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気付けば、熱い夜を過ごしていました。
しおりを挟む「うわ、本当に美晴さんって実在したんだ?!どうもどうも俺、清春の親友で友井といいます」
…ってことは高3か。ナシだな。
「市丸隆之介、高2です」
…問答無用でナシだな。
「どうも初めまして!清春の兄の壮志です。年上の彼女が出来たとか言うから心配したけど、こうしてお会い出来て安心しましたよ。アイツには勿体無いくらいの素敵な女性だ!!」
…これは婚約者と別れてフリーにさえなってくれればアリだな。
「私は壮志さんの婚約者の堂本レイラです。仲良くしてくださいね」
…うわお!このコ、モデルのレイラじゃないの。ごめんなさい、勝てる気がしません。壮志さんはナシに格下げさせていただきます。
この調子で次から次へと喫茶店に顔面偏差値の高い人々が集結する。それをこの場にはふさわしくない地味女子が、鬼気迫った表情で撮影していく。
「ちっぎゃう!!隆之介はそっちに立ってッ。制服はマズイから清春くんは上着脱いでよね。ほらもっと!楽しそうに!!モア!モア!!死ぬ気で笑え──ッ!!」
こ、怖い…。
笑顔を引き攣らせながら清春くんにコッソリ訊ねる私。
「あの子はいったい何者なの??」
「えっと、俺の一番上の兄貴…達志の婚約者で、あ、ほら、前に美晴さんも騒いでたでしょ?ネット発で凄く人気が出た漫画家の市丸汐里!そこにいる隆之介とは双子なんだ」
「嘘?!本当にあの市丸汐里?あれ本名だったの?だってエロ満載の作品やBL漫画まで描いているのに?」
「ああ、アイツは漫画界の黒澤明を目指してて、己のしていることを一切恥じていないから」
カ、カッコイイ!!ってどう見ても女子高生なんですけどッ。
「えっと、もしかして清春くんのお兄さん達はロリコンなのかしら?」
「そっ、そんなことは無いはずだよ。長男は18歳年下の汐里と婚約して、三男は12歳年下のレイラと婚約したけど、次男の嫁さんは8歳年下なだけだから」
墓穴を掘ったな?8歳って世間一般ではかなりの差だから。…という目で清春くんを見つめていると、再び汐里先生から罵声が飛んできた。
「こらそこ!!もっと本気出して笑いなさいッ」
「は、はいいッ」
元はと言えば、私と清春くんの発案で皆様には協力していただいている立場なので、自分達が真剣に取り組まなければ申し訳ない。そう思って無我夢中で笑顔を浮かべていると、いつの間にやら撮影は無事終了。人気モデルのレイラやカリスマ・ヘアメイクアーティストの壮志さんもバッチリ写り込み、これで集客率アップ間違いなしだろう。
>清春の彼女、美人だなあ。
>清春のこと、宜しくお願いします!
>やっとこれで清春も1人の女に落ち着くのか。
後からやってきた清春フレンズに『俺の彼女』と紹介されまくり、それを眺めながら私はマズイと感じていた。このままでは事実婚ならぬ“事実彼女”になってしまう。では、どうすれば??
そして私は新しい彼氏を作ることを決心する。
社会人でそこそこカッコ良く、気の合う彼氏を。
…………
「チア──ズ!!」
カチンカチンとグラスがぶつかる音に紛れ、『よろしく』とか『どうも』などという声があちこちから聞こえてくる。
そんなワケでコンパに来てみた。
もちろん京香さん主催で、お相手は一流企業の営業マンたちだ。6対6と大所帯なだけあって、席替えタイムが2度も行われ、最終的に私は自称マット・ボマー似の隣りに座っている。残念ながら“自称”なので、実際はネズミ男に近い。
「いや、本当のことを言っちゃうけど、俺ら全員モテるんだよ。でも、たまたま今は特定の彼女がいないんだな。どう?美晴ちゃん。試しに付き合ってみない?」
「やだあ、もう、嘘だあ」
ここで解説しておこう。私の『嘘だあ』という言葉は『彼女がいない』の部分に対して発したのでは無く、『モテるんだよ』の言葉に対して出たのである。
ちくしょ。最近、あまりにも清春くんの顔を見過ぎたな。しかも、あの喫茶店で顔面偏差値の高い人々を見まくったせいで、この中の下…いや、下の上レベルの雰囲気イケメンたちがショボく思えてしまう。というか、どうしてコイツたちは自信満々なのか?そこそこ大きな企業に勤めているというだけで、別にアナタ達自身が一流なワケでも無いのに。
「ねえ、この後2人だけで抜けてどこか行こ」
ネズミ男に耳元で囁かれ、鳥肌が立つ。ぞわわ、き、気持ち悪いいい。そう言えば清春くんもたまに耳元で囁くけど、鳥肌が立つことは一度も無かったな。
清春くん、いま何してるんだろ。
先週は週5で会ったから、3日も会わないのって逆に新鮮かもしれない。清春フレンズの話では昔は女遊びが激しかったらしいし、まさか他の女のコと会ってたり??あらやだ、そんな浮気、許しませんよ。って、そんなこと言える立場じゃないよね。
「…ちゃん?美晴ちゃんってば。大丈夫?」
「えっ?ああ、はい」
脳内が清春ビジョンで埋め尽くされていたのに、正気に戻った途端、ネズミ男のドアップだ。
…切ない。
なんだか無性に、清春くんに会いたい。
そんな私にネズミ男が尚も言う。
「ねえ、さっきの返事は?いいじゃん、先に体の相性を確かめておいて、それでお互いに付き合うかどうか決めようよ」
「万が一、避妊に失敗したら…。ごめんなさい、ネズミの子供は育てられません」
「へっ?ネズ…ミ?」
「せめて愛情を注げる子供じゃないと無理です」
「は?あの、なに言ってるのかな??」
「いや、それ以前に、好きでも無い男に指一本でも触れさせてなるものですかッ」
ええ、認めますとも。この時点で私はかなり酔っていた。元々アルコールには弱いクセに調子に乗って漬け込みハイボールとやらを飲みまくり、気付けば諸々のストッパーが外れまくっていて。その挙句に翌朝、のろのろと目覚めるとそこは
…ラブホテルの一室だった。
もちろん1人でラブホテルに入るはずも無く、薄目を開けて周囲を確認する。相手はいったい誰なんだ?アルコールが入った途端、ポンコツになる私はネズミ男に口説かれた辺りで記憶が飛んでいて。どうしてこんなところで寝ているのか、皆目見当もつかないのである。
標的はすぐに見つかった。
私の真横で寝ているその人は、残念ながらこちらに背を向けており。ふわふわの羽根枕から半分だけ見えているその後頭部だけでは、誰なのか判断に迷う。掛布団からニョキッと出ている肩はもちろん何も身に着けておらず、私自身も残念ながらスッポンポンだ。いや、それよりもヘッドボードに開封済の避妊具の袋が置いてあったりして。私ってば、どんなに意識を無くしていてもそこんとこはシッカリしてるのね。
あはは、あははは…って、うわあああんッ。
ネズミ男だったらどうしよおおおッ?!
