで」
「ここよぉ!ここにいます!!早く来て!!」
エミリーが叫ぶと煙が再び色濃くなり、まるで雲の中にいるかの如く視界が遮られてしまう。そして突然、目の前に見知らぬ人物が現れた。着用している制服から、ホール内の給仕担当であるかに思えたその男性は、明らかに異質な空気を纏っている。どんな場面でも埋没しそうなほど平凡で地味な容貌とは裏腹に、眼光の鋭さが尋常では無い。そう、微塵の隙も見当たらないのだ。
──ああ、きっとこの人だ。
──この人が、暗殺者に違いない。
どうやら私達は最悪の相手に見つかってしまったらしい。全てを察知し、怯む私とアンドリューとは裏腹に、相変わらずエミリーはアンドリューに抱き着いたまま泣き喚いている。すると、いつの間にか近くに立っていた痩せぎすの侍女が、暗殺者と言い争いを始めた。多分ケヴィンが話していた『煙玉を投げた侍女』というのは、この人のことだろう。
「ちょっと、どういうこと?」
「…ああ、お前か」
「なぜ関係の無い令嬢が一緒にいるのよ」
「さあ、俺にも分からんな」
「顔を見られたけど、どうする?」
「どうもこうも、纏めて殺るしかないだろう」
「もうっ、面倒を増やしてくれるわね」
「まあいい、こっちは俺が殺るから」
「じゃあ私がエミリー嬢をつれて行くわ」
「ああ、任せたぞ」
無駄のないやり取りで分担を決めたかと思うと、侍女に扮した女性の方は素早くエミリーの首元を手刀を叩き、気絶させた状態で連れ去ってしまう。一方、残された暗殺者はアンドリューの鼻と口を白い布で押さえ付けていた。
ドサッ
何らかの薬品を染み込ませてあったらしく、意識を失いかけたアンドリューは呆気なく膝をつく。
「ち…が、俺は…レ…モ…ドじゃな…」
人違いだと訴えているのだろうが、その声は周囲の喧噪に紛れて暗殺者の耳には届かない。どうすればいい?私がここで人違いであることを主張しても、レイモンドの暗殺計画を知ってしまった今、無事に返しては貰えないだろう。
「えっ?あッ、あ…」
どうしたら助かるのかを考えているうちに、私もアンドリューと同じ白い布を口元に当てられ意識を手放すことになる。
ゴオオオオッ
暫くして目覚めると、私はアンドリューと共に燃え盛る炎の中にいた。
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