20 / 31
頑張って断った…のに
しおりを挟む「あのさ、システム開発部の社員が一気に3人も退職願を出したせいで、急遽、幹部会議が開かれたんだ。ほら、あの部署って一部の人間だけが酷使されて長時間勤務しているのに、その他の人間はロクに働かず定時で帰ってただろ?」
「…あ…あ、そうみたいね」
なぜ今その話をするのかと訝しがりながらも私は、知っている情報を伝える。
「専門職みたいなものだから、誰が何をしているのか把握が難しいとかって。しかも統轄すべき部長が営業畑出身の人間だったせいで、利益を上げたはいいけど中途半端な知識のせいで現場を混乱させているんでしょう?」
「そう、その通り。でさ、部長を挿げ替えて、公平な采配を約束することで退職希望者を引き留めているんだけど、その件について人材開発課から廣瀬さんがメインで動くことになる。まあ、平たく言うとシステム開発部の社員達の仕事量を調整し、彼らの再教育も行なうんだよ。廣瀬さん、そこそこシステム関連には詳しいけどシステム開発ともなると更にその上をいくだろう?…きっと今からメチャクチャ勉強することになるぞ、あの人」
えと…、それはつまり…?
キョトンとする私に湊は分かり易く言い直してくれる。
「あの人、完璧主義者だからな。取り敢えず現在抱えている仕事は全て俺が引き継ぐことになって、廣瀬さんはその方面の知識が深い人間に教えを乞いながら、伏魔殿と化しているシステム開発部を立て直す作業に入るってこと。…ああ、もう、つまり、死ぬほど忙しくなって、それが落ち着くまで朱里と会う時間は無くなると思ってくれ」
「えっ、でも土日くらいは会えるでしょう?」
せっかく想いが通じ合って、これからが楽しい時期なのに??
「たぶん無理だろうな。システム開発部って能力給なんだけど、その査定をしていたのが例の部長だったんだ。有り得ない話だと思うだろうが、仕事の出来高じゃなく個人的な好き嫌いで評価されていた社員もいたみたいでさ、会社に貢献しているのに安月給だったり、あまり働いていなくても高給取りだったとかで一日でも早く再査定が必要なんだよ。その査定をするには、仕事の内容を把握するための知識が必要だろ?きっと廣瀬さんのことだ、寝食を惜しんで勉強すると思う」
「そっか…、仕事だもんね」
「そんな暗い顔すんなよ~、言わない方が良かったか?」
「ううん。ワザワザ教えてくれて有難う」
…その後、廣瀬さんからも直接報告を受けて、暫く会えないと宣言されてしまった。なので私は快く『仕事に専念してくださいね!』と答えたのだが。
「えっ、なんでだ?」
「なんでって、2人きりはマズイよ」
廣瀬さん抜きでも今まで通りに食事に行こうと湊が言うので、キッパリ断ったところ、予想外の抵抗を受けた。
「は?今まで廣瀬さんが接待や会議で不在でも、関係なく俺と2人で食事してただろうが」
「そっ、それはそうなんだけどさ。でも、私は廣瀬さんの彼女なんだし」
「妙なことを言うヤツだなあ。今まではOKだったのに廣瀬さんと寝た途端、NGになんのかよ」
「そういうことじゃ…」
あるけど、思いっきりそうなんだけど。
「今更、廣瀬さんもダメって言わないって。俺さ、遊び仲間とはもう連絡取り合ってないし、1人で食事とか寂しくて死にそうなんだけど」
「大ゲサだなあ、寂しいくらい慣れなさいよ、いい大人なんだから」
「ていうかさ、元はと言えば朱里がきっかけで会社勤めすることになって、環境がガラッと変わったせいでボッチなんだぞ。…責任は取って貰うからな」
「言いがかりは止めてくださ~い」
私は頑張って断った…のに。
その翌日、仕事帰りにいきなり腕を掴まれ、強引に拉致されてしまい。それ以降も湊に連れ回されていたりする。
0
あなたにおすすめの小説
転生令嬢と王子の恋人
ねーさん
恋愛
ある朝、目覚めたら、侯爵令嬢になっていた件
って、どこのラノベのタイトルなの!?
第二王子の婚約者であるリザは、ある日突然自分の前世が17歳で亡くなった日本人「リサコ」である事を思い出す。
麗しい王太子に端整な第二王子。ここはラノベ?乙女ゲーム?
もしかして、第二王子の婚約者である私は「悪役令嬢」なんでしょうか!?
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
空蝉
杉山 実
恋愛
落合麻結は29歳に成った。
高校生の時に愛した大学生坂上伸一が忘れれない。
突然、バイクの事故で麻結の前から姿を消した。
12年経過した今年も命日に、伊豆の堂ヶ島付近の事故現場に佇んでいた。
父は地銀の支店長で、娘がいつまでも過去を引きずっているのが心配の種だった。
美しい娘に色々な人からの誘い、紹介等が跡を絶たない程。
行き交う人が振り返る程綺麗な我が子が、30歳を前にしても中々恋愛もしなければ、結婚話に耳を傾けない。
そんな麻結を巡る恋愛を綴る物語の始まりです。
空蝉とは蝉の抜け殻の事、、、、麻結の思いは、、、、
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
課長のケーキは甘い包囲網
花里 美佐
恋愛
田崎すみれ 二十二歳 料亭の娘だが、自分は料理が全くできない負い目がある。
えくぼの見える笑顔が可愛い、ケーキが大好きな女子。
×
沢島 誠司 三十三歳 洋菓子メーカー人事総務課長。笑わない鬼課長だった。
実は四年前まで商品開発担当パティシエだった。
大好きな洋菓子メーカーに就職したすみれ。
面接官だった彼が上司となった。
しかも、彼は面接に来る前からすみれを知っていた。
彼女のいつも買うケーキは、彼にとって重要な意味を持っていたからだ。
心に傷を持つヒーローとコンプレックス持ちのヒロインの恋(。・ω・。)ノ♡
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる