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チクる私
しおりを挟む「あ、総務部の太田朱里だよ」
「廣瀬さんと湊様を手玉に取ってるとかいう?」
「ブスのクセに何様のつもりなのかな」
「もしかしてアッチの具合がいいのかも」
ハア…。絵に描いたような陰口だな。
ランチタイムの混雑した社食。食券をトレイに乗せて麺類カウンターの行列に並んでいると、私の真横で定食カウンターの行列に並んでいる女性社員達がワザと聞こえるように噂話を始めた。普通だったら、涙ながらに落ち込むのかもしれないが、残念ながら私は普通では無いのだ。
こちらもワザと大声で真後ろに並んでいる同じ総務部の大津さんに話し掛ける。ちなみに大津さんはカレーうどんをこよなく愛する、素敵に枯れた中年社員だ。
「大津さん、この方達の名前をご存知ですか?」
「ああ、分かるよ。4人共バッチリだ」
「じゃあ、昼イチでモラハラ相談の申請を上げてもいいですか?」
「勿論。俺も聞いてたから証言してあげるよ。それにしてもこんな場所で『アッチの具合がいい』だなんて、凄いこと言うよなあ」
「私がハラスメント対策の窓口係だと知っていながら言ってるんでしょうか?あっ、もしかしてその処理で忙しくさせるのが真の目的なんですかね」
「今月はもう9人目だもんね。業務中にわざわざ太田さんを呼び出して、30分ほど文句を言った経理部の栄田さんの減給手続きはもう終わったかい?」
「はい、完了しています。職務放棄と業務妨害ですんなり通りました。こちらの方達の場合は名誉棄損で処理すればいいですか?」
「うん、それでいいかな」
「でも、大津さんだと同じ総務部だし、捏造したと思われないでしょうか?」
「うーん、誰か別の人にも証言して貰う?そこにいる営業部の…」
この時点で陰口4人組は慌てて行列から離脱し、去って行く。その後ろ姿を眺めながら私は大津さんに向かって御礼を言う。
「本日も無事に撃退出来ました、いつも有難うございます」
「いやいや、どういたしまして」
まあ、予想はしていたが、さすがにモテ男2人と連日連夜一緒にいれば、女性社員達から反感を買うのは当然で。それでも孤軍奮闘とばかりに何とか凌いでいたのだが、先の話題にも出た経理部の栄田さんの件で事態を知った廣瀬さんがキレた。その結果、一番トラブルが発生し易い社食ではこうして大津さんもしくは他の中堅社員に同伴して貰えることとなったのである。
この中堅社員というのがミソで、陰口を言って来るのはその殆どが若い女性社員だろうから、それより格上の人間でなければ逆恨みされるという理屈だ。まあ、実際にモラハラ申請なんかするワケないし、腹黒い私のすることと言えば、嫌がらせしてきた女性社員達の名前を廣瀬さんと湊にチクるくらいだが。
「『アッチの具合がいい』って、今どきオッサンでも言わないぞ」
「ほんと、怖えええ」
というワケでその晩、早速2人に報告している私である。
「だいたい、朱里は処女なのに、具合もクソも無いよな」
「えっ、太田さん、処女なの?」
声、大きいよ。こんな静かなバーで、アンタ達にはデリカシーってものが無いの??ひたすら無言を貫く私とは逆に、男共は嬉々としてその話題を続ける。
「だって、上京してすぐウチにバイトで入って、俺に夢中になっちゃったんだよな?あの時点で『誰とも付き合ったことが無い』って言ってたし。廣瀬さん、まだ手ェ出して無いでしょ?」
「……」
ひ、廣瀬さん、なんでそこで黙るの?私達、清らかな関係ですよね?!
「ていうか、本当に付き合ってるんですか、廣瀬さんと朱里って。全然そういう感じに見えないんですけど」
「太田さん!」
湊の話を遮って廣瀬さんが私の名を呼んだので、素直にハイと答えたところ、目の前のこの人は驚きの言葉を発するのだ。
「俺とセックスしよう」
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