どうやらイヤイヤと頭を左右に振ったその振動で目覚めてしまったらしく、ムクリと上半身を起こして私の方に向いたが、低血圧なのか項垂れたままなので顔が確認出来ない。
「おっ、おはようございます」
「…ん」
おいこら、もっと喋ってくれ。
何かヒントを!!
「す、素敵な朝ですよね」
「はあ?」
いや、その反応は間違っていない。なぜなら外はドシャ降りらしく、恐ろしいまでの悪天候だからだ。
「土曜だし、そちらはお休みですか?」
「なに言ってんの?」
ファサッと前髪をかき上げてくれたので、ようやくその顔が見えた。
う、うおおおっ!でかした、私!!
「き、清春きゅん…」
「今日は学校が休みだって昨夜も言ったよ。っていうかさ、まだ5時じゃん。あと1時間、寝かせてくんないかな」
どうぞどうぞと私は答え、ギュムと抱き枕にされながら頭の中を整理する。
ああ、もうっ、どうしてこうなった??
いやダメ、清春くん本人にそれを訊いたら絶対に怒る…というか傷つけてしまう。ん?そんなことよりも、もっと大事なことが。確か家族と同居してるんだよね、このコ。もしかして無断外泊させてしまったんじゃ?育ての母親は、とにかく厳しい人だと愚痴っていたから、今頃、大騒ぎになっていたりして…。
「き、清春くん、あのね」
「んあ~…何ッ?!」
低血圧、怖いいい。
「お家の人には何か言って来たのかな?ひょっとして捜索願とか出されたりしてない?」
「大丈夫、彼女とお泊りするって伝え済だから」
…お、おうふっ!!
「な、なんて??」
「むー、だから俺、眠いんだって」
「で、でもココんとこ重要だからッ」
「美晴さんが離してくれなかったせいで、寝たの1時間前だよ?ほんと勘弁して」
「美晴の一生のお・ね・が・い。どんな風にお母さまに報告したのかを教えてッ」
「あ──っ、もう!しょうがないなあ。以前から美晴さんのことは伝えてあったし、職場の先輩にムリヤリ連れて行かれたコンパで、ネズミ男に迫られて困ってるから助けに行くと話してある」
ナイス!私。
どんな時でも的確な対処だわ!!
自分で自分に惚れ惚れしていると、枕に顔を埋めたまま清春くんは続けるのだ。
「…呼び出されたのが夜中の11時だったし、むしろ母さんの方から『泊まって来い』って。なんていうか、ほら、前にチラッと話したと思うけど、ウチって男系一族でしかも親戚連中には一生独身っつうのがザクザクいてさ。さすがに結婚式場を運営してて、社長の息子が独身ってワケにいかないじゃん。そんな理由で、むしろ大喜びだったよ。あ、そう言えば『今度連れて来い』ってさ」
いやあ、厳しい人だと聞いていたのに、その本人が未成年の息子をけしかけたと??しかも交際相手が7歳も年上だということを知っていながら…って、ソコじゃない。思い出せ美晴!もっと重要な箇所があっただろ?アレだよアレ。
>『今度連れてこい』ってさ
…あれれ、待って、いつの間にそんな親公認で付き合ってるみたいな話になってるの??
「美晴さんてさ、酔うと正直になるんだね」
「な、なんでっ?!」
『覚えていない』とは言い難いが、とんでもないことを言った気もする。
「あんなにスキスキ言われると、さすがに俺も燃えちゃったよ」
「ボ、ボーボー」
「…なに、それ」
「も、燃えてる効果音」
「これで両想いだね。絶対大切にするから」
「きゅ、きゅーん」
本当に悔しいが、この男は理想そのものだ。誰もが見惚れるルックスとしっかりした家柄、そして何よりも私だけを好きでいてくれて、5年後には結婚までしてくれるのだと言う。
そうさ、認めよう。酔っていたとは言え、漏らしたのは本音だ。どうやら私はこの男が心底好きなのである。もし付き合えば世間から偏見を持たれることは間違いないし、乗り越えるべきモノは余りにも多い。
それでも手に入れたいと思ってしまったのだ。
※この頁に登場したレイラ、壮志、汐里、隆之介は他サイトにて公開している『ラッキーベイビー』という話のメインキャラなのです。
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