みどりさんの好きな人

ももくり

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12.みどり

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 「俺んち、シアタールームが有るんだ」

 森野君がそう言い、学校帰りに寄ることに。なんだかスッゴイ豪邸で、驚きまくっていたら、こんな広い家にいつも1人でいるのだと。

 森野君のお父さんは、社長で多忙。お母さんは別荘に籠もり、油絵を描いているそうだ。家事全般はホームヘルパーの人がやるから、特に問題無いらしく。

「寂しくないの?」
「小さい頃からこの調子だったから。慣れた」

 お金持ちって大変なんだな。キョロキョロしたいところだけど、この家に2人きりだと思うと、妙に緊張してしまい。シアタールームの片隅で、ポツンと立ちすくむ。シュウちゃんとは2人きりでも平気だったのに、やっぱり年季が違うからかな。

「飲み物を持ってくる。観たいDVD、その棚から選んでおいてよ」
「はあい。お気遣いなく」

 大きなスクリーンの前に、1人掛け用の革張りソファが2つ。3人家族なのに『2つだけ』というところに、森野家の実情が滲み出ているような…。学校であんな社交的に振る舞っているのは、寂しい家庭環境の反動なんだろうか。勝手に同情し、軽く首を横に振る。

 当人はこの生活しか知らないんだから、勝手に『可哀想』などと思ってはダメ。家族から可愛がられているけど、学校では浮いてる私も、見る人が見れば不幸だ。でも、不幸かどうか決められるのは自分だけ。

 暗幕カーテンを開けているので、キラキラと陽光が差込み、眩しいくらいで。…へえ。DVD、たくさん有るなあ。アクションものが多いのかと思ったけど、意外に恋愛ものもタップリと揃っている。タイトルを見ながら、幾つか抜き取り、あらすじを確認していたら…

「翠!翠、どこにいる。返事しろ~」

 聞き覚えのある声がした。恐る恐るドアを開け、顔を出す。やはり、声の主はシュウちゃんで、なんだか少し怒ってるみたいだ。その背後には、森野君とトモも立っている。

「どうしたの?なんで2人がいるの?」

 私の質問に、誰も答えてくれない。結局、シアタールームに4人が集結し、ようやくトモが口を開く。

「翠には黙ってたけど私、森野君が好きなの。森野君は私のこと、何とも思っていないって分かってる。でも、この気持ち止められない」
 
 な、なんと?!シュウちゃんがそれに補足する。

「俺、ずっとトモちゃんから相談受けてたんだ。自分の気持ちを押し殺して、翠と森野を見守るトモちゃんが不憫で不憫で…。おいこら不細工、そんな本気じゃないんなら譲ってやれよな」

 ふ、ふぇ??そんなの初耳なんですけど。ほ、ほんとにトモちゃんが?森野君を??──哀し気に涙さえ浮かべるトモちゃんを、横目で見ながら私は言う。

「えっと、あの、森野君を好きで堪らないかと訊かれると、まあ、そこまででは無いというか」
「ちょ、ミドリ?!そりゃないよ。そんな簡単に別れるつもりか?」
「あ~、トモちゃん可哀想になあ」
「いいの、私は別にいいのよ、翠ちゃん…」

 な、何コレ??
 ああ、なんかもうゴチャゴチャなんですけど。
 …なんだろう。何かが、妙に引っ掛かる。

「あ、そうだ、思い出した!トモ、半年くらい前に言ってたよね?『同じクラスの瓜生君が好き』って。彼のことはもういいの?」

 あ…れ??
 なんだか目が泳いでるような。

「あれは、えっと、そう!『ウッ、リュウ君が好き』って言ったの。すなわち森野リュウノスケ君のことなんだよッ。紛らわしくて、ごめ~ん」

 やっぱり、ちょっと挙動不審。
 どうしたの、トモ。

 何か隠してるの??
 じ───っ。

 ひたすら無言でトモを見つめ続ける。彼女は素直なので、この攻撃に弱いのだ。すると、酸素が足りずに水面から口を出す金魚みたく、何やらパクパク言い出す。

「もうダメッ。ちょっと翠ちゃんこっち来てッ」

 シアタールームの隅っこに引っ張りこんで、彼女は私に耳打ちしてくる。

「…ね?でさ、…」

 無言で相槌を打つ私。なぜなら一切声を出すなとトモに言われたから。

「…よ。…なの」

 嘘!私を騙そうとしてるんでしょ?後で『なーんてね』って、笑うに決まってる。そう言いたげな私の表情を見て、トモちゃんが優しく首を横に振った。

「本当だよ。だから、頑張って」

 背中をトン、と押された気がする。だから、私はその勢いで、口を開く。

「…森野君、本当にごめんね。私、他に好きな人がいる。シュウちゃん、好き!大好き!!わ、私を彼女にしてくださいッ」

 興奮し過ぎて、汗がボタボタ落ちている。…かと思ったら、それは大粒の涙だった。あは、もう動けないや。コレで振られても、後悔しない。長年の片想いに終止符をつけ…って、本当につけられるのかなあ。

 こんなに好きなのに?
 ずっとずっと一緒にいたいのに?

 シュウちゃんがゆっくり近づいてくる。トモは『大丈夫』って言ってたけど、そんなの全然、信じられなくて。緊張して、両手をグーに握ったまま、立ち尽くしていると、耳元でこう言われた。

「やっと言ったな。どんだけ待たせるんだよ。
 このまま爺さんになっちゃうかと思ったぞ。

 仕方ない、彼女にしてやるよ。
 でも、いいか?翠。

 俺の彼女になるってことは、
 イコール、俺の嫁になるってことだから。
 絶対に離さないけど、いいんだな?」

 震える声で『はい』と答えると、シュウちゃんはズボンのポケットからハンカチに包んだ指輪を取り出し、私の左手薬指に、そっとそれを嵌めた…。
 
 
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