ずっとこの恋が続きますように

ももくり

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私たちの関係

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 種明かしをすると、湊は2年間ほど父親の会社で働いていたそうだ。

「まあ、そりゃあそうか。実務経験が無いとさすがの羽柴社長でも断るって」
「えーっ、後からそんなこと言うの卑怯ですよ、廣瀬さん」

 湊の話に寄ると、彼には3つ年上の兄がいて、名前はマモルさんというのだと。当初はその衛さんが父親の跡を継ぐため修業していて、これがまた非常に優秀で幼少期から神童と呼ばれ、正に大手企業のリーダーとなるべくして生まれてきたような人だったらしい。

 だが、残念なことに彼の父親の取り巻き連中はそれ以上に優秀だった。次期社長の育成のためにとその指導は峻烈で、事ある毎にプレッシャーを与え続け、決断を迫り、そして幾度も衛さんの能力を否定する。

 生まれてから一度も挫折を味わったことの無い男が、成人していきなり叩きのめされてしまうとどうなるか?

「…そりゃあ、壊れるよね。兄貴はすごく真面目な性格だったから、誰にも相談せず、ひたすら自分ばかりを責めてその挙句に精神を病んでしまったんだ。で、呆気なくドロップアウトだ。そして当時入社2年目の俺にお鉢が回ってくるワケ。まあ2人兄弟なんだし、兄貴がダメなら次は俺になるのが順当だよな。こう言っちゃナンだけど、ウチの母親なんてずっと『長男様』つって俺なんかゴミ扱いしててさ、やった~、漸く俺の時代到来だ!なんて思ってたら、ここで母親が猛反対だよ」

 湊の母親は、自分の息子をこれ以上犠牲にしたくないと訴えたそうだ。『兄を壊して、弟まで壊す気か?』とヒステリックに泣き叫び、連日、会社に来て騒ぎまくったのだと。その結果、湊が跡継ぎになる話は消滅してしまったらしい。

 ところが話はここで終わらない。後日、湊は母の真意を知ってしまうのだ。それは、まだ不安定だった衛さんが湊本人に向かって直接バラしたそうだ。『俺が出来なかったことを、湊なんかに成功されたら困るんだ。だって、まるで俺がお前に劣ってるみたいに思われてしまうだろう?だから母さんに頼んで、湊が跡取りになれないようにして貰ったんだよ』と。

 勿論、湊は深く傷ついた。

「いつか母に褒めて貰おうと勉強もスポーツも必死に頑張ったけど、結局何をやっても無駄だったってことだ。母の優先順位は何が有ろうと兄貴が一番で、俺は二番ですら無い。むしろ邪魔な存在だと分かったら何もかもバカバカしく思えてな。こんな俺でも最初はさ、社長になった兄貴の片腕になれたらいいな…なんて殊勝な考えで入社したんだぞ?でも、あいつらの本性を知ったら、そんな自分が哀れになってしまって。そのまますぐ辞表を提出し、遊びまくりの生活に突入したってワケ」

 そっか、だからあんなにヤケクソな感じだったんだな。頑張って働こうとしていたのに、その健気な想いを摘まれ、遠回しに『お前は要らない』と宣言されてしまったんだ。そりゃあヤル気も失せるよね。

 湊は地味目のツーブロックを、長髪の頃の名残りなのかウッカリかき上げながら話し続ける。

「さすがにもう遊び歩くのも飽きたし、そろそろまともに生きてみたいなって思ってた。で、朱里から廣瀬さんがイキイキ働いてると聞いて、しかもこの人、なんか俺とよく似た境遇なのに親の会社じゃなく敢えて小さい会社に勤めてると知って、あー、じゃあ俺もそうする!…って思ったんだ。なんか、働くのっていいよな。今、すごく充実してるというか、楽しい」
「瀧本くん…、キミはなんて可愛いんだ」

「俺、廣瀬さんの言うとおりに女性関係も整理済なんで!さすがに企業の顔…しかも人事関係の部署にいて、乱れた生活は出来ませんから!」
「うんうん、そうだぞ、いつでも身辺はクリーンにしておけよ」

「はい、廣瀬さんを見習います」
「あはは、見習われちゃうぞ~」

 って、湊と違って廣瀬さんの場合は女性関係を整理する必要が無いんだよ。

 …などと心の中で突っ込みを入れる私。こんな感じで我らは健全な仕事仲間としてただ食事をするだけの関係になってしまったのである。

 
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