6 / 31
よねざわさん、よねざわさん、よねざわさん…。
しおりを挟むエレベーターに乗り、夜間用の従業員出入口から出て、大回りしながら大通りに面したコーヒースタンドへと向かう。その移動の際に私、廣瀬さん、前田さん、千脇さんの4人でフォーメーションが組まれ、全員一列に並んだり廣瀬さんと私、前田さんと千脇さんで二列になったり、男女別で分かれたり、とにかく目まぐるしくその位置が変わっていくうちに気付けば米沢さんを囲むようにして、4人とも円卓についていた。
えっと、早く帰りたそうにしてたのに、
この2人まで連いて来ちゃったよ。
「米沢さん、お待たせしてごめんなさい。彼が仕事で外出していて、この時間まで戻って来なかったんです」
「全然平気だよ。ところで、どっちの男性かな?」
素早く顔を伏せる前田さんと、ドヤ顔で微笑む廣瀬さん。多分、私が紹介するまでもなくその態度で米沢さんは分かってしまったのだろう、それこそ舐めるように廣瀬さんを見つめ始めた。
そっか、こういう時に廣瀬さんは本領を発揮するんだな。注目されることがどうやら嫌いでは無いらしく、軽く足を組んでから『コホン』と軽く咳払いすると、分かり易くドヤ顔がドヤドヤ顔へと進化する。それから漸く自己紹介が始まった。
「初めまして、朱里さんとお付き合いさせていただくことになった廣瀬です」
「朱里さんの友人で米沢といいます。突然呼び出したりして失礼だとは思ったのですが、どうしても確認しておきたかったものですから」
「確認?」
「あの、あまりにも瀧本湊という男の評判が悪すぎて、皆んな凄く朱里ちゃんのことを心配しているんですよ。こうなったら俺が憎まれ役になっても構わないから、そいつを諦めさせようと決心したワケでして。気持ち悪いストーカー男だと思われても構わない、とにかく湊という男と切れてくれればって。朱里ちゃん、すごくイイ子だから、そんなつまんない男のせいで時間を無駄にさせたくないって言うか、だからなんかもう、安心しました」
よねざわさん…。
「安心、ですか?」
「はい。だって湊とかいう男のことご存知ですか?俺も一回しか見たこと無いんですけど、本当にもう胡散臭くて。長髪、両耳に複数のピアス、着ていたシャツなんかボタンが4つも開いてたりして。でもまあ、外見だけで判断するのもどうかと思って念のため朱里ちゃんの友人である佐古さんからその性格についても聞いたんですけどね、それで余計に確信しましたよ。あんな男に関わったら、朱里ちゃんは絶対不幸になる」
よねざわさん、よねざわさん…。
「それは仰るとおりですね」
「ええ、ですから、諦めさせようと意気込んで来たんですけど、その朱里ちゃんが『実は新しい彼氏が出来た』と。まさか同じ轍を踏むことは無いだろうとは思いましたけど、この目で確かめるため相手に会わせてくれとお願いしたんです」
よねざわさん、よねざわさん、よねざわさん…。
「ということは、俺は合格でしょうか?」
「勿論です。また外見のことを言って申し訳ありませんが、社会人として理想的な方だとお見受けしました。あの…、でも廣瀬さんのような素敵な男性が、一時的とは言えフリーだったなんて信じ難いのですが、まさか他に彼女がいたりしませんよね?」
私の中で『よねざわシュプレヒコール』が起きていたせいで返答に遅れたところ、間髪入れずに千脇さんが答えてくれた。
「いません。仕事バカで一時的どころか2年間も彼女がいません!」
「えっ、2年間も??」
「ご安心ください!モテ過ぎて、女除けのために偽の彼女役をした私が言うんだから間違いありません」
「女除けを??」
「でも私はここにいる前田と付き合い出したので、お役御免になったのです」
「そう…ですか。あの、まさか朱里ちゃんも女除けとして利用されているんじゃありませんよね?」
「あはは、ご安心ください。この2人はきちんと好き合っていますから!!」
「本当かい?朱里ちゃん」
ここまで来れば、もう後には引けない。
私は声高らかに『ハイッ!』と答えた。
0
あなたにおすすめの小説
答えられません、国家機密ですから
ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。
転生令嬢と王子の恋人
ねーさん
恋愛
ある朝、目覚めたら、侯爵令嬢になっていた件
って、どこのラノベのタイトルなの!?
第二王子の婚約者であるリザは、ある日突然自分の前世が17歳で亡くなった日本人「リサコ」である事を思い出す。
麗しい王太子に端整な第二王子。ここはラノベ?乙女ゲーム?
もしかして、第二王子の婚約者である私は「悪役令嬢」なんでしょうか!?
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
空蝉
杉山 実
恋愛
落合麻結は29歳に成った。
高校生の時に愛した大学生坂上伸一が忘れれない。
突然、バイクの事故で麻結の前から姿を消した。
12年経過した今年も命日に、伊豆の堂ヶ島付近の事故現場に佇んでいた。
父は地銀の支店長で、娘がいつまでも過去を引きずっているのが心配の種だった。
美しい娘に色々な人からの誘い、紹介等が跡を絶たない程。
行き交う人が振り返る程綺麗な我が子が、30歳を前にしても中々恋愛もしなければ、結婚話に耳を傾けない。
そんな麻結を巡る恋愛を綴る物語の始まりです。
空蝉とは蝉の抜け殻の事、、、、麻結の思いは、、、、
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
【完結】見えてますよ!
ユユ
恋愛
“何故”
私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。
美少女でもなければ醜くもなく。
優秀でもなければ出来損ないでもなく。
高貴でも無ければ下位貴族でもない。
富豪でなければ貧乏でもない。
中の中。
自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。
唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。
そしてあの言葉が聞こえてくる。
見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。
私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。
ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。
★注意★
・閑話にはR18要素を含みます。
読まなくても大丈夫です。
・作り話です。
・合わない方はご退出願います。
・完結しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる