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開いた口が塞がらない
しおりを挟む恋すると女は綺麗になるらしい。
それも内側からペッカペカに輝いて、
隠すことが出来ないのだそうだ。
私も女の端くれなので、そこそこ綺麗になったような気もするが、なぜか廣瀬さんの方が著しい変化を遂げてしまった。コトを成したその翌日から、何と言うかもうキラキラのエロエロだ。もともとストイックな優等生風味のイケメンだったところに、オスとしての色気が加わってしまったのだ。最早、無敵状態と言えよう。
>なんか廣瀬さんを直視出来ないんだけど。
>やだ!私もよ、フェロモンむんむんよね。
>はあ~、太田さんが羨ましいぃ。
女性社員達からの羨望の眼差しが痛い…。
ついでに、あれから2日も経過したというのに身体の一部が未だにジンジン痛む。仕事に専念しようとしてもこの痛みのせいでベッド上での廣瀬語録を思い出してしまい、恥ずかしさに身悶える。
『もう、朱里は俺のだ』
『大好きだよ、朱里』
『あっ…、イ…ク』
ずっとセックスのことを闇属性だと思い込んでいたが、全然違った。あれは…愛を確かめ合う素敵な行為に違いない。もしかして世間一般の恋人達って皆んなこんな感じなのかな?だとすればこの世の中には幸せが溢れてるってこと?その辺をプラプラ歩いているカップルも、実はメチャクチャ愛し合っているのに、何でもない顔をして普通に過ごしてるとか、マジ尊いんですけど。
ふああっ、廣瀬さん…好きいぃ。
いかん、これでは仕事にならないと思い、己を戒める意味でトイレへ向かうと、その途中の廊下で呼び止められた。
「太田さん」
「はい」
振り返ればそこには佐々岡さんが能面のような顔で立っていて、思わず私は後退りしてしまう。…えと、確か湊が人材開発課に入ったことに寄り、この人は異動して営業アシスタントになったはず。だからこのフロアにいること自体、変なのだ。
「こっちに来て、話が有るの」
「え?何でし…」
最後まで言い切らないうちに非常階段へと引き摺り込まれ、そこで佐々岡さんは私に謝罪を求めて来た。
彼女いわく、自分と宮丸さんの恋愛は平社員同士だったせいでムリヤリ引き裂かれたが、社長と副社長のお気に入りである廣瀬さんと私の恋愛が看過されているのは、明らかに差別だと。自分は営業部に異動させられ、仕事も私生活も最悪の状態なのに、この姿を見て心が痛まないのかと。
開いた口が塞がらない。
えっと、同類にしちゃう?社用車でキスしまくって、勤務時間中に社内のあちこちでイチャイチャして、一緒に帰りたいという理由で無駄に残業していたアナタ方と、社内で挨拶程度しか交わさない私達を。
反論したいけど、目の前のこの人は一応先輩で。敵を作るのは得策では無いと考えて、ひたすら押し黙る。う~ん、取り敢えず適当に謝っておこうかな、そうすればこの場は凌げるはずだから。
「…佐々岡さん、それは違うでしょう?」
その声に驚いて顔を上げると、そこにいたのは湊で。どうやら話を全て聞いていたらしく、2人の間に割って入り、全身を佐々岡さんに向けて反論を始める。
「会社にとって不利益を与えたから、アナタと宮丸さんは厳重注意を受けたんですよ。それを理解していなかったとは、非常に残念です」
「…えっ、あ…それは理解しています…けど」
なんだ、自分達が悪いと分かってるクセに難癖をつけてきたのか。それってつまり、八つ当たりしたかっただけってこと?
「無駄な残業、勤務中に恋愛絡みの私語を続けて周囲の社員達の仕事を妨害する、社用車でキスしたり、オフィスで抱き合う等の風紀を乱したことに対する注意だったはずですよ。廣瀬さんと太田さんは何かそれに該当する違反をしていますか?」
「…して…いません」
「むしろ廣瀬さんに於いては仕事が捗っていますし、朱里…太田さんの存在が原動力になっているのならば、この恋愛を反対する理由が無いんですが。佐々岡さんもどうせするなら、良い方向に変われる恋愛をしてくださいよ」
「はいぃ」
「じゃあ、納得していただいたってことで、もう仕事に戻りましょう。こうしている間にも、給料が発生していますからね!」
「えと…あ…、失礼します…」
蚊の鳴くような声でそう言い残し、佐々岡さんは去って行く。続けてオフィスに戻ろうとした私は、なぜか湊に腕を掴まれ引き留められてしまった。
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