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熱弁モードに突入

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 そして更に廣瀬さんは続けた。

「正直に言ってごらん、太田さんは迷っているんじゃないのかい?」
「迷う…とは?」

「だってほら、俺と付き合うことになったその直後に、恋焦がれていた瀧本くんがウチの会社に入ったんだ。普通だったら俺との間で気持ちが揺れるはずだろ?」
「えっ?揺れ…てないですけど」

「本当かい?だって、ずっと好きだったんだよね、瀧本くんのこと」
「好き…だと思っていましたがこうして落ち着いてみると、なんだかアレはアイドルに憧れるファン心理に近いと言うか、付き合いたいとかそういう感情では無かった気がします。湊を自分に振り向かせるまでが目標で、もし仮に湊が私に振り向いてくれたとしても、その先が全然想像出来ないというか。数日もすれば他の女性の元へ去って行くと分かっていたクセに、どうしたかったんでしょうね、私?」

 ここで湊が不機嫌そうな感じで会話に加わる。

「だけど今の俺は、女関係がとってもクリーンだぞ」
「あはは、そうだね。でも、湊はこうして恋愛を絡めない方が長く付き合える人なんだよ。たぶん湊の方もそれが分かっていたから、私を相手にしなかったんでしょう?いつもなら強く迫られると取り敢えず付き合っておいて、短期間でヤリ捨てる感じだったもんね。毎回、後腐れなく別れることが出来たのは相当残酷に扱ったからだろうし、私にそれをしなかったのは…それなりに大切にしてくれたからなんだろうなって、ようやく分かった気がする。まあ、そういうワケで既に心の整理は付いているし、これで湊を卒業出来たかな…なんて」

 どうしてだろう?湊が暗い表情をしている様に見える。きっと気のせいだろうと思いながら私は、廣瀬さんに向かって話し出す。

「それよりも、あんなに『俺を愛してくれ』と騒いでいた廣瀬さんがどうして急に距離を置いたのか、随分と悩みましたよ」
「あー、ゴメン」

「で、いきなり『セックスしよう』って、何ですかソレ?」
「いや、ほら、俺って性欲が薄いというか」

「そういう話は声のトーンを落としてくださいよ」
「ああ、そう、そうだな。…えっと、俺は仕事に熱中し過ぎて、恋愛に回す余力が無かったんだ。で、ご存知の通り彼女も2年ほどいなくてさ。いや、前に話したと思うけど、過去の恋愛もロクなモンじゃなかった」

 あー、いつもの熱弁モードに突入したんだ。こうなると廣瀬さんは伝えたいことを話し終えるまで止まらない。だから私は聞き役に徹することにした。

「でも、時折激しく不安になるんだ。誰もが普通に出来ている『恋愛』というものを、どうして自分は出来ないのかと。定期的に体を繋げ、愛を囁き合うその行為をどうして渇望しないのかと。残念ながら性欲はゼロでは無くて、脳内ではあれこれエロい妄想を繰り広げているのに、それを実行しようとしないだけなんだ。

 それはつまり、脳内でならば自分に都合よく事が運ぶし、傷つくことも無いからで、脳内で思うソレより現実のソレの方がずっとずっと気持ちイイのも知っているけど、どうして実行しないのかと言うと、ブランクが空き過ぎて怖いからで、己に対して余りにも完璧を求めすぎるが故に性生活でも最高の自分を演出したいのに、それが叶わないというジレンマに陥っているんだろうな。

 そんな時に太田さんが処女だと知り、そっかじゃあ他の男と比較されないんだなという安心感から、一刻も早く性交してしまいたいという衝動に駆られて思わず口から出てしまったんだけど、これで俺の気持ちを理解して貰えたかな?」


 って、ええい、相変わらず面倒臭いなッ。

 
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